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噴出した問題

 この世界の夜は早い。ランドシャフトの閉店は10時。その後片付けをして店を出るのは11時だ。僕は、朝はのんびりできるが、リアフさんは家族の朝食を準備したり、洗濯したりで、本当に大変だ。

 ここに移転して村まで近くなったと言っても、40分以上はかかる。それも歩きだ。ずっと立ちっぱなしだし、この世界の人たちはタフだと思う。


 帰ろうと店を出たときだ。

「おい」

と声がかかった。声がしたほうを見ると、月明かりの下に数人の男がいる。

「この店の従業員だな」

「ああ、そうだ」

「悪いけど、ちょっと痛い目にあってもらうぞ」

 よく見ると、僕がこの世界に来たときに恐喝してきた獣人族の男たちだ。

「なぜだ?」

「それを知る必要はない」

 そう言って横に広がり、僕たちを取り囲もうとしてくる。


「後に下がって」

 リアフさんとセシリアを下がらせる。

「大丈夫?」

 セシリアは心配そうに言う。

「問題ない」


 僕は、 ਪਵਿੱਤਰ ਆਤਮਾ ਦੇ ਨਾਮ ਵਿੱਚ, ਮੈਨੂੰ ਪਾਣੀ ਦੀ ਸ਼ਕਤੀ ਪ੍ਰਦਾਨ ਕਰੋ. と唱えた。


 すると真ん中にいた男の口の中から水があふれ出した。

 男は、ゲボッゲボッと懸命に水を吐き出す。


「魔法?」

「ええ、ヴァイスさんに教えてもらって練習していたんだ」

 ヴァイスさんからの宿題で、水魔法の使い方を工夫していた。ただ水をかけても効果はない。といっても複雑な魔法を自分で構築することもまだできない。それで水の出現する場所を考えた。それを相手の口の中にすることで、息をできなくして体力も奪える。

「じゃあ、私も」

 リアフさんが呪文を唱えると、男の口の中の水が凍る。毎日氷を作っているので、レベルが高くなっていたようだ。

 男は、口の中にできた氷をなかなか吐き出せずにのたうち回っている。まわりの男たちが、何とか助けようと口をこじあける。

 その間に、僕は、男たちのまわりをファイアーボールで取り囲んだ。ヴァイスさんに教わったやり方だ。ファイアーボールは、それほど大きくはないが、これで男たちは逃げられない。


「あとは防衛隊に引き渡せばOKだ」

 僕がそう言うと、

「待ってくれ……。俺たちはただ頼まれただけだ……」

と言う。


「くそっ」

 一人の男が取り囲んでいるファイアーボールの一つに体当たりをする。防衛隊に捕まるよりは、と考えたのだろうか。


「うわああああ」

 大やけどをするが、それにもめげず、囲みを突っ切って逃げ出した。後の男もそれに続く。最後に、口の中の氷を吐き出した男がよろよろとしながら、囲みの切れたところから、逃げていった。

 追いかけても、かえって危険だろう。そのままにすることにした。


「それにしても、すごい魔法が使えるんだね」

 セシリアにそう言われて、少し鼻が高くなった。魔法を教わっていて本当によかったとも思った。

 明日にでも、クレバーやヴァイスさんに相談しなければ……。


*****


 翌日、もう一つ事件?があった。

 昼過ぎに開店の準備をしていると、何人かの男たちが店にやってきた。ドヤドヤと勝手に入ってくる。

「ここが、焼酎を販売している店か?」

 小柄だが、偉そうな男が聞いてきた。自分たちの名乗りもしない。

「ええ、そうですが。失礼ですがどちらさまで?」

「わしを知らんのか!」

と一喝するだけだ。

「すみません。存じ上げません」

「これだから、身分の低い奴らとは話をしたくないんだ。わしは、酒類販売公社の事務局のフッヒだ」

 知らないけど、知らないといったら面倒そうだ。事務局ということは、クルップ商会か。

「あのクルップ商会の方ですか?」

「馬鹿もん!あんな奴らと一緒にするな。わしはザラブ子爵家の執事じゃ。子爵様から、わざわざ頼まれて事務局をやっておる。それも知らんのか。これだから……」

 やはり面倒くさかった。

 〈鑑定〉で見ても、特筆するスキルは何もない。普通に仕事をしていれば、何かのスキルが上がるはずだ。それが無いというのは、働かないで、子爵の腰巾着しかしていないんだろうな。こいつもクズだ。


「それで、何のご用で」

「この店が焼酎を売っておるのに、公社を通しておらんそうじゃないか。あちこちの酒屋から苦情が来ておるぞ」

「しかし、この店は公爵様の許可もいただいて、公社に手数料を納める必要がないと……」

「公爵がなんだ。こっちは聖女様、王女様だぞ。どっちが上か、猿でもわかるだろう」

 いや、それはわかる。でも偉いのはお前じゃないんだけど……。”公爵がなんだ”なんて録音しておきたかったな。


 そういうやりとりをしていると、突然ドアが開いた。

「タク兄様いる?」

 入ってきたのは、アナ(アナスタージア)とグレタ(マルガレータ)だった。

 二人を見たセシリアは、思わず「かわいい!」


「なんだこの小娘は、仕事の邪魔だ。あっちへ行け」

と二人が店に入ろうとするのを遮り、押して、追い出そうともした。


 それを見た二人の執事兼護衛が飛んできた。

「無礼者!お二人は公爵様のご令嬢だぞ」

「えっ、公爵様の……」

 フッヒと名乗った男は、固まって動けない。まわりの男たちも同様だ。

「それで、この男が兄様と……」

「いえ、僕は、お二人の話し相手みたいなものなので、単なる平民ですよ」

と言ったが、何がなんだかと固まったまま動けないでいる。


「フッヒさん、先ほど“公爵がなんだ”とも言っていましたね」

「いや、その、……」

 フッヒは何も言えない。

「ここは公爵領だ。どこの何者かは知らないが、そんな無礼なことを言うとは。とにかくお嬢様にこんな無礼を働いて、我々と一緒に来てもらおう」

 そう言って、フッヒとその他の男たちは連れていかれしまった。


「アナとグレタは、どうしたんですか?」

 僕は膝を折って、目線を合わせて聞いた。

「タク兄様におやつをご馳走になりに来たの」

 二人は声を合わせて言う。ご馳走になることは彼女たちの中では、もう決定済みのようだ。

「よし、まかせて。そこに座って待っててくださいね」


 それから、セシリアとリアフさんにお願いして準備をしてもらった。

 できるまで僕はテーブルで、かぐや姫のお話をしてあげる。二人の目はキラキラとしている。ほんとうにかわいい。


 しばらくして、セシリアとリアフさんがかき氷をもってきた。リアフさんが作った氷に、シロップをかけ、たくさんのスライスした果物を飾り付けた。

「うわあ、冷たい」

「甘いね」

 二人は、初めて食べたかき氷に、笑顔で「美味しい」を連発している。


「みなさんもどうぞ」

と、お付きの侍女と執事の方々にもふるまった。みな初めて食べたから、驚きの表情だ。

 アナとグレタを囲んで、幸せな空間ができた。


「またね」

と元気な挨拶で、二人は公爵家の馬車に乗って帰っていった。


「マジ天使だったね。タクがいつも言っているのがわかったわ」

「タクが、いつもあの子たちを褒めているから、セシリアもちょっと妬いていたのよ。わかってもらってよかったね」

とリアフさん。セシリアが赤くなっている。


「まあ、でも助かったよ」


*******


 夜、ランドシャフトにクレバーとセラーが来てくれた。ヴァイスさんは、見回りで忙しいらしい。

 二人に、昨日の夜と今日の昼にあったことを話した。


「それで、これから行き来には村の人たちがついてくれることにもなったんだ。村で採れたものを使っていて貢献しているからと、村長さんが手配してくれたんだ」

「それで少しは安心できるな。それにしても魔法で撃退したとは……。よくやったな」

「ああ、ヴァイスさんのおかげだよ」


「ここに来る前に、ヴァイスのところにも寄ってきた。どうやらあちこちで問題が起きて、夜は保安隊だけでなく、防衛隊もかり出されているそうだ」

「問題?」

「ああ、一番多いのが、焼酎がないことへの客の不満らしい。一度あの味を知ると、もう前の酒には戻れない。それで夜になると、あちこちの店で客が”なんで焼酎がないんだ”と暴れるらしい」

「僕のところにも売ってほしいと、酒屋や飲み屋が毎日来ているよ。でも手数料が高くて赤字になると断るしかないんだ」

「本音は、あいつらに儲けさせたくないということもあるんだがな……」


「昨日の夜の連中は”頼まれただけ”と言ってたけど……。誰が頼んだんだろう」

「おそらく公社がらみだろう。お前達にケガをさせて店を休業にする。それで時間を稼ごうとでも思ったのだろう。それに失敗したから昼に公社の連中が来たんだろうな」

 自分たちの保身のために人を傷つける。なんてやつらだ。


「でも、これからどうする?このままでいいの?」

「それは……」


「おもしろそうな話をしているな」

 クレバーが言い始めたとき誰かが話に割り込んできた。顔を見ると、なんと公爵様だ。

「こっ、こうしゃ……」

 公爵様はクレバーの口を思い切り押さえた。

「しっ、内緒に。ここでは、そうだなKと呼んでくれ。タメ口でな」

「いや、でも、しかし……」

「命令だ」

「はい、わかりました」

「タ・メ・口・だ」

「ああ、わかった」


 公爵様は、髪はボサボサで帽子を深くかぶっている。服は、まわりの庶民と同じようで、それよりもさらに汚れている。誰も公爵様と思わないだろう。

「この服に着替えた後、庭で転がったんだ」

と驚く僕たちを見て楽しそうに笑った。


「タク、今日は娘たちが世話になったな。わがままで大変だったろう」

「いえいえ、いいタイミングで、僕たちも助かりましたよ」

「そう言ってもらえるならよかった。これからも頼むな」

「ええ、おまかせください」

「タ・メ・口・だ」

 僕には、うなずくだけしかできない。


「今日、娘に無礼を働いた公社の連中が屋敷に連れてこられた。最初は平謝りだったよ。それから酒については、いろいろと言い分もあるようで、こちらの焼酎を販売してほしいと懇願されたよ」

 今は、形の上では蒸留所は公爵様の経営になっている。それで公爵様に懇願したのだろう。


「それで?」

「うーん、手数料なしならいくらでも売るよ、と答えておいた。やつらは帰って相談すると言ってたけど、まあ無理だろうな」

「確かに、焼酎が販売されるとほとんどの酒は焼酎になるだろうからな。手数料をとれるのは葡萄酒だけになってしまうはずだ。それじゃあほとんどうま味はなくなる」

「たぶん、手数料の減額で提案してくると思うよ」

 公爵様の印象ではそうらしい。


「あと、子爵には厳重な抗議の文書を送っておいたから、明日にでも謝罪に来るだろうな。そのとき、もう一度話をするよ。実際に、国民の不満は大きくなってきている。国としても放ってはおけないだろう。ヘルマンも宰相から相談を受けているそうだ」

「確かにそうですね。俺たちの縄張り争いみたいなことで、国民に嫌な思いをさせたくもない。ボスもそう思っているようだ」

「ミヒャエルなら、そう考えるよな」


「それでどうすれば?」

「メサリーナをこっち側にすればいいじゃない」

「メサリーナって、聖女様ですよね」

「ああ、あいつをこっち側にすれば、うまく治まるんじゃないかな」


 公爵様がとんでもないことを言い出した。



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