公爵家にて
公爵家訪問の日の昼前にランドシャフトで昼食の準備をしていた。
リアフさんは、家族と昼食をとってくるから、セシリアと二人だ。
「お父さんはどう?」
「毎日真面目に働いてるよ。ホント、タクのおかげだよ」
「よかった……。また店に招待しなよ。僕もヨネさんや村長さんを招待しようと思っているから一緒にどう?」
「ええ、いいわね。帰ったら言ってみるわ」
ここのところ忙しくてゆっくりと話もできていなかったから、久しぶりに話ができるのはうれしい。なんかほのぼのとして良い感じだ。
ところが残念なことに、バタンとドアが開いて、バルドリアンが入ってきた。
「えっ、どうしたんですか?」
「迎えにきたんだよ」
「つかいの者というのは……」
「俺だよ」
とドヤ顔。
「どなたですか」
セシリアが聞いたとき、バルトリアンは口に人差し指をあてた。黙っていてということだろう。
「ああ、公爵家のつかいの方だよ」
「そうですか。ご苦労様です」
「お昼は、まだやってないの?昼食もここで食べようと思っていたんだけど……」
「まだ開店前ですが、せっかくなので何か準備しますね」
とセシリアは厨房へ向かった。
「敬語はなしね。タメ口で話してくれるかな」
「でも……」
「気にしないで。そのほうが俺としても助かるんだ。公爵領でも俺の顔を知ってるのはわずかなんだ。敬語を使われると面倒なんだよな。クレバーもそうしてくれてる」
「バルトリアン様がよければ……」
「いいと言ってるだろ。特に、”様”は絶対止めてくれよ。俺もタクと呼ぶからな」
「ああ……、わかった……」
まだまだ、かなりぎこちない。
セシリアが昼食を用意してきた。
村の特産になっている米を使った、野菜たっぷりチャーハンだ。
「何これ?見たことないけど」
「チャーハンといって、まあ食べてみてくだ……、くれ」
バルトリアンは、一口食べて
「美味いな。初めての味だ」
「そう言ってもらってよかった。これから夜に出そうかと思っての試作品なので……、なんだ」
「うん、これは夜に出したらいいよ」
それを聞いてセシリアもうれしそうだ。料理は、いつも僕が適当に伝えたのをセシリアがうまくアレンジしてくれている。そして僕の想像以上に美味しくしてくれる。
食べ終わって、二人で公爵邸に向かった。馬車を用意してくれたが、公爵家の馬車でなく、普通の馬車、前の世界でのタクシーみたいなものだった。やはり目立ちたくはない。
公爵邸では、前と同じ部屋に通された。部屋に入ってビックリ。公爵様だけでなく、たくさんの人がいる。
「よく来てくれた。ちょっと紹介するね。妻のマリーアだ」
公爵の隣いた女性が軽く会釈をした。美人だ。美魔女と言ったほうがいいかもしれない。
「僕は、長男のヘルマンだ。宰相の補佐をしている」
「僕は、次男のルドルフ。騎士団に入ったばかりだ」
「アヒレスはもう知っているな」
とバルトリアンを紹介される。
「バルトリアンというのは?」
「それは屋敷の外での名だ」
なるほど。
「それから娘たちだ。長女のアマーリエ、10歳だ。そして双子のアナスタージアとマルガレータは8歳」
三人がそろって挨拶をしてくれる。無茶苦茶かわいい。天使だ。
みな聖女様の従姉妹にもなるから、美人なのは納得だった。
その家族全員の8人、そして後には5人の執事?、5人の侍女が控えている。そのみんなに話をするのは、まるで授業のような感じになっている。
「それでどんな話をすればよろしいですか?」
「何でもかまわないが……、そうだな、君のいた世界にあって、この世界に無いものを紹介してくれ」
そう言われて、少し考えた。せっかくなので、驚くような話がいいだろう。
「それじゃあ、まず私がいた世界では、空を飛ぶ乗り物があります」
「それは魔法か?」
「いえ、魔法ではありません。例えば……、何か紙はありますか?」
執事らしい人が、すぐに手渡してくれた。それを僕は手早く折って紙飛行機をつくる。
「見ててください」
そう言って投げた紙飛行機は、すーっと家族の上を飛び、部屋の一番奥の壁に当たった。うまく飛んでくれた。みな驚いている。一人の侍女が目を大きく見開き、口を開けたままで、その驚き方に笑いそうにもなってしまった。
「すごーい」
双子の姉妹が、紙飛行機を追っていき、それを拾ってとりあっている。
「大丈夫ですよ。いっぱい作りますから……」
僕がそう言うと、天使のような笑顔を向けてくれた。
「私の世界では”飛行機”と言っていました。大きいもので、500人くらいが乗れます」
それを聞いてみなが驚きで顔を見合う。頭の中では何十台もの馬車が飛んでいるようなイメージなのだろう。
「空を飛ぶので、海を越えた遠くの国などへ行くときに利用します」
「ほう、すごいな。それじゃあ、その飛行機を作れるのか?」
「いえ、それは無理です。作るには軽くて丈夫な素材が必要です。おそらくこの世界では開発されてないと思います。それにそれを飛ばす動力も必要です。そのほか精密な部品をつくる技術も必要でしょう。私は、知っているだけで、それをつくる技術もありません」
「そうか、残念だな。でもおもしろい」
次男のルドルフが、双子から紙飛行機を借りて、いろいろと見ている。
「それに、あの月へも行きました」
「月?あの月か?」
「この世界の月は、私のいた世界の月とは違うかもしれませんが、行きました」
だんだんと信じられない、というような顔をしている。ほら吹きと思われたらどうしようかと心配にもなってきた。
それから僕は、テレビや電話などの話もした。話だけではあまりピンとはこなかったようだが、紙飛行機で、嘘ではないと思ってもらえたようだ。
その日は、2時間、僕の前にいた世界、いわゆる現代の地球、日本についてダラダラととりとめもなく話をした。
これから、週二回は来てほしいという。特に公爵様よりも、天使な娘たちからのお願いだった。もう、これは断れない。
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次の訪問では、糸電話を作ってもっていった。これもみな驚いてくれた。たくさんつくったので、娘たち全員に配ったら早速遊んでいた。
今回は、全員ではなく公爵夫妻と娘だけだった。息子たちはみな仕事や学校があるとのことだった。
勝手もわかってきたので、準備もできて、カバンの中に入っていた生物や化学、世界史の教科書ももっていった。
教科書を見せても日本語の文字は読めない(僕は、両方の文字が読めるようになっていた)。世界史の教科書には人類の月到達の写真もあったので、嘘ではないと思ってもらえたようだ。そうした写真を見せて、飛行機やテレビ、人々の暮らしについてもう一度説明をした。
公爵様は、教科書の戦争関係の写真を見たとき、文字はわからないけどおそらく戦争だと理解したのだろう。悲しそうな顔をしていた。
公爵様と三人の娘だけということもあった。
三人は僕に懐いてくれて、「タク兄様」と呼んでくれる。もうかわいくてしょうがない。
そういうときは、シンデレラや白雪姫などの女の子向けの童話を話してあげた。目をキラキラさせて聞いている。
話を聞いた公爵様は、すぐに執事たちに記録するように指示した。
「本にして出版しよう」
と言われるのだ。この世界は、子ども向けの本はほとんどない。文字が読めない子どもが多いためでもある。
「本を通して、子どもに文字に触れてほしいんだ」
公爵様は、微笑みながらそう言う。
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酒類販売公社が活動をはじめて一カ月ほど経った。
公爵領へ移転して、店も蒸留所も順調だった。
大きなトラブルも無いようだったが、その実、あちこちで小さな火種が燻っているのだった。
それが少しずつ噴き出してきた。




