異世界召喚をするクズ
それが起きたのは学校の帰りだった。
歩いていると、足下に大きな光の輪ができた。
(これは……、マンガで見た魔法陣?)
光の輪から発せられた光が大きくなり、僕をつつんだ。
音が消えた。
「成功だ!」
その声で、僕は我に返った。
まわりを見ると、大きな石造りの部屋の中央にいる。
白い髭を伸ばした数名の老人に囲まれていた。みなうれしそうにしている。
「言葉はわかるか?」
僕はうなずいた。
「おお、よかった。そなたは、住んでいた世界から、この世界への召喚されたのだ」
(異世界召喚?本当にあるのか……。もう家も学校も嫌だったから、それはうれしいかも……)
そのとき、
「成功したのだな!」
いかにも偉そうな若者が入ってきた。
「王子、お喜びください。35年ぶりに異世界からの召喚が成功しました」
老人達は、その王子と呼ばれた若者の前にひざまずいて頭を下げた。
その王子は、僕を見るなり、
「男ではないか!若い女を呼べと申しただろう」
そう言うと、腰の刀を抜いて、目の前の老人を切り捨ててしまった。
「ああ、なんということを。老師がいないと、もう異世界召喚はできません」
「えっ、そうなのか?」
「はい、老師が長年の研究を重ねて、ようやく召喚の魔術を再現できたのです」
「ほかのものはできないのか?」
老人達は、だまって首を横にふる。
「そうか……。異世界の女は美人が多いと聞いていたから、性奴隷にしたかったのに……。召喚されたのが男だったので、ついかっとなってしまった。悪かったな」
僕は、何も言えずに、このやりとりを見ていた。
目の前で、人が斬られても、現実感がない。映画のワンシーンを見ているようだ。
でも、確実に分かったことがある。
〈こいつもクズだ!〉
「なんとかならんのか。本当にもう召喚はできないのか?」
「時間をいただければ、必ず再現してみます」
「どれくらいだ。明日か、明後日か?」
「最低数年の時間がなければ……。老師が亡くなられ、最初から研究をしなければなりません」
それを聞いた王子は、怒り心頭で、また刀に手をかけた。
たじろく老人達。ジリジリと後ろに下がる。
「王子!おやめください」
まわりにいて兵士たちに止められ、真っ赤な顔のまま出て行ってしまった。
*****
老人達は、ぐったりと床に座り込んだ。
「あのお……」
一人の老人が僕を見た。
「僕はどうすれば?」
「ああ、もうどこへでも好きに行くがよい。ただし、元の世界には戻れないがな」
「ここは、どこで、どこへ行けば……」
老人達からは返事もない。切られた老師と呼ばれた人物の周りでうなだれている。
(しょうがないな。とにかくここから出よう)
僕は、落ちていたカバンを拾って、王子が出て行った出口から部屋の外に出た。
建物は大きく、長い廊下が延びている。その向こうに光が見える。そこから外に出られるのだろう。
廊下を歩きながらまわりを見る。以前テレビで見たイギリスの大きな教会のようだ。
石造りで、天井も高い。
文化もそこそこ高そうだった。
あの勝手で、クズな王子に復讐をしたい。
そう思った。
僕がいた世界よりも文化は低い、なんとかできそうな気もする。
原爆でもつくってぶっとばしたい。そう思ったが、理屈は知っていても、実際には造れない。
そもそも、僕に人を殺すということができるのか?
でも、あの王子だけはなんとかしたいな。そんなことを考えながら長い廊下を歩いた。
誤字報告くださった方ありがとうございました。