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盲点

 セラーは、焼酎を販売している飲食店に、1日から焼酎の製造をとりやめることを伝えた。

 当然、反発は大きかった。

「仕入れの酒に20%の手数料をかけられて、販売にも手数料がかかる。これではやっていけない」

と説得して回った。

 それでも、なかなか納得は得られない。でもそうするしかない。


 ランドシャフトは、1日から場所を変えて営業することとなった。

 前日は、大忙しだった。

 人手が足りないので、クレバーの部下たちも引っ越しを手伝ってくれた。顔は怖いが、力がある連中だ。カンさんとリアフさんの指示で、テキパキと作業を進めていく。

 

 あの酒類販売公社の取り決めには盲点があった。それは、通用するのは王家の直轄地についてだけだということだ。

 この街は王家の直轄だ。そのほか王都、王家の領地が対象になる。それだけでも手数料は莫大になるだろう。

 王家以外の貴族は、それぞれ自治権をもっており、酒類販売公社の決めたことに従う必要はなかった。


 そこで、ランドシャフトを街に隣接した公爵領に移転したのだ。

 街の周囲には、いくつもの貴族の領地が広がっていた。僕たちの村があるのもウォルター子爵の領地だ。

 だから村で焼酎を製造しても問題ないはずだが、ウォルター子爵は長いものにまかれるタイプだから、おそらく聖女が名誉総裁をしている公社の言いなりになるだろう。

 それで公爵領にしたのだ。


 新しい店は、街と公爵領の境界のあたりにあった建物を使った。今までの店から歩いて20分ほどの距離で、僕らの村の方にも近づくので通いやすくもなる。

 飲み屋が集中する前の店とは違うが、僕がいた世界で言うなら、国道沿いのファミレスのような場所にある。街と公爵領を行き来する人も多いから、きっと客は多いだろう。

 2週間の突貫工事で、とりあえず店の体裁は整えて、再開にこぎつけた。


「タク、ちょっと来てくれ」

 クレバーから声がかかった。

「いいよ」

とついていくと、大きな屋敷に連れてかれた。公爵の別宅という(本宅は、王都にあるらしい)。


 屋敷の入り口で大柄なおじさんも待っていた。

「ボスだ」

と紹介された。

 僕はヤクザやマフィアのボスのイメージでいたが、ただの人の良いおじさんにしか見えない。

「ミヒャエル・ハンゼだ。クレバーから話はいろいろと聞いているよ。おっと、できれば〈鑑定〉はかんべんしてくれよな。今まで悪いこともしてきたからな……」

と笑いながら言う。笑顔も悪い人には見えない。

「それと、これから会う人もな」

と目配せをした。

 僕は、黙ってうなずいた。たぶん公爵だろうから、ものすごく緊張してきた。


 クレバーが玄関で訪問をつげると、身なりのきちんとした人が現れて案内してくれた。

 通された部屋は、学校の教室、いやそれよりも広く、天井が高い。家具もいかにも高級そうだ。ソファも綺麗すぎて座るのがためらわれる。


 しばらくしてガチャリとドアが開いて二人の紳士が入ってきた。なんと一人はあのバルドリアンだ。

 ボスとクレバーは、サッと立ち上がって頭を下げる。僕も慌てて真似をした。

「気楽にな。ミヒャエルもいつものようにしろよ」

「この屋敷では、どうしてもこうなるな」

とボスは笑う。どうやら仲がいいらしい。


「いろいろとありがとうございました」

 クレバーが礼を言う。

「どういたしまして……だ。まあ気にするな。それで彼が?」

「ええ」

 全員の視線が僕に向いた。何だ。何があるのだ。


「ランドシャフトの移転、蒸留所の公爵様の領地での再開、そのほかいろいろとお骨折りいただいた。その条件がタクなんだ」

 ええっ、なぜ、僕は驚くしかない。

「召喚者なんだって。いろいろと話をきかせてもらいたいんだ」

 公爵は、興味津々という顔で言う。

「公爵は、変わったこと、面白いことが大好きでな、そういう話を集めていたりもするんだ。それで君に話を聞きたいと」

 ボスが、補足した。

「そういうことなら。ただ、僕の話でもいいんですか?」

「それは聞いてからだけど、今まで何度か召喚者の話を聞いたが、どれもおもしろかったよ。領地の経営に役立てたこともあるし……」

「わかりました。いつでもお声がけください」

「ああ、使いの者をよこすから、頼んだぞ」

 僕は頭を下げた。


 ボスは、公爵と話があるということで、クレバーと二人で屋敷を後にした。


 クレバーの話によると、公爵はカッツェシュタイン公と言い、王様の従兄弟になるらしい。公爵の父親が前王の弟で王位を継承せずに貴族に降ったそうだ。奥さんが王妃と姉妹だから、聖女は姪にもなる。この国の5本の指に入る実力者だという。

 ハンゼ商会の金主でもあり、ボスの遊び仲間でもある。貴族らしい暮らしが大嫌いで、趣味と遊びに生きるタイプだそうだ。


 バルドリアンは三男だ。

「追放されたんじゃないの?」

「ああ、三日に一度は追放されているみたいだな」

 クレバーはそう言って笑った。バルドリアンも貴族の暮らしは好きじゃないので、追放されたと言って、街で遊んでいるらしい。


********


 ランドシャフトが再開した。

 街からも近いので、前の常連さん、防衛隊のメンバーも顔を出してくれた。


 再開して三日目、その日も混雑していた。

「二人だけど」

と身なりの良い紳士が入ってきた。その二人を見て、僕は固まった。公爵とバルドリアンだ。

「席は、あちらをお使いください。そしてこちらで注文を……」

「わかってるよ」

 そう言われて思いだした。前のランドシャフトにも来て頂いたことがあったのだ。客はすべて鑑定していたから、とんでもない人が来たと、そのときは思っていたのだった。まさか公爵だったとは……。

「大丈夫なんですか?ここは領地では?」

「ああ、大丈夫だ。今いる客は、全部使用人だ」

とまわりを見渡した。

「なんと、ありがとうございます」

「気にするな。まず酒とハンバーグ、フライドポテトを二人前な」


 注文をセシリアに伝えたが、みなには公爵と言うことは黙っておこう。緊張しすぎるのもよくないだろう。


 公爵は、まわりの客と(といっても使用人たちだが)、気さくに話をしている。侍女の一人の婚約が決まったと聞いて、

「お祝いだ!」

と酒と料理を大量に追加もした。本当に良い人みたいだ。


「あまり長居しては他の客も入れないからな」

と1時間ほどで席を立った。

「それで、明後日だけど時間をとれるかな」

「大丈夫です」

「よかった。それじゃあ昼過ぎに使いをよこすから頼むな。楽しみにしているぞ」

 ものすごいプレッシャーだ。でも、命令するのでもなく、僕の都合も聞いてくれる、そんなところにもやさしさを感じる。なんとかがんばろう、そう思った。


 そして、この公爵が、事態を大きく変えるのだった。


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