本当の狙い
グレイソンが抱えていた5千万円は、詐欺の被害者に返すようにした。ヴァイスがリストを作ってくれて、それを元にカンさんとセラーが協力して、匿名からの寄付として被害者に配って回った。
協力してくれたバルドリアンに報酬を渡してもかなりの金額が余った。それをクレバーのハンゼ商会のものとした。
これで、日常に戻るかとも思った。
そんなとき、酒を提供する店、酒を販売する店の者は、広場に集まるようにと役人が触れてまわった。僕が最初に召喚された教会のような建物の前の広場だ。
行ってみると、すでに数百人の人でごった返していた。セラーもいる。
酒を出すのは飲み屋だけではない。いろいろな店がある。それを販売する店もある。かなりの人数になっていた。
前の方の、小さな舞台のようなところに、聖女の絵姿が飾られた。大きなもので、写真のように忠実に描かれていた。見た目は本当に美人だ。
その前に、一人の男がでてきて、注目を集めるために”パン”と大きく手を打った。
「今日、集まってもらったのはほかでもない。先の詐欺事件で王女様は心を痛められ、このようなことがないようにとおっしゃられた。そこで我々は、酒類販売公社をつくり、酒の販売を管理して詐欺師を排除することとした。詳細はここに書いてある。これを実行するのは来月1日からだ。それまで準備をすすめるように」
と大きな掲示板を立ち上げた。そこには何枚かの紙が貼られていた。
まわりがざわついた。
掲示板に貼られた紙を見ると、醸造業者からの酒はすべて酒類販売公社が買い入れ、そこから酒屋、飲み屋へとまわされていくように書かれていた。そして醸造業者からの買い入れ価格、酒屋、飲み屋への販売価格は公社が決定できるとなっていた。
確かに詐欺師が入り込む隙はなさそうだ。
そして公社のメンバーに驚かされることになった。
公社の名誉総裁はメサリーナ・バートリ王女。聖女だ。そして社長がザラブ子爵となっている。そして事務局が、あのクルップ商会だ。
「さすがに聖女様だ。これで詐欺にあう心配もなくなるな」
といった声も聞こえてくる。聖女がかかわっているとあって、誰も反対はしない。むしろ感嘆の声が多い。
それでいいのか?と思っていたとき、肩をポンと叩かれた。
振り返るとクレバーだ。セラーもいる。
何も言わず、向こうへ行こうと目配せをしてきた。
三人で路地に入る。誰もいないのを確認して、クレバーが口を開いた。
「やられた……。最初から狙いはこれだったんだ」
「どういうこと?」
「おそらくだが、元々、酒の販売を独占しようと企んで準備をしていたのだと思う。その口実のために詐欺師を使ったんだ。詐欺師が捕まろうが関係ない。詐欺の事件があったということだけが必要だったんだ。詐欺の撲滅を名目にして、酒の販売を管理しようということだろう。それをねらっていたんだ」
「じゃあ、ランドシャフトの開店とか、焼酎の販売とかは?」
「関係ない。ただ、それで飲み屋が混乱して、詐欺がやりやすくなったということだけだろう」
「じゃあ、聖女たちの手助けをしたようなことだったんですね」
「ああ、結果としてそうなった」
「これからどうする?」
「来月の1日まで2週間ある。まずセラーは、ギリギリまで焼酎をつくって売りまくってくれ。1日を過ぎるといったん休業する。クルップ商会に儲けさせるわけにはいかないからな」
「僕は?」
「タクは、ギリギリまでランドシャフトを続けてくれ。それからのことは、1日まで準備する」
「わかった」
クレバーには、何か考えがあるようだ。彼にまかせるのが一番だ。
*******
数日後、また広場の掲示板に酒類販売公社からの通知が貼り出された。
それにはこう書かれていた。
「酒の流通については今まで通り、醸造所から酒屋、飲食店へ流通させること。その際の手続きとして酒類販売公社が買い上げたこととするため、公社指定の用紙で売上を記録すること。販売ごとに手数料として20%を公社に支払うこと。手数料は販売価格に上乗せしてもかまわない。ただし高額になる場合は、公社が価格を決めることができる」
醸造所から酒屋、飲み屋への流通は今まで通りだが、形の上で公社がいったん買い上げたことにする。別に公社の倉庫に入れるとか、公社が運ぶとか、そういうことはない。書類だけが公社を通り過ぎるのだ。
つまりは、公社は何もしないで、20%の手数料が入ってくる仕組みだ。
これだと、僕たちのように、醸造所から酒を仕入れ、蒸留して焼酎にして酒屋に売る場合は、形の上では、次の流れになる。
醸造所→公社→蒸留所→公社→酒屋、飲み屋
そして、公社が2回入るので、44%の手数料がとられることにもなる。
それはお客向けの値段が高くなるだけでなく、やつらを儲けさせることにもつながる。
「明らかに、俺たちを狙っているな」
掲示板を見ながらクレバーがつぶやいた。
「どうする」
「心配するな。準備は着々進んでいる」
クレバーはそう言って笑った。余裕も感じられる。勝算があるのだろう。
そしてそのおかげで、とんでもない人物が現れるのだった。




