詐欺返し
「準備ができたぞ。悪いけどまた来てくれ」
クレバーが店に来た。
「ああ、問題ない。それでいつ?」
「明日からだけど、下手すると長引くかもしれない」
「わかった。そのつもりで店の方も準備しておく」
「ボスは、どう言ってたの?」
「好きにやれって。あの詐欺師にはボスも怒っているし、クルップ商会が絡んでいるとなるとなおさらだ」
******
翌日、二人でザラブ子爵領へと向かった。
子爵領では、まずつなぎの男に会う。すでにクレバーが買収済みだ。
と言っても、こちらに寝返らせるなんてできない。ただ、グレイソンを見かけたら伝言してくれと金を握らせて頼んだだけだ。これならば、ザラブ子爵に何かバレるわけでもない。
「ああ、昨日会ったよ」
つなぎの男は言った。
「伝言を伝えたら、かなり焦っている様子だった」
「ありがとう。これは残りの金だ」
クレバーは上機嫌で、つなぎの男に金を渡した。
子爵領には、三日ほど滞在した。その間、特にすることはなかった。
僕は、こっそりと魔法の練習をするだけだった。
「よし行くぞ」
三日目にクレバーに連れられて宿を出た。どこに行くのだろうか。
街の外れまで来ると、馬車が待っていた。乗り込むと、貴族の子弟のような若者がいる。
「彼はバルドリアン。公爵家の子息だ。もちろん本名ではないがな」
「えっ」
貴族、しかも公爵と言えば最上位だ。初めてのことで、どうしていいかわからない。
「と言っても……、放蕩が過ぎて家を追放されているがな」
そう言われてバルドリアンもニヤニヤしているだけだ。何も言わない。
「それで、いつもの通り、グレイソンが嘘をついてるかどうかを離れたところから見ていてくれ」
「わかった。それならお安いご用だ」
着いたところは、ザラブ子爵の庭園だった。屋敷からは離れているが、環境のいいこの場所に庭園を造っていた。
本来なら入り口で止められるところだろうが、バルドリアンが現れると、何の確認もなく通してくれた。
「後から、客が来るから……」
「わかりました」
門番は、頭を下げた。
僕たちは、庭園の一角にあるテーブルに案内された。僕は従者のふりをして、一歩下がったところに立つ。
座ってすぐにグレイソンが案内されてきた。キツネ目の狡猾そうな男だ。
「本日は……」
バルドリアンは、グレイソンが挨拶しようとするのを手で遮った。
「こちらはカッツェシュタイン公爵家の三男のバルドリアン様です。堅苦しいことは不要です。どうぞお座りください」
話はクレバーが進めていくようだ。
「それで、力を貸してほしいと?」
「はい、お恥ずかしい話ですが、なんとか助けていただけないでしょうか」
「子爵様でも難しい話だとか」
「おそらくそうでしょう」
バルドリアンがクレバーに何かを耳打ちした。
「それでは、今後についてあなたには三つの道があります。一つは、今回の件であなたが得たすべてを、公爵家の財団に寄付して頂くことです。世のため人のために活用されるわけですから、あなたも善行を積んだことにもなります。誰も手を出すことはありません。もう一つは、財団の一員として活動して頂くことです。あなたが何をしても財団が守ります。そのためには入団金として5千万円が必要です。そのうちの3千万は預かり金ですので、退団時に返却されます。財団を裏切らないための保証金のようなものですね。そして最後は、何もしないことです。その結果は、我々は一切関知しません。いかがいたしますか?」
グレイソンはうつむいている。考えているのだろう。
「二番の場合は、本当に何をしてもよいのですか?」
「何をといっても、さすがに王家に手出しはだめですね。伯爵以下なら、たとえ貴族であっても、財団メンバーに手出しはできません。侯爵ならば、相談次第です。公爵のお墨付きで、しかも世のため人のために働いているわけですから……」
「それでは二番目でお願いします」
クレバーはバルドリアンを見る。バルドリアンは黙ってうなずいた。
僕の方を見たが、グレイソンはずっと青いままだったので、サインでそれを伝えた。
「それじゃあ、来週、ここにお金を持ってきてください。財団の団員証を用意しておきます」
「承知しました。ありがとうございます」
グレイソンは、立ち上がって思い切り頭を下げた。
バルドリアンも立ち上がって手を差し出し、二人はがっちりと握手をした。
グレイソンは、たぶん貴族と直接話をしたことは初めてだろう。それなのに握手までとは……。見ると、感激でむせび泣きしそうになっていた。
「うまくいったな」
帰りの馬車で、笑いながらクレバーが言う。
「ほんとだね。詐欺師に詐欺をかけるって……」
「ああ、こいつのおかげでもあるからな。さすが元貴族だ。泣いて喜んでいたじゃないか」
「そうそう、笑っちゃいそうになったよ。あのときは……」
バルドリアンも大笑いだ。
「でも、あのつなぎの男から何を伝えてもらったの?」
「それは、詐欺師同士の暗号があるんだ。お前が指名手配されそうだぞ、という暗号を伝えてもらって、助かりたければあの日にザラブ子爵の庭園までこいとな」
「暗号?」
「そう、この間の詐欺師に聞いていたやつだ。詐欺師しかしらない。だから信用もしたし、あれだけ焦ったんだろう」
「そういうことか」
「ああ、そして場所は貴族の庭園。対応するのは元貴族のご子息。まあ信じてくれたな」
「庭園の人たちも買収したの?」
「そんな必要はないよ。彼等は、身なりだけでしか判断しない。いかにも貴族様がくれば黙って通してくれるもんだよ。もし対応を間違えたら首が飛ぶもん。だったら黙って通すよ」
「それで、来週お金を受け取って、あいつはどうするの」
「受け取るも何も……、まあ見てな」
そんな話をしながら、馬車は宿へと走って行く。
******
翌週、グレイソンが5千万という大金を抱えて、馬車でザラブ子爵の庭園へ向かっていた。庭園までは草原の中の一本道。問題はないはずだった。
もうすぐ庭園だというとき、突然男たちが現れて馬車が取り囲まれた。男たちは何も言わない。ただ黙って剣を抜いた。
グレイソンは、金の入ったカバンを強く抱きしめた。
「ちくしょう……。なぜ……?」
ひときわ大きな男がグレイソンを馬車から引きずり出し、思い切り殴った。
ということがあって、グレイソンがここにいる。
ここはハンゼ商会の例の屋敷だ。
目を覚ましたグレイソンは、両手を後で縛られ、椅子に座らされていた。
クレバーとハカセ、そして僕は一歩下がったところにいた。
「目を覚ましたようだな」
「ここは?」
「お前が知る必要はない」
「そんなことを言っていいのか。俺は公爵の……、あっ、お前はあの……」
「そうだ。公爵も真っ赤な偽者……かな。お前は騙されたんだよ。詐欺師のお前がな。騙された気分はどうだ?」
グレイソンは、きっと唇をかんだ。
「俺を殺すのか?」
「それはお前次第だ。どっちみち、奴隷にして、どこかの地下で一生働くことになる。そのとき五体満足なのか、指か腕か、それとも足がないのか、どっちがいいか選ばせてやる」
「わ……、わかった……。なんでも言ってくれ」
「嘘はだめだぞ。こっちには嘘がわかるスキルがあるんだからな」
グレイソンは驚いて、思い切り開いた眼で僕を見た。
「まず、今回の詐欺は、誰から依頼されたのだ」
「依頼というか、詐欺師の長老から、絶対に捕まらない仕事だと言うことだけ聞いた。特に依頼があったとは聞いていない」
「その長老は、どことつながりがある?」
「やはりザラブ子爵だ。それ以外は思いつかない……」
「嘘は言ってません」
「それじゃあ、お前の想像でいい。なんでこの話が出たのだと思う?」
「たぶん……、 ”酒”だ。ザラブ子爵は、自分の領地に醸造所をつくるつもりでいた。それの邪魔になると思ったんじゃないのか」
「それにしても早かったな。こちらの店が開店してすぐだったじゃないか」
「これも想像だけど。ある商会の邪魔をしたいやつらがいて、その連中が子爵をそそのかしたみたいだ。ずっと前からその商会は噂になっていた。商会を引っかけたやつには賞金を出すとも……。それで俺はすぐに動いたんだ。他のやつらにとられたくないからな」
「やっぱりそうか……」
「あとはまかせた」
そう言ってクレバーは出て行った。
しかし、事件の背景はそれだけではなかったのだ。まさかの聖女様が……




