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想像以上のクズだった

 聖女が来た翌日にクレバーから声がかかった。

「一緒に来てくれ」

 例の詐欺師が落ちたという。


 僕は、クレバーに連れられて監禁しているという建物に向かった。

 郊外にある頑丈な石造りの屋敷だった。まわりは塀に囲まれている。クレバーの組織の拠点の1つだそうだ。がっしりと何者も寄せ付けないような入り口の威圧感が半端ではない。

 そこの地下室に詐欺師の男が閉じ込められているという。


 僕たちが着くと、男は1階にある明るい部屋に連れてこられた。

 それまで真っ暗な中にいたせいか、目をショボショボとさせてまぶしそうにまわりをみた。

 痩せこけて、憔悴しきったように見える。五体は満足なんだろうが、自分で自由な判断ができないほど精神を破壊されていた。

 必要なことの大部分は、もう話しているが、それが嘘でないかを僕に判断してほしいという。

 僕は、うなずいてそれを承諾した。


 両手を後ろで縛られて椅子に座らされた詐欺師の男の横には、大柄な男が立っていた。この男が拷問のプロで、ハカセと呼ばれていた。吐かせるのが仕事だからハカセなのだそうだ。


 まず〈鑑定〉で見ると、〈交渉A〉と〈虚言B〉が際立っていた。この二つで詐欺を働くのだろう。〈虚言〉については、聖女のほうがレベルが上ということに気づいて、笑いそうにもなった。

 詐欺師のスキルについては、クレバーに耳打ちした。


 それからハカセが尋問していく。それについて僕が嘘でなければうなずいて、嘘ならば首を横に振る。実際には、首を横に振ることはなかった。詐欺師はずっと青く光り、嘘をついていなかったのだ。


 ただ、次々に吐かれる言葉は、およそ人とは思えないものだった。

 弱い立場の人から騙して金を毟り取る。

 騙された人を助けるふりをして、さらに金を毟り取る。


 一番多かったのは、仕事を手伝ったりして信用を得る。その後に「代わりに買ってきてやるよ」とお金を預かって、トンズラするという手口だ。

「教会の神父になりすまして、”悪魔が憑いている”と言って財産を寄贈させたのも結構やったな」

 最初はおどおどしていたが、慣れてきたのか饒舌にもなり、手口を自慢げに話しだした。

「年寄りは、お人好しが多いから簡単だったよ」

 悪びれることもなく、そう言い放つ。

 想像以上のクズだ。

「だまされるほうが悪いんだ……」

 とも言った。


「俺たちも悪いことをしてきたが、これはあまりにも酷いな……」

 クレバーですらそう感じる。


 詐欺師が話したことをまとめると次のようになった。


・今回の詐欺は詐欺仲間の長老格から”うまい話”として伝えられた。

・”捕まることはない”、ということも言われた。

・長老に依頼したのは誰だかはわからない。

・フランソワさんや街の飲み屋に詐欺を働いたのは、グレイソンという男で、老人ばかりをねらう詐欺師だ。

・グレイソンは王都の詐欺師の集まる飲み屋に時々現れる。


「グレイソンには後ろ盾はいるのか?」

 クレバーが聞いた。

「ザラブ子爵が近いはずだ……」

「ザラブ子爵か……。子爵とは、どれくらいの関係だ?面識はあるのか?」

「あるはずはないだろう。貴族様だ。俺たちみたいな者とは口も聞きたくないからな」

「じゃあ、どうしているんだ?」

「つなぎがいる。その男に金を渡すと、保安隊の動きを抑えてくれる」

「そのつなぎにコンタクトするには?」

「子爵領にある、ある店に行けばあえる」

「どれくらい金を渡すと話を聞いてくれるのか?」

「基本的には稼ぎの3割だが、最低100万からだ。高いようだけど、捕まるよりましだからな」

「いい儲けになるな」

「ああ、何もしないで金だけ巻き上げる。あいつらはクズだ」


 その場にいた誰もが”お前が言うな”と思ったろう。

 確かに、困っている人を助けないで詐欺師の片棒をかつぐ。同罪だ。いや、それ以上だろう。


 その後も話を聞いたが、言っていることに嘘はなかった。


「こいつはどうします?」

 ハカセが聞いてきた。

「しばらく地下室に放り込んでおけ。こんなやつを野放しにはできないからな」


*****


 詐欺師から聴取が終わった後も、何かいたたまれない雰囲気がその場に残った。


「それにしてもザラブ子爵か……」

「それが何か?」

「ああ、あのベアル男爵とも近かった貴族だ。そしてあのときに男爵の手先として働いた組織……、俺たちと敵対している組織とも近い貴族だ」

「それじゃあ……」

「今回の標的は俺たちだったかも……」


 クレバーの組織は、表向きはハンゼ商会と言って、商品の売買のほか金貸しをしていた。金貸しをするためには、貸す金が必要だが、その金主の多くが貴族だった。

 貴族は、税や年貢がある時期にまとめて入るが、それを屋敷の金庫に寝かせておくより金貸しにまわしたほうが、利益にもなるので、積極的に金主になりたがった。

 ベアル男爵のように直接金貸しをする貴族もいるが、貸した金の回収などでトラブルもあるから、ハンゼ商会のようなところに任せているのが多いという。

 借りた金を返そうとしない連中も多い。時には暴力も必要だし、返せなくなった者を借金奴隷として働かせ、金を回収するにもある程度の力は必要だ。

 そうしたところからも、ハンゼ商会は反社会的な力を持つようになってきたのだった。そして力が強くなれば、また貴族から非合法な依頼もあったりする。

 貴族と強く結びついている商会が多いのもそのためだった。


 ハンゼ商会と敵対しているのは、クルップ商会という。仕事上の縄張りが重なっており、常に敵対していた。

 ただ、それぞれ貴族のバックもあるので、牽制ばかりで、実力行使をするまでにはいっていなかった。


 クレバーから、ざっとそんな説明を受けた。

「ベアル男爵の敵討ちか、それともクルップ商会から頼まれたのか、どちらにせよ、標的は俺たちの可能性は高いな」

「でも、クレバーの商会がターゲットで、なんで詐欺を?」

「なぜかはわからんが、俺たちの評判を落とそうとしたのか、そんなところだろう。実際にフランソワさんもランドシャフトに逆恨みしそうにもなっていただろう」

「じゃあ、どうすれば……」

「まず、ボスと相談する。俺だけじゃ決められない」


 クレバーが言うには、ハンゼ商会のボスは任侠を重んじ、弱きを助け、強きを挫くタイプ。今回の年寄りを狙った詐欺にも憤慨していた。だから必ず力になってくれると言う。


「それにしても商会を狙うのに、年寄りに詐欺をしかけるなんて、本当にクズだな」

「ああ、許したくないクズだ。ただ、今日の話で金を取り返すアイディアも浮かんだ。それをふくめてボスと話をしてくる。準備もあるから3週間はかかりそうだな」

「わかった。また力になれることがあったら言ってくれ」

「そのときは頼む。あともしかしたらお前にも何かあるかもしれない。気をつけてくれ」

「うん。できるだけカンさんとかといるようにもするよ」

「それがいい」


 僕にも危険があるのか……。以前から考えていたことを実行しなければ……。帰り道にそれを考え続けた。


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