聖女の正体
真っ赤だ。
聖女を〈真実の目〉で見ると全身が真っ赤だ。それも今まで見たこともない、あの飲み屋のほら吹き男よりも濃い赤に包まれている。
〈鑑定〉で見ると、これもすごい。言葉が出ない。
横にいたクレバーが、僕の様子に気づいたようだ。
「どうした?」
「ここでは言えない……」
とクレバーの耳元でささやく。
聖女推しの大観衆の中で言えることではない。もし聞かれでもしたら、袋だたきだろう。
聖女は、大観衆に笑顔で手を振りながら馬車に乗り込んだ。
それからあっという間に絨毯が片付けられる。手慣れた様子だ。
馬車は、次の目的地へと向かった。
街では、三軒の店に寄るらしい。それぞれが離れている。それぞれの地区で、また大歓迎されるのだろう。聖女の正体を知らない人たちに……。
******
「緊張したああ」
セレモニーが終わり、店に戻ったセシリアが開口一番発した言葉がこれだった。
「ホント、緊張したわね。でも、聖女様はすごく素敵だった」
とリアフさん。
「そう、今まで絵姿では見てたけど、その何倍もおきれいだったわ」
とフランソワさん。
緊張から解き放たれて、女性陣は聖女のことを話したくてしょうがない様子だ。
「頂いたお金は?」
「これね」
フランソワさんは袋を取り出した。深紅のビロードの生地の小さな巾着袋だ。
口を開いて、中のお金をテーブルに出した。
「えっ」
セラーが驚いている。全部銭貨だ。
「たくさんあるね」
それでもフランソワさんはうれしそうだ。
「1,2,……」
と数えていくと全部で100枚で1000円だ。巾着袋のほうが高いかもしれない。
「些少と言ったけれど……」
とついセラーが漏らすが、
「何を言っているの。聖女様から頂いた物は、その何百倍も価値があるのよ」
「そうよ。お金の価値ではないわ」
と女性たちの強烈な反論にあってしまった。
「これは使えないわね」
「もちろん、そうよ。あっ、額に入れて飾ったらどうかしら」
「それはいいわね。あなたたちにも分けるから、飾りましょう」
「いいんですか?うれしい」
どんどんと盛り上がっていく。
こんなところで話すわけにはいかないな。
僕はクレバーを外に誘い出した。クレバーも察してくれたようだ。
「じゃあ、僕たちは次の予定があるから」
と盛り上がっている女性たちを後にして、店を出た。
通りのあちこちでも聖女の話題であふれていた。
僕とクレバーとセラーは、休業中のランドシャフトに向かった。
フランソワさんの店は、あと数日は聖女が訪問したということで賑わうだろうから、リアフさんとセシリアは手伝いを続けることにした。
*****
暗い店で、さらに奥の狭いところに三人でかたまって座った。
誰かに聞かれるはずもないが、それだけ慎重にならなければと考えたのだ。
「で、どうだった?」
「聖女様?」
「ああ」
「あれは、もう人じゃない」
「人じゃない?」
「そう感じた。まず話していることが全部嘘だ」
「やはりな。防衛隊に詐欺の捜査に関わるなと命令があったというが、王女ならその命令を撤回できるはずだ。それが未だにされていないということは、犯人を捜す気がないということだよな」
「そういうことだ。そしてスキルがすごい」
「どんな?」
〈鑑定〉でスキルを見ることができるが、人のスキルは膨大にある。僕の〈鑑定〉で、そのすべてを見ることも可能だが、まず際立ったものから見えてくる。
「まず見えたのが〈虚言A〉だ」
「〈虚言〉!」
セラーが思わず声を出して、慌てて口を押さえた。聞かれるはずもないんだけれど。
「そして〈性技B〉」
「はあ?」
これを見たとき、あんなきれいな人がと、股間がムズムズもした。でも、何故?とも思った。
「おそらく、王女は他国の王家に嫁ぐから、その国の王、王子を籠絡するために仕込まれてきたんだろうな。第一王女は、すでに隣国の第二王子に嫁いでいるし、聖女もいつかは嫁がなければならないから、そのためのスキルなんだろう」
クレバーが解説してくれた。
「それは、どうやって高めるの?」
「さすがに、それは知らん。でも、スキルを高めるためには経験を重ねるしかないからな」
「じゃあ、乙女ではない?」
「それもわからないな。乙女のままで男を籠絡できる技を身につけているかもしれないし……」
それを聞いた三人は、それぞれ頭の中で勝手な想像をめぐらした。
「すごいと思ったのは〈毒耐性B〉だ」
「毒に強いということか。これも暗殺を防ぐのに小さいときから少しずつ毒を飲まされてきたんだろう」
これらのスキルは、ある意味、王家の道具のようなものでもある。そんなふうに育てられてきたのだと思うと少し同情する気にもなった。
「そして、人じゃない、と思ったのは、人らしいスキルがほとんどなかったんだ」
「例えば?」
「〈料理〉や〈掃除〉といった誰でもあるものがない。もちろん王女だからというのもあるだろう。ただ、聖女と呼ばれるにしては、例えば〈献身〉なんかかけらもなかった」
「〈献身〉か……」
「ああ、クレバーでもセラーでもあるだろう。誰かのために何かをしたら身につくスキルだ。孤児院の一件でも、今回の件でも、レベルアップしてるんじゃないか」
「レベルは、まだ上がってないが、確かに俺にもあるな」
「そう、人として、普通に行動しているだけでも身につくスキルだ」
「それじゃあ、聖女が、今まで貧民や孤児に施したというのは?」
セラーが疑問に思う。
「それもおそらくだが、自分でやっていない、それか貧民や孤児のためにやったのではなく、自分のためにやったのだろう。だからスキルとして蓄積されない」
「そういうことだろう」
「そのほか〈強要C〉〈侮蔑C〉なんてのもあった。普段からそういうことばかりしているからだろうな」
「やはり王家はクズばかりだな」
「はああ……」
三人とも同じタイミングでため息をついた。
そして、この王女が事件のキーパーソンとなるのだが、それは、もう少し先のことだった。




