飲み屋街を回ったら
飲み屋を回り始めて、3日経った。
なかなか見つからないものだ。
同じ店にも何度も行った。時間も変えてみた。それでも見つからない。
甘く見ていたわけではないが、何か兆しでもあればやる気も出るが、空振りばかりだ。結構しんどい。
それでも、おばあさんのため、被害者の金を取り返す、そう考えてがんばった。
店に入って、〈真実の目〉で全体を見る。誰もがほんのりと赤い。
「なんか、みんな嘘をついますね」
どこの店へ行ってもそうだから、つい言ってしまった。
「嘘……、といっていいかわからないけど、まあ正直には話していないよな。ほとんどが誇張しているんじゃないかな。自分をよく見せたいし、話をおもしろくもしたいし……、悪気があってのことじゃないと思うよ」
「そんなもんなんですね」
「大人はな、いろいろとあるんだよ」
それから〈鑑定〉と〈探査〉を使う。
「ここにもいないですね」
「そうか、じゃあ、次だ」
毎回、入ってすぐ出て行くのを繰り返しているので、店員も怪しんでいるようだ。
「人を探しているんだ」
そう告げて店を出た。
******
次の店に入ったときだった。
〈真実の目〉で見ると、一人、思い切り真っ赤なのがいた。
「彼は怪しいです」
指さした先に、数人に取り囲まれて上機嫌で話をしている若者が一人いた。
ただ、〈鑑定〉では、怪しいところはない。
クレバーと近づいてみた。
「みんな、俺に感謝しろよな」
酔っ払って顔を真っ赤にし、酒のグラスを片手に、周りの客たちに声をかけている。
「この美味い酒も、俺が発明したんだからな」
(何言ってるんだこいつ)
「この酒は、あれだろ、ランドシャフトで売り出したんだろ」
「ああ、あの店にアドバイスをしたのが俺なんだ」
もう、全身が真っ赤に輝いている。
クレバーは、ニヤニヤしながら見ているだけだ。
「料理も、そうだぞ」
「あの料理もお前か?」
「そうだ、俺は、元々は王宮の料理番だったからな。あんなのは序の口よ」
(本当に勝手なことを言っている……)
「あれは、単なるほら吹きだ。詐欺なんかでできるやつじゃない」
クレバーが耳元でささやいた。
それから大きな声で、
「本当か!王宮の料理番は、確かどんなに熱い料理も手でつかめるんだってな。やってみせろよ」
「何、やってみろ」
クレバーの言うのを聞いた周りの男たちが、盛り上がる。
一人の男が、何かの煮込み料理を持ってきた。ちょっと前まで沸騰していたようだ。
それを見て、ほら吹き男はたじろいでいる。
「やれ!やれ!やれ!」
手拍子とともに「やれやれ」コールがはじまった。
そのコールを背に僕たちは店を出た。あの男が、その後どうなったかはわからない。
「いろいろとありますね」
「ああ、飲み屋は、そういうところだ」
まあ、クズと言えばクズかもしれないが、かわいいものだ。学校の連中もあの程度だったんだろう。クズだけど悪党ではない。
******
「あっ、いたいた」
歩いていると、後から声がかかった。振り向くとヴァイスだ。
「フランソワさんの店に現れました。想定通り、『金を取り返しやる』と言って。そいつをカンさんが捕まえています」
「そうか、ありがとう。これで一気に進むな。ここからは俺たちの仕事だ。お前は、もう来るな」
ヴァイスに気を遣って言う。これからおそらく非合法なことをやるのだろう。
フランソワさんの店に着いた。カンさんが出てきた。
「縛って物置に放り込んである」
「ありがとう。後は任せて」
その詐欺師は、目隠しをされて、口には猿ぐつわを、そして両手、両足をきつく縛られて、物置の床に転がされていた。
僕たちの足音を聞いて、ウネウネとうねっている。何か言いたいのだろう。
服を見ると、まったく普通だ。
誰も詐欺師とは思わないだろう。まあ、見てすぐ詐欺師と分かるようじゃ詐欺なんかできないが。
しばらくするとクレバーの部下たちが来た。こわもてで、近づきたくない。
詐欺師の男を抱えて、どこかに連れていってしまった。
「あの……。拷問をするの?」
「ああ、その道のプロがいるからな。でも、お前が思うようなのじゃない。ほとんど五体満足で帰してやる」
「そうなの」
「まあ、ちょっと精神は痛めつけるかな」
笑うが、その眼が怖い。
「目隠しして運んでいっただろう。まず見えないというのが一番怖い。そしてあいつらは、時々、『ナイフは研いだか』とか『ロープは用意した』とか言うんだ。まあ、これだけでも落ちてくれる」
楽しそうだ。
それから、言える範囲のことを教えてくれた。
まず、真っ暗で音も聞こえない部屋に閉じ込める。これだけで、数時間もすると正常な判断ができなくなり、言うがままになるそうだ。
それでも、言わなければ、頭に一滴ずつ水滴を落としていく。濡れるということは、ストレスになり、ずっと続くから、眠ることもできない。そして一滴ずつであっても、いつかは溺れるんじゃないかという死の恐怖がつきまとう。それが延々と続く。普通の人間なら、これで落ちる。
ただ、相手は詐欺師だから嘘でごまかそうとするだろう。話し始めたら、ときどき隣の部屋で、部下に演技で悲鳴もあげさせる。嘘をついたら、そうなると印象づけるのだ。
そして「先に正しいことを話した方を解放する」と言えば、だいたい本当のことを話してくれるという。
これに2,3日はかかるという。
「話したら、本当かどうか鑑定に来てくれ」
「うん、わかった」
〈鑑定〉を頼まれるとは思っていた。そのとき相手が血まみれだったらどうしようとも思っていたけど、どうやらそうではなさそうで、ほっとした。
これで、糸口が見つかった。でも、まだ解決というわけにはいかないだろう。
事件の根っこは、想像をはるかに越えて深かった。




