クズに狙われたのは
居酒屋ランドシャフトが開店してから10日ほど経った。
酒や料理について、口コミで広まり、満員御礼の毎日だった。
店の前には行列もできている。
僕は、元の世界でもあったように店の入り口で名前を書いてもらうようにしようと思ったが、この世界は文字を書けない者も多い。なんとかしなければと思ったが、クレバーもセラーも、「もう少ししすれば大丈夫になるから」と言うので、とりあえず椅子を並べて座って待ってもらうようにした。
セシリアとリアフさん目当ての客も確実に増えていた。
カンさんや防衛隊のことも広まったようで、前のように店に害をなすような輩はまったく来なくなった。
一度、セシリアの父親であるギブルを招待した。
ここのところ真面目に働いているようなので、ご褒美だ。
店の隅で、おとなしく飲んでいた。その視線の先にはセシリアがいる。
やはり、娘はかわいいのだ。
そしておとなしく飲んでいる父親を、セシリアも温かく見ていた。
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朝、セシリアとリアフさんと村を出て一緒に店に向かう。
気持ちの良い天気だ。居酒屋ランドシャフトも順調で足取りも軽い。
店の近くまで来ると、店の前に一人のおばあさんが立っているのが見えた。
小柄で、疲れたようにも見える。そして何か、思い詰めたような表情だ。
何か、近付きがたい感じもしたので、しばらく離れてみていた。
そのおばあさんは、地面から小さな小石を拾って、店の看板に投げつけた。
カーンと小さく乾いた音がした。
「あっ」
僕の横にいたセシリアが思わず声を出した。
その声に振り向いたおばあさんは、僕たちに気づいた。
呆然とした表情をしていたが、すぐに
「ごめんなさい!」
と思い切り頭を下げた。
コミュ障の僕は、どうしていいのかわからない。
「何か、事情がおありなんですよね。よかったらお茶でも飲みませんか」
とリアフさんが声をかけてくれた。
こういうときには年輩のリアフさんは、やはり頼りになる。
おばあさんは、しぶしぶの表情だが、何か後ろめたいものを感じているのか、リアフさんに続いて店に入った。
その後を僕とセシリアが続く。
「今日も良い天気ですね」
セシリアがお茶を入れているあいだ、間を持たすためか、リアフさんが話をする。
天気の話題は、どこの世界でも基本なんだろう。
おばあさんはセシリアの淹れたお茶を一口飲む。少し落ちついたようだ。
「何かあったのですか」
リアフさんがたずねた。
「ごめんなさい……。本当にごめんなさい……」
小石を投げたことを思い出したのか、ひたすら謝るだけだ。
「いえ、大丈夫ですし、気にしてません。看板に傷がついたわけでもないですし……。ねっ」
「ええ、大丈夫ですよ」
「僕も、気にしてませんから」
それからおばあさんは、ポツリポツリと話し始めた。
おばあさんは、近くで飲み屋をやっていた。
ランドシャフトが開店してから客が減ったこと、特にランドシャフトの酒がないのか、客から何度も言われたことなどを話してくれた。
「それで看板に……?」
「いえ、違うんです」
あるとき客の一人が、ランドシャフトで出している酒を用意してくれると言ってきた。値段も格安で出せると。それに料理のレシピも。
「それで、酒や材料を仕入れる金を用意してほしいと言われて……」
「だしたのね」
おばあさんは、小さくうなずいた。
「その後、いなくなってしまったのね」
おばあさんは、より深くうなずいた。
「詐欺か」
「たぶんそうね」
「それでいくらを?」
「100万円……」
大金だ。
「それで、もう店が続けられなくなりそうで……。この店が悪いわけではないのはわかっているけど、何かもやもやした気持ちになって……」
おばあさんはがっくりとうなだれた。
「どうしましょう」
セシリアが聞いてくる。
「まず、クレバーに相談しよう。あの人なら何かできるはずだ」
「それじゃあ、私が呼んでくる」
セシリアは、そう言って店を飛び出していった。
リアフさんは、おばあさんにクッキーを出して、なぐさめの言葉をかけている。
こういうときは、僕は全くの無力だ。僕のスキルもこんなときには役立たない。
(いや、でも詐欺なら、僕のスキルも……)
とりあえずクレバーを待とう。
それにしても、こんなおばあさんを……。なんてクズなんだ。




