第2ゲーム
これが鍵かぁー。
リコが持っていた鍵を才賀がまじまじと見る。
不思議なことにリコはかなり貴重なレアアイテムの鍵を持っていた。加えて99ジェムも所持していた。
しかもこの鍵、どんな地図とも対になれる万能の鍵だった。
「どこでこんなレアアイテムを手に入れたんだ?」
問いかけても返事はないと知りつつも、聞かずにはいられなかった。
それ程のレアアイテムだ。
しかもジェムも99。これがレベル1の冒険者の所持品とは思えない。
まさか盗んだとか――?
いや、それなら町中を堂々と歩けるはずがないか……
『俺と同じようにパーティ―を追放でもされたか?』
実際、喋れないのであれば才賀と同レベルに戦闘中は役立たずである可能性が高い。
そして才賀はそれをこれから実感していく――
<スライムたちがあらわれた>
行動選択。
攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼
現れたモンスターはスライムが2匹にゲコと呼ばれる緑色の巨大な蛙のようなモンスターが2匹だ。
まず最初の選択は決まっている。
使える魔法もスキルもなく、HPが満タンなのだから当然だ。
攻撃▼
<才賀の攻撃。ゲコAに8のダメージ>
<リコの攻撃。スライムBに4のダメージ>
ふむふむ。攻撃対象こそ違うけど、最初の選択にしてはいいだろう……
<ゲコAの攻撃。リコに7のダメージ>
<ゲコBの攻撃。才賀に4のダメージ>
<スライムAの攻撃。リコに6のダメージ>
<スライムBの攻撃。 ミス! スライムBの攻撃は外れた>
<魔獣化47%>
行動選択。
攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼
さてどうするか……
スライムBに攻撃すれば確実に倒せるだろう。問題はリコがしっかりと防御をしてくれるかだな……ゲコの厄介なところは、ステータス異常にしてくるところだ。ステートとはまた違う厄介さがある。
攻撃▼
<才賀の攻撃。スライムBに8のダメージ。スライムBをやっつけた>
<リコは薬草を使った。リコのHPを10回復した>
は? 勝手にアイテムを使ったのか? 防御すればいいだけの話しなのに?
<ゲコAの舌攻撃。リコに5のダメージ。リコは防御力が下がった>
<ゲコBの攻撃。リコに8のダメージ>
<スライムAの攻撃。才賀に5のダメージ>
<魔獣化47%>
行動選択。
攻撃 魔法 スキル 防御 アイテム 逃げる……▼
『俺とリコがゲコAに攻撃すればいくらなんでも倒せるだろう。ゲコのHPがどれ程かは分からないが、多く見積もっても20前後のはずだ』
攻撃▼
<才賀の攻撃。ゲコAに8のダメージ。ゲコAをやっつけた>
HPは15前後か!
<リコは薬草を使った。リコのHPを10回復した>
またか! もう敵も少ないんだから貴重なアイテムを使うなよ!
<ゲコBの舌攻撃。才賀に3のダメージ。才賀は攻撃力が下がった>
<スライムAの攻撃。才賀に5のダメージ>
<魔獣化47%>
ヤバいな。俺のHPは残り3。どう頑張っても次に攻撃されれば戦闘不能になる。
薬草は残り1つしかない。節約するためには自分を犠牲にして攻撃をするしかないか。
攻撃▼
<才賀の攻撃。ゲコAに7のダメージ>
<リコは猪人の牙を投げた。スライムAに55のダメージ。スライムAをやっつけた>
<ゲコAの攻撃。才賀に4のダメージ。才賀は倒れた>
<魔獣化47%>
貴重なアイテムをまた使われた。ここぞの強敵に使うはずだったのに。まぁこの戦闘にこれで勝利できるから良しとするか。
<リコの攻撃。ゲコAに5のダメージ>
<ゲコの攻撃。リコに12のダメージ>
あっぶなー。リコの防御力が下がっているのを忘れてた!
リコのHPはギリギリで3残っていた。本当に崖っぷちだ。
<魔獣化47%>
<リコの攻撃。ゲコAに4のダメージ。ゲコAをやっつけた。モンスターたちをやっつけた。才賀は7の経験値を獲得した。リコは9の経験値を獲得した。才賀たちは15ゴールド獲得した>
『本当にまずい状況だぞこれは。アイテムは薬草が1つのみ。俺のHPは1でリコのHPが3。町に入るまでモンスターとエンカウントせずにいけるか?』
仕方ない。と才賀は最後の1つの薬草をリコに使った。
<リコのHPが10回復した>
『これほどまでに意思疎通できないと、戦闘が大変だとはな……』
今になって才賀はようやく、今まで自分と組んできたパーティ―がどうして自分を追放したのかを悟った。
「いいかい」
才賀はリコに話しかける。
喋れなくても言葉は理解できるはずだ。
「俺のHPは1だ。ここからは君の戦闘力が鍵を握る。俺は死ぬまでとにかく攻撃をする。君さえ死ななければゲームオーバーにはならない。自分が無理だと判断したら逃げる選択をしてくれ」
才賀はキョロキョロと辺りを見渡した。
ここら辺の薬草はもう取り尽くしてしまった。しばらく薬草は生えてこないだろう。
「一度町に戻る」
そう言って再びリコの方を見ると、かなり怯えた表情をしていた。その上震えている。
「大丈夫だ。町に戻るまでに一度エンカウントするかしないかだと思う」
そう言って才賀は町へ向かって歩きだした。
その間ずっと、リコは才賀の服の端を震えながら握っていた。
幸いモンスターとはエンカウントしなかった。
●
あれからというもの。
才賀とリコは辛うじてゲームオーバーを避けていた。
ある時は才賀の作戦が言葉足らずで、リコが別のモンスターに攻撃を仕掛けてしまったことがあった。
「俺が悪かった。もっと具体的に指示を出そう。君が攻撃をする対象は一番弱そうなやつか一番ダメージを受けているやつを狙ってくれ。君の攻撃で倒せそうなやつがいるなら、アイテムや防御よりもそいつに攻撃をすることを優先してほしい」
また別の時には、才賀の思い込みでリコが選択を間違えてしまうことがあった。
「アイテムを使うルールを決めよう。まずは先の展開を考えてみる。どちらか片方のHPが半分以上残っているならアイテムは使わない。次のターンの攻撃で戦闘に勝利する場合も使わない。強そうなモンスター、未知のモンスターの場合は万全を期す」
才賀のコミュニケーション能力が光った時もある。
「ここら辺のモンスターはスライムとゲコが主だ。スライムはHPが10程度、ゲコは15程度だ。君が追われていたワイルドウルフは強すぎるモンスターだから必ず逃げよう」
そしてリコは必ず、ゲームオーバー間近になると震えて恐怖の表情を浮かべるようになっていた。
この頃からもう1つ変化したものがある。
魔獣化47%というよく分からない表示が、46%に変化した。
<スライムがあらわれた>
才賀もリコも相変わらずレベルは1で装備も同じ。
つまり、スライムですらそう油断できない相手になっている。
とはいえ、当初よりはお互いの連携もしっかりしており、戦闘は無駄がなくなってスムーズになってきていた。
「今の戦いはよかったな! どうする? 薬草でHPを回復しておくか?」
才賀が問うと、リコは首を左右にふるふると振った。
「そうか。君がそう言うならそれを信じよう。だが無理はするなよ?」
そう言って才賀は再び歩き出した。
2人の目標は今のところ、レベルアップと装備の充実だ。
ほんの少しずつゴールドは貯まってきているので、そろそろ装備を新しいのに変えようかと考えていた。
現在の所持金は1000G以上ある上に、何の役にも立たないし売却しても1Gにしかならない謎の液体が3つ、薬草が5つに、売ってもバトル中使っても効果的なゲコの舌が5つある。
更にラッキーなことにジェムを1手に入れていた。
『このバトルが終わったらガチャを回して今日は終わりにするか』
なんてことを考えていた。
目の前のモンスターの残りはゲコが2匹とスライムが1匹。
まだまだ才賀もリコもHPが半分以上残っているので、やられることはないだろう。
そう思っていたのだが……
<スライムCの攻撃。絶命の一撃! 才賀は倒れた>
稀に出る一撃効果だ。
『まずい!』
ゲコ2匹にスライム1匹をリコだけで倒せるはずがない。
<リコは桃魔法転生を唱えた。才賀が復活した>
は? リコはすっぴんのはずだ。桃魔法が使えるのか? それも自分の残りHPの半分を分け与える犠牲系の魔法を……?
才賀がうろたえている間にモンスターは倒せた。
「魔導書を読んだのか?」
才賀がリコに問う。
まだ魔法を使えるジョブに転職していなかったり、そのスキルを習得していない状態でも魔導書を読むことで、その魔導書に書かれている魔法を習得することができる。
かなり貴重なレアアイテムである。
なんとリコは、復活系の桃魔法と回復系の桃魔法の2種類が使えるらしい。
薬草がある上に回復魔法と復活魔法まで使えるとなれば、戦略の幅が広がる。
「まずは町に戻ってMPを回復させられるアイテムを買おう。そして宿屋で休んでHPを回復させて、残ったゴールドで装備を整えよう」
そう才賀が提案して、ひとまず町まで戻ることにした。
●
才賀たちは慎重に行動していた。
MPを回復させるエーテルを購入し、更にはリコに木の杖を装備させた上に念のためにポーションまで購入していた。
それでも慎重になっているのは、ガチャを回したからだ。
ガチャから出たのは、ジョシュの地図だった。
万能の鍵と合わせて、ジョシュというサポーターの場所を調べたら、アシュッド町東側に広がるダルタル森にいることが分かった。
スライムやゲコと戦っていたダルタル平原の更に東側だ。
自分達のレベルアップついでに、行ってみることにしたのだった。
あわよくばジョシュと契約をしてみようと考えている。
しかし、平原ですらそんなに行動範囲を広げていなかったにも関わらず、未踏の地である森に足を踏み入れたのだ。慎重にならない方がおかしいというものだ。
ツンツン。
リコが才賀の背中をつつく。
才賀がリコを見ると、左の方をリコが指さした。
薬草とは違った色の葉っぱが生えている。回復草だ!
MPを回復させられるアイテムだ。
このように才賀たちは少しずつアイテムを拾いながら森を慎重に進んでいた。
「ここを左に曲がればジョシュのいる場所に着くはずだ」
才賀がジョシュの地図を見ながら言う。
深い森では視界が悪く、罠などにも注意しなければならない。
幸いにも大きな罠もなく、強敵にも遭わずにジョシュのところまでやって来れた(とはいえ、戦闘中に何度かは危機的状況には陥ったが)。
「鍵を持っていたのは君だから、サポーターと契約するのは君がするかい?」
才賀が問いかけると、リコは少し考える様子を見せた。
その後、ゆっくりと頷き万能の鍵とジョシュの地図を使ってサポータージョシュを呼び出した。
すんなりと契約が済み、ロボットのサポータージョシュが仲間に加わった。名前はルキだ。
ルキが仲間になった▼
こうして才賀とリコは順調に旅を続けているのだった。
これから大きなできごとが2人とサポーターを襲うことを、才賀はまだ知らない……