表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/151

第89話



 

 それまで殺風景だった応接室は、聖女たちによって整備され、柔らかなソファーに大理石のテーブルが鎮座している。

 廊下に飾ってあった額縁も移動し、見栄え良く掛け直せば、人の温もりが乏しかった場所が生活空間に様変わりだった。

 もう半年ほど聖女たちと過ごしているが、いつ見ても魔法や魔術は万能である。

 

 

 トゥルバが帰郷し内情を見てきたラバタール連邦は、最高権力者の交代で混乱はあったものの、今は落ち着いているという。

 遊牧民族たちも都市部に定住でき、安定した生活を送れているということだった。


 寝て起きても興奮冷めやらぬヨヒラを宥めつつ、セオドアはソファーに凭れ頷く。


「なら、そろそろマシュー第一王子から返答も来るだろうし、まずはそちらだな」

「ああ。ただ、どうやらホールボーム帝国が、ラバタールの連盟国から武器の購入を進めているようだ。これは前からある取引らしいが、少しずつ動き出した可能性もある」


 三人がけの椅子に悠々と座るトゥルバが、わずかに表情を固くする。

 隣でテーブルいっぱいに並べらた菓子類を頬張っていたメイイェンが、目を眇めて指先を舐めた。


「氷の帝国は大富豪の武装国家ですわ。買い付ける量も他国とは違いましてよ」

「どことも争ってないのに、なんでそんな買い込んでるの?」


 一人がけのソファーに座って、同じくビスケットに口をつけていたチェンノッタが、訝しげに眉を寄せた。

 確かに彼の言う通り、聖女が誕生して厄災が近づいているとは言っても、国同士の争いは水面化だ。表立って殺傷沙汰になっているところもなく、ホールボーム帝国がそこまで武力を準備する必要がないように見える。


 エルシィも同意すると、メイイェンはフェイが差し出した果実水を飲みつつ、人差し指を軽く振った。


「ホールボーム帝国の抑止力は、世界一の領土を持つグェイドン帝国でしたの。ですがグェイドンは皇帝が代替わりしたばかりで、幼いでございましょ? それを好機と捉えているのですわ」

「……つまり、メイイェンの故郷を侵略しようとしている……ってことなの?」

「そうですわ、ルヴィナ。近くの平穏な国から徐々に飲み込み、あたくし達と同じく世界征服を目論んでいるんですわ」


 ホールボーム帝国は以前より、そういった動きがあったのだという。

 内紛が鎮静され、聖女が各国から姿を消した今が、帝国にとって攻め時なのだ。


 ちょうどその時、ドアが軽く叩かれて、トレーを持ったシテラが入ってくる。


「御尊父、フォアヘッケルの第一王子より、返事が届きました」


 両手で差し出されたトレーの上には、王家の封蝋が入った封書があった。

 セオドアが受け取り、ペーパーナイフで開けて書面を読むと、彼は眉を寄せて口をへの字に曲げる。


「どうされたんですか?」

「この間のお礼もしたいから、聖女含めた全員で来てほしい、だそうだ。小さな歓迎パーティーもしたいとかなんとか」

「あら、ちょうど良いですわね」


 気乗りした様子ではないセオドアに、メイイェンがすかさず声をかけた。

 彼女はにっこりと、邪気のないように見せかけた微笑みで周囲を見渡し、再度口を開く。


「大丈夫ですわ、パパ。立場の違いを見せつけて差し上げれば、良いのでございましょ?」





 フォアヘッケル国の城は、教会が隣接しているせいか、大聖堂、と言われても納得できるような外観をしている。

 三角屋根の下には美しいステンドグラスが飾られ、中に入れば鮮やかな光が、城内へ反射するかのように輝いていた。


 エルシィたちは、これまたセオドアが用意した資金で衣服を新調し、兵士の先導で城門をくぐる。

 全員が衣服の色合いを統一し、幻想生物も揃いで着替えれば、それだけでより一致団結できた気がする、不思議な心地であった。


 セオドアと腕を組み、遊牧民族が編んでくれたストールを靡かせながら、エルシィは足首まであるスカートを翻す。

 金色と青を基調としたワンピースは、胸元から裾まで柔らかなギャザーが寄る。風に揺れると中に着用した赤色のインナーが透けて、僅かに紫へ変化した。

 朝がくる手前、東雲の空に似た姿の美しい女神に、警備兵や使用人たちが惚けた顔で道を開けていく。


 兵士が声をかけてから、扉を引き開ける。

 通されたのは謁見の間ではなく、王族の私邸がある区域だ。派手さはないが明るく清潔な印象を与える場所で、エルシィも幼い頃、よく出入りしていた場所である。


 懐かしさに目尻を緩ませていると、セオドアが足を止めた。


 見れば通路の脇で道を譲り、頭を垂れている女と、彼女に付き従う使用人たちがいる。


「……ハナバ公爵令嬢さま」


 エルシィがそう呼べば彼女は、──カロライナは顔を上げ、品の良い扇で口元を隠しながら目を細めた。

 公爵令嬢カロライナ。艶やかな金髪と、柔らかいアーモンド色の瞳が可愛らしい、マシュー第一王子の婚約者だ。

 ラバタール連邦では酷い目に合った彼女だが、どうやら体調も回復した様子である。エルシィが安心して微笑むと、カロライナの視線がセオドアに移った。


 流石に作法は叩き込まれているので、ジロジロ、といった見つめ方ではないものの。上から下まで一瞬で眺めた彼女は、扇を閉じて、使用人たちへ振り返った。


「彼女たちはマシュー第一王子殿下の客人です。ワタクシが案内役を賜りましょう。下がりなさい」


 外面がやや高圧的なところは、昔と変わりないようだ。

 使用人たちも慣れているようで、兵士だけは戸惑っていたが、皆、深く頭を下げてから、エルシィたちが来た道を歩いて行った。


 数人の姿が見えなくなり、エルシィもホッと息を吐いて、改めてカロライナを見る。


「……よかったの? ()()()


 彼女の愛称を呼べば、カロライナは扇を握りしめながら、体を震わせてエルシィに飛びついた。


「良くないわ、()()()()()()!! どうしてすぐワタクシに会いに来て下さらなかったの!!」


 



 


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ