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第77話




 リリンベル国の王城で過ごす中、腕を振るっていたのはメイイェンとトゥルバであった。

 そもそも組織の頂点として活動していた実績もあり、リリンベル国の内情を把握しつつ、宰相が集めていた外部情報に目を通していく。


 エルシィたちが東側で一悶着している間、ホールボーム帝国の内乱は、皇帝側が勝利を収めていたようだった。

 チェンノッタという聖女を取り込めず、武力の保有数で負けを見た辺境伯周辺領は、今は中央から睨まれている状態だという。

 メイイェン曰く辺境伯は、聖女の存在をチラつかせ、ホンヨウを通してグェイドン帝国に応援を頼もうとしていたらしい。しかし予定外に事が進み、チェンノッタも姿を消し、首が回らなくなったのだ。


 王城の整備された図書室で、資料を広げる事、約半日。

 サボテンに似た姿のルーシェの上に座り、トゥルバは新聞を見ながら眉を寄せる。


「とは言っても、辺境伯も成果をあげた部分もあるようだ。しばらくは国内の処理に追われるだろう」

「そうですわね。この隙をつくのは些か道理に劣りますわ。まずはフォアヘッケル(ママの故郷)を傘下に納めるところから……ですわね」


 二人がけのソファーに寝そべるメイイェンも、絵本を読むような動作で書類に書かれた活字を追っていた。

 

 二人が熱心に思案しているのは、次の攻略国である。

 リリンベル国を手中に収めたのは、世界征服の序章に過ぎない。次なる安息地の強奪……もとい、自由を得るための戦場を精査しているのであった。


 エルシィは気が遠くなりつつ、片手を頬に当てて嘆息する。


「でもその前に、旦那さまのお爺さまにお会いしないと……」


 ルヴィナたちと別行動になってしまった後、瞳に入れるガラスだけはなんとか新調したいと、セオドアが単身、祖父の家に向かったのだ。

 数時間でトンボ返りしてきた為、エルシィはすっかり会い損ねてしまったのである。


「そうだな。爺さんも会いたがってたし、先にそっちに向かってくれると有難い」


 図書館に納められた魔術関連図書を、山のように抱えて戻ってきたセオドアが、ホクホクした顔でエルシィに同意する。

 王立図書館があることは知っていたが、彼は立場上、入室した事がなかった。その為、すっかり珍しい本に夢中になっているのだった。

 チェンノッタと共にあれこれ試作しながら、紙に魔術式を書いていく姿を、エルシィは自然と目で追いかける。


 図書の間を歩き回っていたヨヒラが、足に抱きついてエルシィを見上げた。


「まま?」

「え? あ、ううん、何でもないわ。少しルヴィナさまのところへ行ってきますね。移動することを伝えなくちゃ」


 ハッとして我に返り、曖昧に笑いながらヨヒラを抱き上げ、再度セオドアに視線を戻す。

 彼は短く返事をして万年筆をチェンノッタに渡し、すぐにエルシィのところへ来ると、その肩を抱いた。


「よし、行こう」

「へ? あの、旦那さまは、ここにいてくれても……」

「いやいや、色々あった直後だぜ? 流石にもう、一人にはしない」


 以前、トゥルバに糾弾された事が効いているのだろう。眉を下げる彼は、窺うようにエルシィと視線を交える。


「御母堂、ここは大丈夫です。我々がおりますから」

「おうおうおうそうだぜ! オメー様は安心して御尊父と出てきな。ヨヒラとオルジオも連れていきゃあもっと安心だろーしよ!!」


 ルーシェが体躯を膨らませながら声音を和らげ、オウム状態で本棚を渡り歩いていたウィズィも同意する。

 それなら良いかと納得し、エルシィは図書室を出てルヴィナの元へ足を運んだ。



 ルヴィナはシテラと共に、ピアノン王家といるはずである。

 シテラの()()のおかげか彼らは非常に大人しく、従順にルヴィナの要望を聞いていた。

 とはいえ彼女は、恨みより悲しみの方が深かったのだろう。

 手の平を返した元家族に対し、落胆した様子を見せていた。


 エルシィたちが引き払うまで、王族は一時的に離れの城へ隔離している。

 元々ルヴィナを閉じ込めていた城に、逆に幽閉されて恐怖に震える王家に、ほんの僅かだがシテラの溜飲も下がったようである。


 外廊下を歩いていると、前方から柔らかな香水の匂いが漂ってきて、エルシィは目を瞬かせた。


「? だれ?」


 腕に抱き上げているヨヒラが、微かに警戒を露わにする。足元に流水の輝きが現れ、瞬時に魔法陣が浮かび、中央へ紫陽花を開花させた。

 背の低い老人姿のオルジオが前に出て、三人を背に庇いつつ前方を見据える。

 エルシィの隣でセオドアが、ひゅっと喉を鳴らして息を止めた。


 迷うような足取りで、誰かが離れの城から歩いてくる。

 それは深い海のように、なだらかなグラデーションの青い髪をなびかせ、白い清楚なワンピースを纏う。足元は編み上げの黒いブーツで引き締めた印象を与え、しかし穏やかな垂れ目がセオドアに向いた。


 銀と真紅のオッドアイを見開いた後、彼女は華やぐ笑顔を見せる。


「セオドア! まぁ、久しぶりですね。お会いしたかった……!」


 頬を染めて走り寄る姿は、恋人を前にした乙女のようだ。

 まったく反応を返せない一行などモノともせず、彼女は、──イザベルはセオドアに抱きついて、当然のように唇を重ねる。


「……え?」



 息が止まると思った。

 時間も、鼓動も、世界すら、何もかも。




 


 

 

 

 

 

 

 

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