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第27話




「いーい? この髪飾りは取らないこと。じゃないと言語認知能力が元に戻るわよ!」


 はーい! と手を上げて返事をする四人に、人型のフェイが満足げに頷いた。

 紅茶色が派手やかな、肩まで伸びた前上がりのストレートヘアに、一重目蓋でルビー色の瞳が印象的な美丈夫だ。

 彼は自らの分身を髪飾りに扮し、一行の頭に植え付ける。注射針を刺したような痛みが一瞬あったが、すぐに頭皮へ馴染んだかと思えば、周囲から聞こえてくる音が鮮明になった。


 フェイの能力は、彼の聖女であるメイイェンの魔法で強化されている。

 脳の一部の支配権を渡すことで、相手の言語が分かり、状況に応じて話せるようになるという、大変便利な代物だった。

 

 朱色の民族衣装に身を包む彼は、ルヴィナとチェンノッタの衣服を手直ししつつ、改めてエルシィに向き直る。


「本当に感謝感激雨あられだわ、母体樹さま」

「いいえ。だってわたし、行かないとは言っていませんから」


 同じく緑を基調とした民族衣装に袖を通し、エルシィは肩をすくめて笑みを溢す。


 繁華街の大通りから少し外れた路地裏だが、視線を上げれば色鮮やかな布が天を舞う。

 行き交う人々には活気があり、物珍しい品物が露店を彩る。路上で盤上の遊戯を楽しむ者や、路肩で茶葉を売り込む商人が実演を披露したりと、祖国にはない情緒が溢れていた。

 目を奪われる衣服はどれも繊細な刺繍が施され、肌触りもよく滑らかである。

 セオドアが相変わらず大奮発で新調したのと、フェイが便乗して皇族の礼服かというほどの値段だったが、エルシィは初めて着る民族服に、少なからずテンションが上がっていた。


 裾にかけて緩やかに広がるラインに、思わずその場を一回転してみると、惚けた顔のセオドアと目が合った。


「……うわ、俺の奥さま、超女神じゃねぇか……? 天に召されるのでは?」

「勝手に殺さないでください」

「ぐぅううそんな究極美人の睨んだ顔が最高にイイ……!!」

「ねぇ御母堂さま。この男、いつもこんななの?」

「そうです」


 鼻血を垂らしそうな勢いのセオドアを、エルシィは脇に放っておく事にする。

 

 フェイは全員の格好が整った事を確認した後、両手を広げて満面の笑みを浮かべた。


「みんな本当にありがとう! 改めてようこそ、アタシの聖女ちゃんの国、東の帝国鬼灯(グェイドン)へ!」




 

 ホンヨウのセカンドハウスを出た後。

 エルシィたちは、待ち構えていた辺境伯領の統治部隊に襲撃されたのだ。

 ウィズィのいう通り、彼らは聖女の力を武力行使に利用したい思惑があった。偵察部隊がホンヨウとの話し合いが決裂したと知らせるや、すぐさま本部隊が移動し、捕縛しようとしてきたのである。


 現場の状況を端的に言えば、セオドアがブチギレ──る前に、チェンノッタの怒りが爆発した。

 少年の手には、セオドアとルヴィナが取り戻した魔術本があり、ホンヨウと対峙した時の比ではないほど、正確で素早い魔術を行使し始めたのである。

 それは確実に対象の息の根を止める、饒舌に尽くし難いほど激烈な魔術であった。


 セオドアの魔術が繊細かつ強力な武力であるとするなら、チェンノッタはデタラメに生み出される爆発である。

 最強クラスの威力をもった魔術に魔法が組み合わさり、自身も上手く制御できない感情の渦が、そのまま魔術の基礎となって暴れるのだ。

 それこそ怒り心頭であるセオドアすら、青い顔で止めに入るほどだったのである。


「馬鹿野郎!! そんな滅茶苦茶に術を振り回すんじゃねぇ、チェンノッタ!! 心臓を止める気か!?」

「****!! ******!!」

「ああもうこのクソガキが……! わかった、わかった、大丈夫だ、エルシィは無事だ。****?」


 泣きじゃくり喚き散らかすチェンノッタを、セオドアが抱き上げて背中を撫でた。

 小さな少年は必死にセオドアの肩に縋りつき、聖痕のある顔面を衣服に擦り付ける。


 周囲は凄まじい惨状だ。

 怪我をした者もいれば、倒れている者もいて、全員が半狂乱で逃げ出す地獄絵図である。

 エルシィがルヴィナを抱き寄せると、本性に戻ったシテラが四人を包み込んだ。


「おうおうおう御母堂様! ここにいちゃいけねぇ逃げるが勝ちってやつだ!!」

「待って!!」


 オウム状態でチェンノッタとセオドアの間に突っ込んだウィズィに、しかし追いついたフェイの言葉が重なる。

 シテラの花弁に覆い被さった彼は、必死な形相で蔓の籠に助けを求めた。


「お願い、あの脳筋バカの言い分は、確かに分からなくないけど、アタシたちには貴女が必要なの!!」

「フェイさん……っ」

「ようやく希望が見えたの、アタシだって逃したくないわ。ねぇハープシコード、お願い、……お願いよ……、……メイイェンを救って……!」


 ぱたぱたと、頭上から赤い水滴が落ちてくる。

 空洞を歪ませる顔は、泣いているようにも見えて、エルシィは目を細めた。


「……旦那さま、ごめんなさい」

「…………君のそういうところが、どうしようもなく惹かれるな。……んん、よろしい。行かないとは、確かに言わなかったからな」

「直談判しようと思うんです」 

「ん?」


 予想外の言葉に、全員の視線がエルシィに集中する。

 彼女は胸に浮かぶ意志を瞳に燃やして、唇を引き結び顎を引いた。



 


 

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