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第20話




 心の中で宣言した通り、セオドアに脳天杭打ち(パイルドライバー)をかけた次の日。

 チェンノッタの従者、幻想生物ウィジャネクロイを迎えに行く為に、一行は早々に宿泊施設を出立した。


 ウィズィは見た目通り頭脳派なのだと言う話だが、現状、会話が出来るわけではないと言う。

 普段もあの大きさで動き回っていると伝えたチェンノッタに、シテラが大層苦い顔をして眉を顰めた。


「分かりました。私が変化を伝授しましょう」

「ウィズィと話、できるようになる?」

「可能です。我々は聖女の従者。主君との意思疎通を疎かにするのは、従者としての怠慢です」


 彼女曰く、連れ回すには少なくとも小さくなる必要がある。チェンノッタがエルシィに着いて行く為に、必要な手段なのだ。

 チェンノッタは嬉しそうに笑みを浮かべ、再び仮面の紐を後頭部に通して留め具を上げると、ルヴィナが差し出した手を取った。


「今回はノッタくんも一緒に、魔法を使って転移するの?」

「うん。……あまり、じょう()じゃないけど、ママがいるから大丈夫」


 チェンノッタはセオドアの見立て通り、基本的には魔術を使用するのだという。魔法も並行し使用できるが、不得手なのだと彼は仮面の内側で唇を尖らせる。

 だがその魔術も、無数の魔術式を本に書き留め、該当箇所を破いて使用する方法だったのだ。

 魔術インクはピンからキリまであるが、少年の環境下ではなかなか手に入らない。なので手に入った時にまとめて紙に書き、ストックするやり方を実践していた。

 非常に効率の良いやり方だとセオドアは褒めたが、書き込んだ本が手元にないと何も出来ないのが欠点である


 とはいえ、魔法より万能でない魔術では、空間転移は出来ない。

 チェンノッタが行うのは、ルヴィナの魔法を()()する事だった。


「ルヴィナに、合わせる」

「お願いね、ノッタ。 ──“在りし日、追憶の奏”……」

「***、*****」


 詠唱を始めるルヴィナの魔法陣に重なるように、花びらの影が地面を舞い始める。それは月面を彩る影の花吹雪となって、魔法陣を包み込んで柔らかな光を重ねていった。

 幻想的な光景に目を奪われていると、エルシィの片手を握っていたセオドアの手が、僅かに汗ばんでいる感覚がした。

 何事だと視線を向ければ、彼は爛々と輝く瞳で、口元に笑みを浮かべながらチェンノッタを見つめている。


「……すげぇ、魔術式の()()だ。やばいやばい、初めて見たぞ、これが聖女の魔術……!!」


 小さく呟きながら感極まった様子は、本当に魔術が好きなのだろう。

 さながら子供のような無邪気さに、エルシィは思わず眉を下げて笑っていた。




 極寒の地に戻ってきたが、しっかり寒冷地対策をしていたのと、チェンノッタの補佐が役立ったのか、ウィズィの目の前に転移する。


「ウィズィ!!」

 

 飛びついて喜ぶチェンノッタに、幻想生物も根を回して抱きしめ返していた。

 会話不可能というのは本当だったが、チェンノッタが状況を説明すると、木の根を伸ばして握手を求められる。エルシィが快く握り込めば、柔らかな新芽がわさわさと咲き始め、可愛らしい花が一斉に開花した。

 感謝の意を表す幻想生物に、エルシィも苦笑交じりに頭を下げた。


 無事に再会を喜んだのも束の間、ここは地吹雪が舞う山の中である。

 人里に移動しようというセオドアに頷いて、シテラがウィズィに近寄った。


「……貴方さまは始めまして、ですね。私はシテラガルニバス。今から貴方さまの主君は、我らが女神の母体樹さまと同行致します。……その方が安全ですから」


 巨大なヒルギ科植物は、シテラの言葉に動きを停止し聞き入っている。

 そして何事か双方のやり取りがあったようで、ウィズィの体が徐々に萎み始めた。

 少しばかり心配になる音を立てながら、大木はみるみる形を変えていき、最終的には色鮮やかなエメラルド色のオウムになったのである。

 オウムは何度か羽ばたいて空中を旋回し、チェンノッタの肩にそっと留まった。


「……ウィズィ?」


 呼びかけにオウムは言葉を発しようとして、口の開閉を繰り返す。

 二分ほど悪戦苦闘した後、声帯の震わせ方を理解し、パッと笑顔に似た表情でチェンノッタを見上げた。


「おうチェンノッタ!! やべーぞ俺様マジでオメーと喋ってるってヤツだな!? 名前は辛うじて文字で伝えられたがヨォ困ったもんだったぜ!! オメーのところに顕現してからどーやって話しかけるか全然わからんかったけどシテラねーちゃんのおかげだな!! ありがとよ!!」


 四度味するほどの重低音が爆速で話しはじめ、全員が同時に吹き出した。


「こいつはやべぇな、頭脳派って言ってなかったか?」

「……そう聞きましたが」


 腹を抱えて笑うセオドアに、シテラが引き攣った顔で答える。ルヴィナがころころ笑って、ウィズィの羽を優しく撫でた。


「面白い子! わたしはルヴィナ。よろしくね」

「おおうベッピンさんじゃねーか将来はチェンノッタの嫁候補か!? 俺様はウィジャネクロイ様だが本名は長くて好きじゃねぇウィズィって呼んでくれ!!」


 呼吸のタイミングも暇も無い話し方である。重低音も合間って、ルヴィナもセオドアも、なんならチェンノッタすら爆笑だ。

 この幻想生物生来なのか、会話機能に慣れていないせいなのか。エルシィはシテラと同様に顔を引き攣らせる。


 この騒がしさでホールボーム帝国の辺境伯領に行って、大丈夫なのだろうか。

 少し目眩を覚えたエルシィに、ウィズィがハッと我に返って片方の翼を掲げた。


「おうおうそうだった。移動するなら気をつけたほうがいいぜ母体樹様。聖女の元に現れたオメー様を貴族連中が血眼で探し回っているからよ」

「えっ、な、なんでですか?」

「お? なんだオメー様ホールボームのこと知らねぇのか? オメー様と聖女を抱え込めれば内乱で優位な位置につけるからだろーよ」


 軽い調子で物騒なことを言い出したウィズィに、エルシィは呆気に取られる。

 オウムの言葉で一気に現実へ引き戻されたセオドアが、エルシィを片腕に引き寄せながら目を眇めた。





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