湯藤玲衣の話1
友達が、家族が、先生が私のことを優等生という。
まるでそれが私の正しい生き方かのように言う。
私を表す言葉は優等生以外にあるはずなのに、私はどんなところが素敵で、どんなことが魅力か、どんなところが悪いか、私を表す言葉は他にもたくさんあるはずなのに。
友達はいう、玲衣はテストの点がいいね。
家族はいう、玲衣、今回も成績が良かったのね。
先生はいう、藤井、お前がいてくれると助かるよ。
皆んな私を褒めてくれる。
テストの点を、成績を、私の行動を。
褒められるのは嬉しい。
それは当然だ。
だけど、見るのは私が作り出した結果だけだ。
だがそれも仕方ないのかもしれない。
私は自分を飾るものが、それしか無かったから。
とびっきり優しいわけでもなく、とても性格が良かったわけでも、顔がものすごく可愛いわけでも、ただ素の私には何も特徴がなかっただけ。
だから、私は優等生の仮面をかぶって、学校に行き、仮面を外さないまま、家に帰る。
優等生でなければ、きっと私から離れていくだろう。
学校では、アニメの話も、ゲームの話も、私にはわからなかった。
友達が勧めてくれたアニメを見てみた。
でもあまり興味を持てなかった。
でも、面白かったと言って自分に嘘をつく。
そのほうがウケがいいから。
友達の勧めたゲームをしてみた。
あまりハマりはしなかった。
でも友達には楽しかったと言う。
そうやってまた嘘を重ねていく。
他人に合わせているおかげで、私の周りにはたくさんの友達がいた。きっと他の人から見たら充実しているように見えるだろう。
疲れないと言えば嘘になる。
でも、そうやっていかないとみんな私から離れていくから。
だって人は自分の好きなものに相手が共感してくれると喜ぶ生き物だから。
私も誰かと共感できる趣味があったらいいと思う。
そんなことを思い今日も私は優等生になる。
中学二年の秋、私はついに見つけたのだ。
テレビを流し見していた時、ロリータ・ファッションの特集がやっていた。ベージュのワンピース、鳥籠のように膨らんだスカートにはフリルやリボンがたくさんあしらわれている。
ファンタジーに出てきそうな服だ。
でも私にとっては衝撃的だった。
私はテレビから目を逸らせなかった。
きっとこれに私は一目惚れしたんだと思う。
だから私、貯めていたお年玉を全部使って、ロリータ服を買うことにした。
親には言わなかった。絶対反対されると思ったから。
初めて、私もあんな服を着たいと思ったんだ。
早速、スマホで初期費用や売ってる場所なんかも調べた。
初めてのロリィタファッションブランドの中はまるで
宝箱の中のようだ。
店内にはマネキンに綺麗に着せられたロリータ服やハンガーに掛かっているものもある。
甘ロリやクラロリ、いろんなロリータ服があって、とてもワクワクした。服を買うのにこんなワクワクしたのは初めてのことだ。
あまりにも、はしゃぎ過ぎたせいか、店員さんが私に話しかけてきた。
この店員さんは赤いロリータだ服を着ていて、スカートには猫のプリントがされていて可愛い。
裾には暗めの赤いフラルが付いている。
「お客様初心者の方でしょうか?」
「あ…はい」
「どのようなロリィタをお探しでしょうか?」
「それがまだ決まってないんです。」
「そうですか、これなんかいかがです?お客様に似合いそうですが」
店員さんが見せてきたのはくすんだ緑色のワンピースだ。
それも可愛いのだが、私の求めているものではない気がする。
「確かに可愛いですが、私はもっと違うものが見たいです。」
そう言って断った。
それから私は店員さんと引き続き店内を見て回った。
店員さんはいろんなワンピースを私に勧めたがどれも私としては何かが違った。
店に入って三十分くらい経った時、私はまたしても衝撃だった。黒のワンピースにリボンやフリル、レースがたくさん使われて、スカートの部分には青色の蝶のプリントが施されている。
これだ!
私が求めていたのは、
「お客様はゴスロリが好きなんですね。
でしたら、こちらのヘッドドレスが合いそうですが、どうでしょうか?」
なるほど、このドレスはゴスロリという種類のようだ。
それと店員さんがどこからか、ヘッドドレスを見せてきた。
黒と白のヘッドドレスに耳の部分に青いリボンがついている。
確かに合いそうだ。
それから私はワンピースとワンピースに合いそうなハンドバック、靴、ソックス、パニエ、ドロワーズ、ヘッドドレスを買った。
合計で11万9126円った。
ギリギリだ。
思った以上に高くて、事前に調べておいて良かったなと思う。
でもそんなお金のことよりも、初めての私だけのロリータ服を持てたことが、何より嬉しかった。
私の大切な宝物が入ってる紙袋を手に家に帰る。
帰った時にはもう当たりは暗く時刻は、十八時になっていた。ロリィタ服を選ぶのに夢中になり過ぎたかもしれない
家に帰ると、母親が私に声をかける。
「今日どこかに行ってたの?遅くなるなら連絡してね、心配だから。あと早くご飯食べてね。」
「うん、分かったよ」
私は母親の問いに答えて、自分の持っている紙袋を隠すようにして自分の部屋に向かう。
母親はあまり私の持っている袋に興味は示さなかった。
私は部屋に紙袋を置いて、母親が言った通り夕飯を食べて、お風呂に入り、学校の復習をして眠りについた。
でも正直、今すぐにでもゴスロリを着たかったが、明日は休みなので、今日着るのは諦めた。