報告は体育祭が終わったら
「あのね。」
放課後の部室。渉と二人で啓吾が戻ってくるのを待っている。
「ん?どした?」
渉は何か勘付いたのか、思いがけず優しい声音に言葉がつまづく。
「えっと…」
もう一人の幼なじみ、啓吾がせっかく作ってくれた二人きりな時間。
絶対無駄にしたくなくて、もう誤魔化さないと決めた。
後悔したくない。
だけど。
渉が顔を覗き込むようにゆっくり身体を向ける。
「うん。凛が言いたくなるまで待つよ。」
それもなんかずるい。
『好き』だけじゃ足りなくて。
『大好き』だと軽く思える。
『愛してる』はまだ早い。
告白するなら今、なのは分かってるのに胸の辺りがきゅっと縮む。
いっそ理性をすっ飛ばし、ただ「好きだー!」と叫ぶ?
いや むり!
もーぐちゃぐちゃだ。
「ごめん。イジワル、だな。
…俺が先に言っていい?」
え?なに?
渉の真っ直ぐ見つめる目を恐る恐る見つめ返し、微かに頷く。
突然の展開に脳の回転がもたつき、渉の言葉の予想が出来ない。
真剣な顔。
見たことない。
瞳の奥。
強い引力。
目を逸らせない。
息が詰まる。
顔が強ばる。
耳が熱い。
動けない。
待って。
言葉を。
何か言葉を。
えっと。
えっと。
距離が縮まる。
引き寄せられる。
え。
うそ。
これは。
手が耳の下を通り
首すじに回る。
もしや、
これは。
視線が唇に移る。
これは。
顔が近付く。
近づく。
まぶたが勝手に閉じる。
心臓、いたい。
やっぱ待って。
私ってばなぜ目を閉じた?
どうしよどうしよ。
やっぱり目、開けたいっ。
ちゅ。
え!?わーーー!
『そうかも』だったけどだったけど!
唇が離れ、改めて見つめ合う。
「やべ。泣かせちゃった。」
「え?あ。やだごめん!」
幸福感より先に多分安堵感だ。
慌てて涙を拭う。
「好きだ」と、照れる渉。
「順番間違えてるよ!」と、ふくれる私。
ホントは順番なんてどーでもいい。
これは…現実だよね?
赤い耳たぶを引っ張る。
「痛っ。ごめんて。」
「あ、間違えて渉の耳たぶ引っ張っちゃった。」
照れ隠しが下手なのはお互い様だ。
渉は長机に座る。
「あの…さ、啓吾に何て言う?」
「うぁ…だね。改まると言いにくい。」
「取り敢えず体育祭が終わってからにすっか。」
「うん、忙しそうだしね。って逃げる口実ひどい(笑)」
「ちゃんとするよ。にしても啓吾が実行委員って似合い過ぎ。」
「あははっ!ホントそれ!」
「しかも委員長ってな。」
「お待たせ!帰ろ!」
まだ何も知らない啓吾がドアを開ける。
背後の西日で顔は見えないが、きっといつもの笑顔だ。
まるでトライアングルレッスン(笑)
良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですがどこかに繋がりがあります。