009 宿に戻ると①
「あの子はこの近所の出身でね。今でも年に数回顔を出して子供達と遊んでやってるんですよ。だけど、1級の冒険者になったって浮かれてますけど、ランクが上がって危険な依頼で怪我でもしないか、それが心配でね。」
「1級ともなると、私のような冒険者とは全然違いますから、心配でしょうね。でも、さっき彼も言ってましたけど、頼りになるパーティのお仲間もいるようですから、助け合うのはもちろん、無茶もしなくなりますよ。」
「そうですね。だといいんですけど。」
「大丈夫、あの人加護が付いてるから。」
「加護?」
「まあ、シマノフスキさんは見えるのかい?」
シバケンとクラレラが同時に声を上げて、シマノフスキの顔を見る。
加護が見える?
シマノフスキには、シバケンが知らない隠された能力がまだありそうだった。
「実は、あの子の亡くなった祖母というのが、私の幼馴染なんだけど、彼女もまた冒険者だったのよ。2級までいったけど、祭司やっていたお爺さんと出会い、恋に落ちて惜しまれつつ冒険者を辞めたのよ。そして生まれた子供は病弱で、誰とも知れない種を宿して、あの子を産んですぐに亡くなったんだけど、それを悲観した彼女と夫の祭司は、あの子に加護を与えたって訳さ。まさか彼女達が亡くなって10年になろうかというのに、まだ加護が残ってるのね。たしかに彼女の魔法は評判だったし、夫の祭司もタランテラ市の大聖堂での職を辞してこちらに来たって言ってたから、優秀だったのだろうね。あら、やだ。すっかり話し込んじゃったわね。そろそろ虫干しした物を神殿の倉庫に戻さなきゃね。」
「わかりました。それじゃ、先に2人で行ってますね。」
「ごめんなさいね。食器を片付けたら、アタシも後から行くわね。」
「急がなくても大丈夫ですからね。元にあった場所に戻しておきます。」
日陰に広げた筈が、時間の経過と共にすっかり日の光を浴びていた。
直射日光は良くないと、シバケンはシマノフスキに声をかけて急いで神具を片付ける。
急いでとはいいながら、乱暴に扱うと壊れてしまうような老朽化が進んだ物も多く、慎重に取り扱う。
クラレラが来た時には、重たい物は全て倉庫に収まった後だった。
「まあまあ、すっかり綺麗になったわ。」
細々とした物を棚にしまいながら、クラレラは神殿の中を見回していった。
「こんなに綺麗になるとは思わなかったし、こんなに早い時間に片付けが終わるのなんて初めてよ。シバケンさんとシマノフスキさんに頼んでよかったわ。」
最後の小物をしまうと「口に合えばいいんだけど」と言って、クラレラは依頼の完了証と共にシバケンに包みを渡した。
これが話に聞いていた、お土産のクッキーとジャムなんだろう。
「ありがとうございます。後で楽しませてもらいますね。」
クラレラに見送られながら、シバケンとシマノフスキは冒険者ギルドに足を向けた。
途中、ヴィクターに会えるかと思ったが、子供達を連れてどこかへ行ったのか、子供達の姿も見えなかった。
「はい、依頼完了ですね。報酬は銀粒5顆です。」
クラレラから受け取った依頼完了証をギルドの受付に提出し、その報酬を受け取った。
昼間のこの時間なので、ギルドの中は閑散としていた。
恒例となっている掲示板チェックも、こんな時間まで残ってる依頼にろくなものは無く、シバケンはチラッと流し読みするだけで終わった。
シバケンとシマノフスキは、冒険者ギルドを出ると、その足でドラナー亭に帰る事にした。
「この村にはあんまり依頼もなさそうだけど、シマノフスキどうする?せっかくだからヤーチッキ釣りっていうのを見てから帰る?それとも明日ゴモ村に帰ろうか?」
「釣り見たい。」
「へぇ、釣りを見てみたいんだ。わかった。それじゃ明々後日から始まるみたいだから、それまで軽い依頼を受けてこの村で過ごそうか。」
シマノフスキが釣りに興味があるのは意外だった。
さっきの加護の件も含めて、まだまだシマノフスキについて知らない事も多いようだった。
「ねえ、シマノフスキ。私には加護は付いてる?」
「付いてない。」
ダメ元で聞いてみたが、やっぱり無いみたいだ。
「スキルとかは分かる?」
「《牽引》」
「おっ?!スキルはわかるの?」
「前に聞いた。」
「そっか。。。」
どうもシマノフスキの能力は鑑定とかではないらしい。
なぜ加護が見えるのかは、よく分からない。
そもそも、加護というのもシバケンにはよく分かっていなかった。
とはいえ、まずはシマノフスキが魔石を使いこなす事の方が、今のシバケンには先決だった。
シバケンは足湯に思いを馳せて、ドラナー亭への道を急ぐ。
「おい、シバケン。」
戻る途中、香辛料を籠に詰めたドラナーが声をかけてきた。
「あれ、買い出しですか?」
「おうよ。さっき知り合いの漁師が形のいいノヤを持って来たからな。急遽メニューの変更だ。今日はノヤの香草焼きだ。」
「ノヤ、ですか?」
「何だ、好きじゃねぇのか。じっくり炭火で焼いて、皮はパリパリ、身はプリプリ。他所とは比べられねぇぞ、うちのは。」
どうやら、ノヤとは魚のようだった。
当たり前の常識を身に付けていないので、他国出身では乗り切れないところもあり、なかなか油断は出来ない。
「いえ、楽しみですよ。ただ、あんまり贅沢も出来ないんでね」
「ん?どうした?ああ、金か。今日依頼をしてきたんじゃないのか?」
「ええ。ただそんなに報酬の良い依頼じゃなかったですから。」
「そうか、大変だな冒険者も。うん?手に提げたジャムって、依頼はクラレラさんのか?」
「ええ。ご存知ですか?」
「こんな狭い村だ。当たり前じゃねぇか。そうか、そりゃ報酬は少ないわな。むこうで、ジャムとクッキーは食べてきたのか?」
「いえ、お土産で貰っただけで、まだ食べて無いですよ。」
「よし、それなら、今からティータイムといこうか。久しぶりにクラレラ婆さんのジャムと洒落込もう。カミさんにも分けてやってくれ。それで、今日の晩飯はまけてやるよ。」
「そんな、悪いですよ。」
「なに、気にすんな。あそこのジャムはウチのカミさんも娘も好物だしな。」
クラレラさんのジャムは、カンナさんの好物なんだ。
お土産に買って帰ろうかな、と考えながらドラナーと共に宿に帰る。




