007 次の日
酒は残ってないが、胃もたれがした。
さすがに食べ過ぎたみたいだ。
あの後、ドラナーとの会話が弾み、スペアリブを追加して、さらに肉団子、揚げ魚とヘビーな物が続くなか、シマノフスキがチーズが食べたいというから、塩気の強いチーズとよく熟したイカンの果肉だけのサラダまで食べてしまった。
それがまたアッツ酒によく合って、止まらなくなってしまった。
締めに、風邪の予防に良いといって、ドラナーがイカンの皮を煮出して他の香辛料と合わせたお茶を出してくれた。
どれも美味くて、全部食べたが、それがいけなかった。
シマノフスキは満足したのか、まだぐっすり寝ている。
昨日の仕事がきつかったのもあるだろう、とシバケンは音を立てないよう静かに部屋を出ていった。
宿には行商人と冒険者のパーティという2組の客と泊まり合わせているらしいが、昨夜チラッと見たきりで、今も部屋からは物音ひとつしなかった。
シバケンは洗い場に行き顔を洗いながら、料金の事を気にかけていた。
マクナからの荷物運びの報酬が、銀貨2枚の20,000ガン。
昨夜2人で泊まって、あれだけ呑み食いしたら間違いなく足が出ているだろう。
何の事はない、あんな辛い思いをして赤字だなんて洒落にもならない。
この集落で、何か仕事を請けたりは出来ないだろうか?
そもそもこれぐらいの規模の集落に冒険者ギルドはあるのだろうか?
「そりゃ冒険者ギルドはあるさ。」
朝食がわりのアッツジュースを飲みながら、食器を洗っているドラナーと話す。
おカミさんは、食材の買い出しに行っているらしい。
「とはいっても、常駐してる冒険者なんてほとんどいないからな。ギルドの仕事といっても、ゴモ村やプリズメイン村へ依頼を掲示するための連絡業務と、後は手伝い仕事みたいなのがメインだけどな。」
「むしろ、そっちの仕事の方が助かりますよ。」
「そりゃそうだ、お前さんじゃ荒事は難しそうだからな。シバケン好みの仕事ならあると思うぜ、行ってみな。場所は案内するほどじゃねえよ。ウチの店の前の道をずっと左に進むと、ウトゥーギ神殿があるから、その斜向かいだ。行けばすぐにわかるぜ。あと一刻もすれば開くはずだから、ボウズ起こしてゆっくり歩けば丁度いいんじゃないか。」
早速部屋に戻ると、シマノフスキはまだ布団にくるまっていた。
「寒いので起きられない」と言うのを、何とかせきたてて、顔を洗ってやる。
朝食はいらないと言うので、同じくアッツジュースを飲ませて、2人で宿を出た。
ドラナーに言われた通り店の前の道を左に進む。
道すがらに雑貨屋や食料品店などがあり、開店準備中の店先を軽く眺めると、ゴモ村とはまた違う物も売られていて楽しかった。
後でゆっくり来よう、とシマノフスキと話しているうちに神殿が見え、その斜向かいには冒険者ギルドを確認する事が出来た。
シバケンは特別信心深い訳でも、もちろん、ウトゥーギ神を信仰している訳ではないのだが、ゴモ村のそれとは違い、こじんまりとした神殿を詣る事にした。
散歩の途中で近所のお地蔵さんをお参りするのと同じ、というとこちらの人に怒られるかな、などとシバケンは考えながら神殿に入る。
先に詣っていた獣人の夫婦と、当たり障りのない話をして、シバケンとシマノフスキはウトゥーギ神に頭を下げる。
こちらの参拝のしきたりなど分からないが、こちらの世界でも寒い日の朝のお詣りは、シバケンを清冽な気持ちにさせてくれた。
神殿を出て、冒険者ギルドに入る。
小さな集落の事なのでギルドは寂れているかと思ったが、小さくはあるが綺麗に掃除が行き届いていた。
ゴモ村の冒険者ギルドは受付カウンターだけが並び、他の職員の姿をこちらからは見る事は出来ないが、ザッカリーナのギルドは、カウンターで仕切られた向こう側に6名が机を並べて仕事をしているのが丸見えだった。
村役場スタイル、という感じか。
依頼の掲示板は入り口扉のすぐ隣に貼ってあったが、見ている人は誰もいなかった。
沼の清掃(日当銀貨1枚 昼飯付)
集落内の道の補修(日当銀粒7顆)
害獣駆除の手伝い(銀粒8顆)
村長宅の雨漏りの工事(工期3日 報酬銀貨3枚銀粒5顆)
プリズメイン村までの荷役(日当銀貨1枚)
ドラナーの言葉通り、シバケンには丁度いいぐらいの仕事内容が多くて助かったが、ゴモ村に比べると若干単価が安いような気がする。
「これは?」
シマノフスキが、掲示板から下半分が飛び出すように掲載された紙を示した。
シバケンは腰を屈めてそれを見る。
神殿の改修(日当:銀粒5顆 お土産付)
先程の神殿は改修をするほど傷んでるような気配はなかったが、とシバケンは訝る。
日当から判断するに、軽作業といったところだろうが、お土産というのも気になる。
昨日あんな目にあったので、屋内作業というのも魅力的だった。
とはいえ、日当銀粒5顆(5,000ガン)では、2人の宿泊費と昼飯代だけで足が出そうだ。
昨日の晩のような散財は、夢のまた夢だ。
シバケンは悩んではみたが、屋内の軽作業という仕事内容に惹かれて、紙を剥がして受付に持って行く。
「おはようございます。旅の方ですね?それじゃまずは、冒険者証を。」
受付に立ったのは、シバケンと同年輩の女性だった。
シバケンは、自分とシマノフスキの2人分の冒険者証と共に、昨日マクナから受け取った依頼完了証も提出した。
「はい、ありがとうございます。ああ、マクナさんからの依頼で、ゴモ村からザッカリーナまでの荷役ですね。伺っておりますよ。依頼の完遂、ありがとうございました。報酬は今から準備いたしますね。それで、今日は別の依頼を受けて頂くんですか。ああ、クラレルさんの件ですね、よかったわ。日当があまり良くないから、なかなか受け手がいないんですよ。」
「2人で受けていいですよね?」
「お2人とも6級の冒険者ですね。それなら、もちろん大丈夫ですよ。あと、近所の子供達も手伝いに来ますから。」
「子供も?」
「ええ。毎年やるんですけど、クラレラさんはその時に子供にクッキーとジャムを渡すのが楽しみらしくて。美味しいんですよ、クラレラさんのお店のジャムは。」
「それじゃ、ここに書いてある。お土産というのは?」
「ええ、クラレラさん自慢のクッキーとジャムよ。」
受付けの女性はにっこり笑う。
クッキーにジャムか。
甘い物は基本嬉しい。
子供も手伝うぐらいなら、本当に軽作業なんだろうし、安い報酬でこき使うような阿漕な依頼者でもなさそうだ。
この仕事、アリだな。
シバケンは1人ほくそ笑む。
「クッキーもジャムも好きですから、この仕事やりますよ。」
「わかったわ、それじゃ手続きを進めるわね。」
報酬の受け取りと合わせて、軽く書類のやり取りをしたのち、依頼者の場所を聞く。
どうやら、このギルドの斜向かいにある神殿とは別に、集落の外れに朽ちた神殿があるのだという。
祀られているのはウトゥーギ神の従神で、かつてその従神を祀る人々が集まって出来たのが、このザッカリーナだという。
その従神は、今では新しく、と言っても50年以上前だかに建った、ギルドの斜向かいの神殿にウトゥーギ神とともに祀られているという。
そのため、そのかつての神殿はほとんど忘れ去られ、今では近所の人が花を捧げるぐらいだという。
「そうそう、お土産のクッキーなんだけど、そのまま食べちゃダメよ。」
「へっ?」
「この辺りでは当たり前なんだけどね。旅の人は知らないと思うけど、まずハーブティにジャムを溶かして、その後クッキーをそのお茶に浸して柔らかくなったのを食べるのよ。そのままクッキーを食べたら歯が欠けちゃうぐらい硬いんだから。」
受付けの女性が笑いながら、シバケン達2人をギルドから送り出した。
前の世界でも、歯が欠けるぐらいの堅焼きの煎餅があったなぁ、シバケンはふと懐かしく思い出す。




