034 再び遺跡にて⑤
「《狂化》のスキルかい?」
ゴブリンメイジにやられた傷の痛みに顔を顰めながら、ヌブーは言う。
マナカはようやく目が開けられるようになったらしく、眩しそうにアイルッシュを見ている。
当のアイルッシュは、身体への負担が大きいのか、地面に座り込んでいた。
ひとりラガだけが、目眩しの後遺症もなく、岩の隙間からゴブリンの様子を観察していた。
「ああ、お察しの通りさ。狂化をキープする時間がまだまだ短いが、ここ一番の時にはアイルッシュのスキルは頼りになるぜ。」
ラガはそこで一旦言葉を区切り、3人の姿を見下ろしながら言葉を続けた。
「さて、皆怪我の具合はどうだ?ヌブーは派手にやられたみたいだな。肋骨ぐらい傷めたか。アイルッシュはそれぐらいなら大丈夫だろ。マナカは怪我は無さそうだな。よしよし、上出来だ。」
ラガは楽しそうに言うと、自分の薬を全て出した。
「ヌブー、魔法薬と痛み止めだ。アイルッシュ、お前も痛み止めを飲んでおけ。あと、剣に塗る毒薬を忘れずに塗り足しておけよ。それが終わったらヌブーに治療魔法を頼む。マナカは、目はもう大丈夫か?それなら、奴らの動きを見ててくれ。ヌブーの治療が終わったら、第3ラウンドのスタートだ。」
ヌブーとマナカは呆れたようにラガを見返す。
「噂通りのイカレっぷりだな、ラガ。お前の《自然治癒》のペースには付き合えないからね。アイルッシュも大変な相棒持って、ご愁傷様だな。」
現に先程の戦いで傷を負ったはずのラガの体から、その傷は消え始めている。
「おい、大丈夫なんだろうな?」
「旦那は黙ってて下さいよ。これから、楽しくなりますからね。ヌブーへの治療魔法が終わったら、剣に毒を塗りますから、もうちょい待ってて下さいよ。」
隅のがらくた置き場から身を出して、サナックは心配そうに声をかける。
それを、アイルッシュは嬉しそうに遮る。
「やれやれ、相棒もイカレてるってやつかい。マナカ、奴らの動きは?」
「ああ、ゴブリンメイジは、相当お怒りだね。ゴブリンに八つ当たりをしてるよ。」
「怒るって事は、傷は浅手か。さっきの魔手で、使う魔法は全部で5種か。相当に厄介なやつだ。」
そこからは小康状態が続いた。
2、3匹ゴブリンが近付いてきたが、マナカが的確に頭部を射抜く。
(痛ぇよ。痛ぇよ。憎たらしい人間共め。)
『ゴブリンメイジ様。酒を今用意させますので。あと、先程外の警戒に出した仲間を呼び戻したので、すぐに増援も来ましょう。』
『ああ、そうだな。人間共の本隊も来るかもしれんが、まずはあの忌々しい奴らを殺して食う。』
『ええ。ゴブリン共も食いたがってますよ。』
『味は期待出来んが、生きたまま食らい、断末魔の声でもスパイスにしたらまんざらでもないだろう。』
ゴブリンが恐々持ってきた酒を、奪うようにしてひったくり口にする。
『あぁ、痛みがひくようだ。お前も飲め。』
『えっ?よろしいので』
『ああ、構わん。あのホブゴブリンにも盃をとらせてやる。』
二匹の魔物は嬉々として盃を口にして、恍惚の表情を浮かべる。
他のゴブリン達も、めいめいに食事をする。
腐鳥はゴブリンの屍体を啄んでいる。
と、ゴブリンが急ぎ戻ってくると、ゴブリンメイジに何かを報告をする。
『よし、いよいよだな。オレがあの障壁から奴らを引きずり出すから、1人残らず殺せ。後からシャーマンがラーキーを連れて戻ってくる。』
ゴブリンが興奮して、歯をカチカチと鳴らし唸り声を上げた。




