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033 再び遺跡にて④

(厄介な冒険者共だ。何が狙いだ。オレの魔石か。それとも、オレの集めたお宝か。)


 イライラしながらゴブリンメイジは、かたわらの頭蓋骨で作った器から、忌腐酒を煽る。

 全身に力がみなぎるような感覚と、高揚感が沸き起こる。

 忌々しげに眺めると、自分の放った大岩の魔法を障害として利用する小賢しさが一層腹立たしい。


(魔法使いが1人と、戦士が2人。あとは狩人のようなのが1人。後ろでコソコソしていたのが1人いたようだが、奴は気にする事もあるまい。こちらは、ホブゴブリンが3体とゴブリンシャーマンが2体か。)


 再び、頭蓋骨の盃を取り上げ、ニヤリと笑ったのか不気味に顔を歪める。


『周りに火を焚け。燻り出してやるわ。出てきたところを、数で押せ。奴らに連携は取らせるな。ゴブリンを四部隊に分け、ホブゴブリン一体にそれぞれの部隊をつける。残った一部隊はゴブリンシャーマンについて、後衛としてオレの警護も兼ねよ。残ったシャーマン、お前は急ぎ仲間を呼びに行き、ラーキー共を連れて帰って来い。オレは今からもう一度大岩の魔法を使う。』


 ゴブリンメイジが指示を出すと、ゴブリンは統制の取れた軍隊のように動いた。


(待てよ。腕利きとはいえ、あの人数とは解せんな。尖兵か?後から本隊が押しかける気か?となると、外の連中を集めるのは待ったほうがいいな。なるほど、小賢しい人間の考えそうな事だ。)


 忌腐酒に手が伸びる。


(美味いな)


 そのまま、盃を飲み干す。


(飲めば飲むほど頭が冴えるようだ。よし。)


『ホブゴブリンの一隊は、外に行け。今出たシャーマンと合流して、後から来る人間共に気付かれずに後ろから襲い掛かれ。』


(これでよし。あとは大岩で障害物を作り、出口を一箇所にして、周囲に火を焚き炙り出してやるわ。)


 頭蓋骨に手をやると酒が入っていなかった。

 苛立たしげに、かたわらに控えるゴブリンに忌腐酒を注がせると、愛おしそうに口に運ぶ。

 その間にゴブリン達は薪を集め、岩の周囲にそれを敷き、火をつける。


「ラガさん、やばいんじゃねえか?ゴブリンにあんな知恵があるなんて聞いた事ないぜ。」

「待てアイルッシュ。今出るのは危ない、メイジが何か仕掛けてくるぞ。」


 と、ラガが声を立てる前に、先程よりもさらに大きな衝撃が障壁を襲う。

 ヌブーが顔を顰めて、膝を突く。


「なんて威力だよ。さっきよりも大きな岩が、どんどん積み上がって行くよ。」

「おいおい、出口を一箇所に絞られちまったぜ?まさかゴブリンがこんな作戦を取るとは予想してなかったよ。ラガさん、熱が伝わる前に出るしかねぇのか?」

「2人とも、慌てるな。この程度の事は想定してるさ。作戦はさっき言った通りで、変更は無しだ。マナカ、煙玉はあるか?よし、合図と共に火に投げ入れろ。ヌブーは準備はいいか?」

「ああ、魔物の浅知恵を、そっくりそのまま返してやるよ。」


 というと、左手の拳を握りしめる。

 すると、薪の火が巻き上がり、渦を巻くような火の奔流となる。

 マナカはラガの合図で煙玉を投げ込む。

 催涙性の黒煙を纏った炎の奔流は、ホブゴブリンの頭上を越え、ゴブリンメイジ目掛けて迫る。


「行くぞ!」


 ラガとマナカはホブゴブリンの集団に踊り込む。

 マナカは巧みに弓を操り、黒煙に目をやられたゴブリンを一匹ずつ確実に仕留める。

 ラガは目もくれずにホブゴブリンに襲い掛かる。

 棍棒を持った右腕を切り落とす。

 ホブゴブリンの絶叫が響く。


(小賢しい人間共め!)


 ゴブリンメイジは迫り来る火の奔流の直撃を受けたが、怯む事なくヌブーの顔を睨み返す。


(あいつだな。さっきの魔法封じもあいつだ。全部あいつだ)


 憎悪に顔を歪めて右手の握り拳をヌブーに一直線に伸ばす。

 左手は顔を向ける事もなく、忍び寄るアイルッシュの方に突き出す。

 両方の拳から、空気の歪みが出ると、それがそのままゴブリンメイジの拳の形を成した。

 左手はアイルッシュの喉を掴む。

 ゴブリンメイジはそのまま左手を上に掲げ、放り投げる仕草をすると、アイルッシュの身体が空中に持ち上げられ、その勢いのまま放り投げられる。

 右手はヌブーの胴体を掴むと、ぐっと締め上げる。

 ニヤリとゴブリンメイジが笑うと、左手を頭上にかざす。

 赤ん坊の頭ぐらいの石が、ヌブーの周りに無数に降り注ぐ。

 直撃を受けたらひとたまりもないが、ヌブーは障壁魔法を唱え、かろうじて直撃を避ける。

 巻き添えを食らったゴブリンの死骸が周囲に転がる。

 ゴブリンメイジは、忌々しげに右手を振り下ろし、ヌブーを地面に叩きつける。

 強烈な勢いで叩きつけられたヌブーは、ピクリとも動かなくなった。

 ラガは片腕のホブゴブリンを葬り、最後のホブゴブリンと対峙していた。

 マナカは壁に叩きつけられたアイルッシュの介助をしていたが、慌ててヌブーの元に駆け寄る。

 アイルッシュは剣を杖代わりにして、なんとか片膝をつき立ちあがろうとしている。


『人間共、これで終わりだ!』


 ゴブリンメイジは、両方の掌を広げ、横たわるヌブーの方を向ける。

 駆け寄るマナカと、そばでホブゴブリンと対峙するラガが射程にはいると、魔法を放つ。

 黒い霧のようなものが周囲を覆ったかと思うと、そのまま通り過ぎて消えていく。


 マナカとラガは共に目を押さえる。

 目眩しの魔法の直撃を受けたのだ。

 蝋燭の僅かな光にも過敏に反応して、眩しさに涙が溢れてしまう。


ガァァ


 ホブゴブリンとは違う唸り声と共に、何かがゴブリンメイジに躍り掛かる。

 完全に不意をつかれたメイジは、肩口から血を流して大きく後退する。

 アイルッシュが剣を振り上げているが、深追いせずに踵を返し、ゴブリンの集団に向けて切り掛かる。


「よし、一旦、障壁の中に戻るぞ。」


 ラガはヌブーを連れて大岩の隙間から中に入る。

 目を抑えながら、マナカもヨロヨロとそれに続く。

 一番最後にアイルッシュが血刀を下げて障壁の中に戻ってきた。

 

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