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031 再び遺跡にて②

 話は少し戻って―


 アルゲリッチがホブゴブリンを床に叩き付けた衝撃で、遺跡の床に大穴が空いた。

 当のアルゲリッチの他、ダッカーナ、シバケン、シマノフスキの3名が巻き込まれたのを確認する事は出来た。


「おい、ダッカーナ女史の身を守るのが仕事だろ。こんな魔物早く何とかして、すぐに下に行く手筈を整えろ。」


 サナックのヒステリックな声が虚しく響いた。

 それをラガが冷静に遮り、戦闘の指示を出す。

 ホブゴブリンこそ逃しはしたが、ゴブリンシャーマンと腐鳥は仕止める事が出来た。


「なぁ、サナックの旦那。俺たちは女先生の護衛が仕事だが、旦那の身の安全も守るのも仕事なんだよ。今来たゴブリン達、何かおかしいだろ。ホブゴブリンにゴブリンシャーマン。それに腐鳥ときたら、きな臭い臭いしかしない。荷物もあのシバケンってのと一緒に落ちたから、このまま先に進むのは無理だ。一旦洞窟の外に出て、救助隊を募って態勢を整えてから臨むのが最善だと思う。」

「いや、そんな訳にはいかない。書状がさっきのゴブリン達に持っていかれた。あれがないと国には帰れない。」


 と、言っているそばからネークの群れが襲ってきた。


「毒消しは荷車の中だ。やられたら厄介だぞ。で、サナックの旦那。書状って何の事だ?」


 領主からの依頼書で、その書面へのサインをもって依頼終了が認められる、という重要な物らしい。

 それを鞄ごとゴブリンに持っていかれたのだという。

 ラガは一瞬何か言いたげな表情を浮かべたが、仕方なく一行は出口とは逆の、ゴブリンの住処と思しき奥に進んでいった。


 かつては水場として使われていたであろう其処は、いまは水も枯れ果てていた。

 ゴブリン達はその水場を囲むように集落を形成していた。

 ラガ達による襲撃の情報は出回っているとみえて、ゴブリンは興奮した甲高い唸り声をあげている。

 集落の奥のひときわ高い櫓の上に、明らかに他のゴブリンとは異なる容姿のゴブリンが陣取っていた。

 ボロの着物を羽織り、髑髏を括り付けた木の枝を杖代わりにして、辺りを睥睨するかのように立っていた。

 ホブゴブリンとゴブリンシャーマンが頭を垂れている。


「あれはどういう事だ?」


 入口の岩陰に全員が身を寄せてその様子を見ていた。

 サナックが誰にという訳でなく、口から驚きの声を漏らした。


「初めて見るけど、たぶんゴブリンメイジだね。」

「ゴブリンメイジだと?」

「ああ、間違いなさそうだ。ゴブリンシャーマンの上位種で間違いなさそうだ。冒険者の頃に一度見た事がある。」


 驚愕するサナックにラガが説明する。

 ゴブリンメイジの存在に、驚きと共に緊張が走る。


「なぁ、今の状況で護衛だとか尖兵だとかは言ってられねぇ。この場はオレが仕切るぜ?」

「任せるよ。元2級冒険者のあんたに従うよ。マナカもいいだろ?」

「ええ、ヌブーがそれでよければ、任せるわ。」


 マナカの見立てでは、サナックの鞄は他の戦利品と共にゴブリンメイジのそばに積まれているらしかった。

 さすがにあそこまで忍んでいき、鞄だけ取り返すのは不可能だった。

 と、後ろから足音が聞こえたので、一行はさらに身を潜める。

 その脇を通り過ぎたゴブリンはゴブリンメイジの元へ一直線に駆け寄り、何やら報告をしている。

 ゴブリンメイジはしばらく考えた後、何事かを命じると、そのゴブリンは再び元の方へ小走りに駆け出していった。

 と、ゴブリンメイジは残ったホブゴブリン4体とゴブリンシャーマン3体を集めた。


「さて。ラガどうする?この人数での強行突破は流石にきびしいよ。」

「ああ、しかもさっき脇を通りすぎたゴブリンの動きも気になるな。外に出ただけならいいが、仲間を呼んだら厄介だ。ヌブー、魔力はまだ?」

「ああ、あそこにいる奴ら全員に対して充分かって言われると困るけどね。まぁ、まだ大丈夫さ。」

「そうか。マナカは道具は何を?」

「ふふ。こうやって、身を潜めながら持ち物の確認をするなんて、駆け出しの頃を思い出すね。」

「軽口はいいから、何を持ってるんだ。」

「おお、役人様は怖い怖い。あるのは、閃光弾と爆裂弾、催涙弾がそれぞれ少し。あとは痺れ薬を仕込んだ矢ぐらいかな。」

「そうか。アイルッシュも、まだいけるな。」


 アイルッシュは頷く。


「よし。食糧と水と薬はさっき落ちたから、持久戦は無理だ。一気に踏み込んで、まずは先手を取るのが理想だな。」

「ラガ殿。皆で陽動してるうちに、マナカが盗む訳にはいかないのか?書状さえ手に入れば、ゴブリンなど相手にせずに国に帰れるのだが。」

「サナックの旦那、さっきから言おうと思ってたんですが、少し黙っててもらえますか。あそこにいるゴブリンメイジを普通の魔物と思ったらいけませんよ。場合によっちゃ人間より悪知恵の働く厄介なやつなんだ。そんな小細工通用しませんよ。それに、我々の狙いがその書状だとわかった時点で、人質を取られたようなもんだ。我々の目的を悟られないのも重要な事なんですよ。」


 ラガに言われて、サナックは不承不承黙る。


「さてと、持久戦は避けたいが、短期決戦するほどの戦力は無え。となると、ひとまず退路に近いあのスペースを確保し、敵の戦力を削いでいこうかね。」


 と言って、ラガは右前方を指差した。

 そこはゴブリンが食事を摂り、寝ているスペースだ。


「確かにあそこは場所的にも逃げやすいし、障壁さえあれば守りやすいかもしれないね。」

「それに、制圧するにしても、あそこにはゴブリンしかいないから絶好だ。」

「そういう事よ。数は多いがゴブリンだけだから、アイルッシュとマナカの2人でいけるだろう?オレとヌブーで他の魔物の牽制をするぜ。」

「だけど、肝心の障壁はどうするの?魔物の牽制をしながら、障壁までは難しいわよ。」

「ああ、それぐらいならアイルッシュの魔法でいけるだろ。あとは物理的に障害物を置くから、何とかなるだろう」

「あの数のゴブリンを相手にしつつ、魔法で障壁ですかい?ラガさん、相変わらず人遣いが荒いよ。」

「なら、変わるか?こっちはホブゴブリンとゴブリンシャーマンに加えて、ペットの腐鳥もいるんだぜ。」


 と、ニヤリと笑う。


「だけど、ラガ。ゴブリンメイジはどう動くと思う?」

「そこは正直わからねぇ。ゴブリンシャーマンは一つの魔法しか使わねぇが、メイジとなるといくつの魔法を使えるか分からねぇ。まぁ、5つは超えねぇってのが定説だけどな。ただ、あいつの動きは予想はつかねぇが、オレとお前さんならなんとか持ち堪える事は出来るだろ。」

「不安な作戦だけど、この戦力ならそんな作戦が妥当なところかね。こうなったら、虎の子の魔法薬の厄介になる羽目になりそうだよ。」

「ああ、無事に帰ったら、サナックの旦那から、たんと追加報酬を貰えるように掛け合うさ。よし、それじゃ、そろそろ行こうかね。」

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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