028 遺跡の地下②
「えっと、アルゲリッチさん、どうしましょう?急いで出口を探すのが最優先ですよね?」
「ああ、だけど今通ってきた道も、埃と蜘蛛の巣だらけで、魔物が住んでる気遣いは無さそうだな。それぐらいなら、アタシでも分かるさ。で、ヌブーから昨日チラッと聞いただけなんだけど、この坊やは魔法は使えるのか?」
「使えるといえば使えるんですけど、、、何の魔法を使うか、とか、加減して使ったり、とか、自分で制御出来てるのかどうか。」
「危なっかしい話だね。だけど、シバケンも、ちょっとは興味はあるんだろう?」
「ええ、もちろん。それじゃ、アルゲリッチさんも?」
「まぁ、あたしも冒険者だからね。自分の物にならなくとも、好奇心はあるからな。探索に時間が掛かるようなら、さすがに一旦打ち切りにして、やってみるだけやってみようぜ。」
「何かあったら、頼みますよ。アルゲリッチさん。」
2人での小声の相談を終えたシバケンは、ダッカーナの顔を見る。
「お待たせしました。先生、シマノフスキも一応魔法が使えますから、扉の開錠を試してみますか?」
「まさか?!この子が?でも、私だって全くのズブの素人じゃないわよ。少し魔力があるぐらいなら、結果は同じだ思うけど。彼はどれぐらい使うの?」
「どれぐらい、というと?」
「先生、こいつは魔術師ギルドに登録してないから、ランクは無いんだよ。だけど、ディガーを討伐するだけの魔力は持ってるぜ。」
「ディガーですって?彼が?」
更に信じられないように、シマノフスキを見返す。
「まぁ、ベテランの冒険者であるあなたが言うなら本当なんでしょう。」
「先生、あたし達も好奇心からこんな提案してるけど、探索に時間がかかるようなら、一旦打ち切るって約束はしてほしい。」
「ええ、もちろんよ。」
「あと、心配なのが、シマノフスキはさっきも言った通り魔術師ギルドに登録していないんだ。だから、魔力の制御がうまく出来ないかもしれない。魔力が足りない時は問題はないだろうけど、注入し過ぎて壊れる、なんて事はない?」
「壊れる?よほど高位の魔術師でもあるまいし、そんな魔力はありえないわ。むしろ、セキュリティ上多量の魔力でも壊れないようにする為に作ったんだから。当たり前の魔力ならピクともしないはずよ。」
「わかった。それを聞いて安心したよ。それじゃ、やってみようか。」
シバケンは、先ほどダッカーナがやったように魔力を注ぐよう、シマノフスキに伝えた。
シマノフスキは言われるがまま頷いて掌を当てる。
「少しずつ、魔力を注いで、徐々に魔力を増やしてね。」
ダッカーナも若干不安だったのか、念入りにアドバイスをするが、扉に変化はなかった。
「残念だけど、彼も魔力が足りないみたいね。」
「シマノフスキ、どれぐらい魔力注いだの?」
シバケンの質問に、シマノフスキは親指と人差し指でちょっとというジェスチャーをした。
「もう少し魔力入れられるかい?」
コクっと頷き、掌から光を発する。
と、ガガガっという何かを引きずったような音がして、今まで紋様だったところが二つに別れ、扉が開け放たれた。
「すごい。今の相当な魔力量よ。彼、大丈夫かしら?」
ダッカーナの心配をよそに、シマノフスキはケロリとした表情で3人の方を振り返る。
どうやら、シマノフスキにとっては、なんて事はない事だったらしい。
ダッカーナは、恐る恐る扉の中に入り、アルゲリッチとシバケンが後に続く。
部屋の中には燭台があったため、ダッカーナに断ってから荷車から蝋燭を取り出し、火をつける。
蝋燭の仄かな光に照らされた部屋の中は、大きな机と椅子があるだけの殺風景なものだった。
広さは20畳ほどか。
本棚もあるにはあるが、中に納められた書籍は長の年月に耐えきれずに、その形を留めていなかった。
それでも、その断片からでも何某かの情報を得るのだろう、ダッカーナは真剣な表情で調べていた。
ただ、あまり調査の時間を取れないのを自覚はしているのか、やきもきした様子は感じられた。
シバケンとアルゲリッチの方は、なんの変哲もない部屋だったので、正直落胆は隠せなかった。
そう広くもない部屋で、しかも調度品は少ないので、部屋を見渡すと言っても、すぐ飽きてしまった。
「先生、悪いけどここの調査はほどほどにして、さっさと脱出に取り掛かろうよ。」
アルゲリッチは、椅子の彫刻を一生懸命スケッチしていたダッカーナに声をかけた。
と、机の上にポゥッと青白い光が浮かんだかと思うと、白く長い毛に覆われた、二足歩行の動物が現れた。
角がなく、顔も毛に覆われており、今まで出会った獣人とは様子が全く違っていた。
大きさは、成人男性ぐらいか。
咄嗟にアルゲリッチは身構える。
ダッカーナは驚愕の表情を浮かべている。
「何だい、騒がしいね。」
低い男性的な魅力的な声質だが、女性の媚態を感じさせるアンバランスな口調で、それは話しかけてきた。
「まさか、セッカイク?」
「いやだいやだ、汚い発音だね。でも、そこがニンゲンらしくて懐かしいわ。さっき扉を開ける時の魔力で、久しぶりに目が覚めたけど、何の用だい?」
フッと姿が消えたかと思うと、いつの間にか燭台の前に現れ、蜜蝋の火を吹き消す。
「眩しいのは嫌いだよ。その松明もこちらには向けないでおくれ。」
「何だい、先生。これは?魔物とは違うみたいだけど。」
「あらあら、魔物と一緒にされちまったよ。困ったニンゲンだね。アタシの事を知ってるのは、この娘だけみたいだね。あとは、お前さんの下人かい?」
「、、、まさか、セッカイクがいるなんて。」
驚愕の表情のままのダッカーナを、セッカイクと呼ばれたその生物は笑ってみている。
アルゲリッチも、害意は無いと見てとって剣は納めた。
「だから、何だよセッカイクって?」
「現在、この世界に確認出来ただけで8体で、我が国にはおりません。歴史上でもその存在が29体だけが確認されただけの希少種です。」
「へぇ、そんなに少ないのかい。意外だね。」
歴史上で29体?
すると、これで30体目という事か。
遺跡以上に貴重な発見になったのかもしれないと、シバケンは我知らず心が踊った。
「あの、あたしはミモナ皇国の者です。この遺跡の調査に来ました。まさかセッカイクであるあなたにお会い出来るとは思いませんでした。是非、ご協力を頂きたいのですが。」
「ミモナ?知らないねぇ。それに、協力だって?ニンゲンの面倒事に付き合うのはごめんだよ。」
「協力して頂いたら、お礼はします。」
セッカイクというのは、精霊に近い存在だという。
肉体を持つが、冬眠のように精神のみを休ませて生きながらえる事が出来るという。
人によっては、人間の上位種と位置付けている者もいるという。
このセッカイクは名をルゥリュといい、1000年前にこの屋敷に住んでいた魔術師を使役して、そのままこの屋敷跡に居着いた、という話だった。
セッカイクとは、今や国レベルで契約をし、協力を仰ぐほどの存在だという。
しかも、ミモナ皇国には1体もいなかったのだから、ダッカーナの興奮ぶりも頷けよう。
2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




