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027 遺跡の地下①

 アルゲリッチがホブゴブリンを地面に叩きつけた衝撃で、遺跡の地面が割れ、瓦礫と共に奈落に落ちたところまでは覚えている。

 シバケンは全身の痛みを堪えて、ようようの思いで身体を起こした。

 幸いな事に、骨が折れたりはしていなかったようだ。

 暗いので、すぐに松明に火をつける。

 周りに目をやると、シマノフスキが倒れており、今しも身体を起こそうとしているところだった。

 シバケンは、すぐに駆け寄り起き上がらせてやる。

 荷車ごと落ちたようで、周囲には荷物が散乱していた。

 更に周りを照らすと、ダッカーナとアルゲリッチの横たわった姿が見えた。

 シマノフスキにダッカーナを任せ、シバケンはアルゲリッチの元に近づく。

 アルゲリッチの意識は戻っているようだが、脚が痛くて起き上がれないようだった。

 肩を貸して、アルゲリッチの身体を起こすと、散乱した荷物の中から薬草を取り出す。


「シバケン、ありがとよ。アタシの方は後は自分でやれるから、ダッカーナ先生を見てやってくれよ。」


 ダッカーナの方は、シマノフスキが身体を揺すってみても意識を失ったままだった。

 シバケンは思い出したように、自分の荷物袋からアンブラ村で買った気付けの蜂蜜酒を取り出した。

 落ちた衝撃にも、酒瓶が割れる事は無かったようだった。

シバケンは蜂蜜酒を倒れているダッカーナの鼻元に持っていく。

 酒瓶の口を開けた途端、香草混じりの刺激臭が漂う。

 ううん、と、酒瓶を近付けた途端ダッカーナは意識を取り戻したようだった。

 アルゲリッチは、足を引き摺りながら起き上がって来た。


「よかった。先生も気が付いたようだね。」


 シバケンもホッとして改めて周囲を見渡すと、散乱する瓦礫に混じって、ホブゴブリンの死体が転がっていた。

 上を見上げると、霧のような靄がかかり、見通す事は出来なかった。

 ダッカーナは意識を取り戻し、物憂そうに身体を起こそうとした。

 シマノフスキが、それを介助する。


「シバケンとシマノフスキは、特にケガは?」

「ええ。私とシマノフスキは2人とも大丈夫です。ダッカーナ先生もあの様子だと大丈夫みたいですね。」


 ダッカーナは意識を戻したかと思うと、周囲の遺跡に気を取られ、痛む身体を引きずって早速調査に没頭し始めた。

 3人は仕方なくダッカーナの元に進む。


「先生、ここは?」

「えっ?ああ、凄いです。わかりません。先ほどの遺跡と今いる遺跡では、明らかに建築様式が異なります。先ほどのは、当時の共同生活の跡が色濃く残っていて、当時の暮らしぶりの調査に非常に興味深かった。ただ、こちらは、、、」


 と、言葉を濁し、先ほどから調べていた内壁や調度品を見る。

 埃を被り蜘蛛の巣は張っているものの、さきほどの遺跡と明らかに造りが違うのはシバケンにも分かった。


「今のままだと情報不足で分かりません。早く出口を探して、改めて本格的な調査隊を派遣しないと。こんな規模の遺跡が手付かずで見つかるなんて、本当に凄いです。」


 ダッカーナは、興奮のため早口にまくし立てる。


「先生、わかったよ。それじゃ、出口を探すとするかい。さっき上を見たけど、落ちた竪穴からの復帰は難しいみたいだね。上の連中の事は一旦忘れて、あたし達はあたし達だけで、まずは出口を見付ける事だけを考えよう。」

「わかりました。私たちは、荷車が使えるか確認しますね。その間に、アルゲリッチさんは脚の治療を。」

「ありがとよ。」


 シバケンとシマノフスキは荷車を取り出し、動くかの確認をした。

 梶棒は折れてしまっていたが、肝心の車輪が問題なく動いた事は不幸中の幸だった。

 ロープを取り出し、シバケンは折れた梶棒を繋ぎ、不恰好ながらも荷車を引く事は出来るようにした。

 周囲に散乱した荷物の中には瓦礫の下敷きになった物もあったが、シバケンは金棒を使いその8割ほどを回収する事が出来た。

 シバケンとシマノフスキは、荷物を積み込む。

アルゲリッチは、薬草を咀嚼したのち傷付いた患部に塗り込み、包帯できつく巻き付けている。

 咀嚼した際の薬草の苦味で、アルゲリッチの顔が歪む。


「よし、ちょっと休みたいところだけど、そうゆっくり出来る状況じゃないからね。すぐに出発といこうか。あたしの脚と、その急拵えの荷車だからスピードは出ないだろうけど、早く上のやつらと合流したいからね。あと、魔物が出たら、悪いけどシバケンとシマノフスキにも力を貸してもらうよ。」

「ええ、もちろんです。」


 シバケンは金棒を握る手に力が入る。

 シマノフスキの方をチラッと見たが、話を理解したのかコクっと頷く。


「まずどうしますか?右手と左手のどちらに。」

「悪いな。こういうのは全部ヌブーにやって貰ってたからよ。二択で勘頼りさ。」

「たぶん、ですけど、出口は右手の方向だと思いますよ。」


 アルゲリッチとシバケンはダッカーナを見る。


「先生、何か根拠でも?」

「ええっと、この時代の様式だと、廊下の右手に調度を置いて、左手に扉を設ける、というのが一般的な造りの筈です。ですから。」

「さすがだね。確かに右手に進むと、調度は左手か。闇雲に進むぐらいなら、その説に従おうか。」


 先程塗った薬草が効いてきたのか、それとも、ダッカーナから貰ったポーションを飲んだお陰か、アルゲリッチは多少足を引き摺るぐらいで、歩く事は出来そうだった。

 

「さて、進むとなると、索敵はあたしは苦手なんだよ。シバケンは、、、出来ないよな?」

「ええ、お察しの通り。」


 仕方が無いので、なるべく音を立てないように、ゆっくりと進む事となった。

 が、数歩進むだけで無音の空間にアルゲリッチの剣と鎧が触れるガチャガチャした金属音と、シバケンの牽く荷車のガラガラギーギーとした車輪の軋む音が響く。

 アルゲリッチとシバケンは堪えられなくなり、顔を見合わせて苦笑する。


「ダメだ。これじゃ、忍足にもなりゃしないね。」

「ホントですよ。2人の音がこんなに響いたら、ゆっくり歩いても無駄ですね。」

「アタシより、そっちの音の方が大きいと思うぜ。」

「あっ、それを言います?高い金属音のアルゲリッチさんの方が遠くまで響きますよ。」

「おっ、シバケンも言うようになったねぇ。」


 などと、アルゲリッチの持つ雰囲気で、皆の緊張も次第にほぐれてくる。

 好奇心と早く報告しなければいけないという使命感で険しい表情を浮かべていたダッカーナの顔にも、笑みが浮かんだ。


「少し待ってください。」


 暫く進むと、突然ダッカーナは声を上げた。

 掠れた紋様が彫られた壁を見て、今までにない真剣な表情を浮かべている。

 と、懐の手帳を取り出し、スケッチをし始めた。

 そして、時折「まあ」とか「ええ」とか、言葉にならない呟きを漏らしていた。


「驚きました。これは、魔術団の1人の屋敷跡ですね。なぜ一般居住地の下の層に作られたのかは分かりませんけど、こんな未発見の状態で見つかるなんて、奇跡ですよ。」


 暫くして、興奮のため上気した顔をシバケンとアルゲリッチに向けて、ダッカーナは喜々として語り出す。

 「たぶんこの辺りに」と言って、紋様の脇の辺りの壁を調べていたが、「あっこれだ」と声を上げる。


「これが扉の開閉の装置です。一定の魔力を通すと扉が開くようになってるんですよ。魔力の量によって部屋のセキュリティの厳重さがあるんです。これが後代、魔力の微調整による開閉セキュリティの魁ですね。そこまでの精緻さは無いみたいですけど、こんな完全な状態で残っているなんて。」


 と言いながら、2人が押し留めるのを無視してその装置に掌を当てる。


「ああ、ダメですね、アタシの魔力じゃ開きそうもありませんでした。この中に魔法使いでもいれば。」


 よほどの発見なのだろう。

 今のダッカーナは、使命感より好奇心の方が優っていたので、この状況を悔しそうに唇を噛む。


シバケンとアルゲリッチは、シマノフスキの顔を見た。

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