022 遺跡探索にむけて③
「話の途中みたいだけど、いいかな?アタシは“サーラの被衣”のマナカだ。よろしくな。」
細身の長身の女性がシバケンに声をかけてきた。
遠くから見たらまだ若そうに感じたが、近くで見ると自分よりも年上のようなのでシバケンは驚いた。
「たしか、マナカとは2年ぐらい前に一緒にパーティ組んで以来だな。変わらないか?」
どうやらアルゲリッチたちとは顔見知りらしい。
“サーラの被衣”と言ったら、オーク討伐の時に一緒だったアシャンと同じだ。
と、シバケンは懐かしく思い出す。
「ああ、アタシは相変わらず一兵卒さ。アンタらの方も、相変わらずの活躍っぷりは聞いてるよ。で、この荷物持ちさん、シバケンだろ?アシャンから話は聞いてたよ。あと、ディガーの一件でもな。噂通りの“らしくない”感じだね。」
と笑っている。
「ベテランの皆さんの足を引っ張らないように気をつけます。あと、このシマノフスキも、少し変わったところがあるかもしれませんけど、よろしくお願いしますね。」
「ああ、シバケンの事はアタシ達が推薦したんだ、何かあっても大目に見てやってくれよ。」
皆で揃って役場を出ると、馬車の前に荷物が積まれていた。
載せるのはシバケンの仕事だ。
シマノフスキに声をかけて、積み込みを始める。
行き先が悪路かもしれないので、食糧、資材が崩れないように載せ、また、各人の私物が混ざらない様に気を配る。
この仕事にも慣れてきたのか、それともシバケンのスキルのレベルが上がったのか、荷物はすっぽりと荷台に収まった。
と、タイミングを見計らったかのように、サナックとダッカーナが出てきた。
「もう積み込み終わったのか?ほう、あれだけあった荷物が、このスペースに収まったか。器用なものだな。これなら今まで3台必要だった馬車が2台で済んだり、コストカットが出来そうだな。」
一度積み込みだけの仕事を頼んでみるか、などとサナックはブツブツ言いながら出発の準備を進める。
サナックとダッカーナに加え、ラガとアイルッシュの4人は先頭の馬車に乗り込み、残ったシバケン達5名は荷台を兼ねた馬車に乗せられた。
荷台とはいっても、シバケンの積み込みが上手くいったので、皆がゆったりと座る事が出来た。
シマノフスキは、腰袋からポゥ玉を出して半分に割り、シバケンに差し出した。
「ポゥ玉なんて、どこから持ってきたの?いいよ、全部食べな。」
たぶん“アンジュの顎”の賄い婦のヤンナに貰ったんだろう。
彼女は既に子供が独立してるので、シマノフスキを子供か孫のように甘やかしている。
シマノフスキが無心にポゥ玉を口に入れる姿を最初は呆れたように見ていたマナカだったが、しだいに笑顔でその様子を見つめるようになっていった。
「あらあら、屈託の無い顔で食べてるよ。この子にとったら、遠足気分なのかね。」
「ああ。まさか、遺跡探索前にこんな気分になるとはね。」
マナカとアルゲリッチは自嘲気味に話している。
シバケンは、服についたシマノフスキの食べこぼしを取りながら、2人の話を聞いていた。
考えてみたら、アルゲリッチ、ヌブー、マナカの3人とも女性で、しかもある程度の年齢でもある事なので、昔は色々あったにちがいない。
依頼とは関係の無い他愛もない話をして、日が中天に上がる頃に集落に着くことが出来た。
着いたのは100戸以上の家が並ぶ、それなりに大きな集落だった。
たくさん飼育されているカカチチの姿に、シバケンは驚かされた。
初めて見るその姿は、想像通り牛と変わらなかった。
「シバケン、荷車に荷物を移せ。他の者は今のうちに軽く腹拵えをしておけ。」
と言って、サナック達は先に食堂に入って行き、アルゲリッチ達もその後に続いていった。
残されたシバケンとシマノフスキは、重さに偏りがないように馬車の荷台から荷車へと荷物を移していった。
作業が終わる頃、ヌブーが器を持って食堂から出てきた。
カカチチの肉とミルクで作ったシチューに、芋で作った団子が入っており、腹持ちが良さそうだった。
シバケンはヌブーにお礼を言うと、美味しそうな香りに惹かれ、早速口に運ぶ。
シチューというよりは、ミルクスープという感じの優しい味だった。
しっかり煮込まれた肉は、口に入れた途端にほろほろと崩れ、それが香辛料でしっかり下味がつけてあった。
「美味いですね。」
「ああ。この集落に寄るのも久しぶりだけど、こんな食堂が有ったのすら知らなかったよ。」
シバケンは、シマノフスキが残した半分も平らげたため、すっかりお腹がいっぱいになった。
食べているうちに全員が出てきたため、シバケンは急いで口にした。
サナックは、準備が出来ているのを満足げに見ると、最低限の私物だけを身につけ、集落を出発する様に皆を促す。
ここから先は、アルゲリッチとヌブーが先頭を行く事となった。
最短距離を進んでいるのかは知らないが、道無き道をアルゲリッチが大剣で切り進み道を作っていく。
マナカはさらに先に立って、異常がないかを偵察しているという。
アルゲリッチとヌブーの後には、ラガ、サナック、アイルッシュと続き、ダッカーナは自然とシバケン、シマノフスキと、並んで歩く格好となった。
「こうやって、魔物がいる遺跡に入るのも学者の先生のお仕事だなんて、大変ですね。」
ダッカーナは急に話掛けられ、驚きの表情をシバケンにむける。
「いえ、大変な事などではありません。私達としては、一日でも早く遺跡の調査に入りたいぐらいです。ですから、冒険者ギルドの皆さんには、迅速かつ安全な魔物の排除を期待しています。」
「そうなんですね。アルゲリッチさんとヌブーさんなら、そうそう間違いは無いと思いますよ。ただ気になったのが、今から行く遺跡は魔法戦争の遺跡なんですよね?魔法の残滓が残ってるって話ですけど、我々の探索には影響は無いんでしょうか?」
「ゼロでは無いでしょうね。だけど、2日3日程度の探索では、我々の身体に影響は無いと思います。逆に、影響があるぐらいの魔力残滓があるようなら、非常に興味深い研究が出来るから、楽しみなぐらいよ。」
「そうですか。せっかく出向くんですから、何か大きな発見があるといいですね。今から行くアクパ集落跡というのは、大きな遺跡なんですか?」
「あなた、シバケンさんでしたよね?冒険者なのに、遺跡の話に興味があるなんて珍しいわ。」
シバケンの度重なる質問に、ダッカーナは嬉々として応える。
当初の堅苦しい口調も、しだいに和らいできた。
それによると、今から1000年ほど前のこの地域を治めていた小豪族の都市だという。
残された記録では、6代領主が魔術に凝り、独自の魔術師団を組織して、最大の版図を築いたのだという。
だが、しだいに魔術師団と騎士団との軋轢が生まれ、また、女王と外戚側対、王の姉とその旦那側による後継争いが起こり、さらには、弾圧した少数民族の蜂起が重なり、脆くも瓦解したという。
ただ、この魔術師団から後の歴史に続く一派が多数生まれ、今の魔術師協会のマスターもこの魔術師団の生き残りが興した一門に連なっている、とダッカーナは興奮気味に話しかける。
「それじゃ、新しい遺跡の発見なんて楽しみですね。今回の調査で大きな発見につながるといいですね。ところで、先生は日頃学校とか研究所にお勤めなんですか?サナックさんみたいな役所勤めでは無いんですよね?」
「ええ、学院に籍は置いてますけど、まだクラスは持たせてもらってないわ。そのかわり、師父について現場に行く事も多いの。でも、今回みたいに、師父の代役として、新しい遺跡の下見なんて初めよ。これが認められたら、もっと自由に研究が出来る様になるかもしれないから、頑張らないと。」
「そうなんですね。でも、学者の先生とはいっても、今回みたいな危険なお仕事もあるんですね?」
「もちろんよ。未知との遭遇だから、危ない事や想定外もあるけど、好奇心には勝てないわ。護衛は付いてるとはいいながら、私自身もある程度身を守る魔法は習得してるわ。」
学者ともなると魔法を使う事が出来るのか、とシバケンは驚いた。
たぶんサナックも同様に、多少の魔法は使えるのだろう。
こうなると、また自分が一番頼りないんだな、とシバケンは苦笑いを浮かべる。
「さあ、早いが今日はここで野営とするぞ。」
一行は少し開けた場所に到着した。
そこは、すぐ隣には沢が流れており、恰好の夜営地だった。
2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




