019 秘密の部屋にて②
「仮に、魔石屋の店を出さず、仲間内だけの商売もせず、ただ、自分達が獲得した魔石はギルドを通さずシマノフスキに渡すとしたら?」
「今のシマノフスキの状態からすると、それが現実的なところかもね。それぐらいが無難なところだと思うよ。だけど、それにしても私1人の胸に収める、って訳にはいかないよ。当然アッカム隊長には報告するし、アッカムさんから上の方には話は行くだろうね。ちなみに、誰にもシマノフスキの事を話さないって事は無いだろう?シバケンさんは、何人ぐらいに今日の事を話すんだい?」
「うーん。難しいですけど、“アンジュの顎”のメルリーナさんには話をしようかと。」
「ああ、支部長だね。あとは?変に隠さなくていいよ、これからの対策を考えるんだから」
たぶん、ターラちゃん達と、アルゲリッチさん達には話をするだろう。
特に、明日依頼を一緒に行うし、ヌブーさんに至っては、何かしらのアドバイスをもらえそうな気がするので、きっと深いところまで話をするだろう。
シバケンは指折りながら、ルカに伝える。
「今思い浮かぶのはそれぐらいかい?冒険者ギルドに話すかどうかは、悩ましいところだね。あと、今言ったのは冒険者仲間のようだけど、それ以外の友人や知人は?」
「そうですね。あとは、、、」
すぐに、カンナの顔が浮かんだ。
シマノフスキも懐いているし、彼女の手が必要になる事もあるだろうから、話した方がいいような気もするのだが。
かといって、魔術師ギルドに目をつけられるような事は絶対に避けたい。
「シバケンさん、どうした?悩んでるみたいだけど、最初に脅したのが悪かったね。」
「シマノフスキの事を聞いた人に、どんなリスクが想定されますか?」
「リスク?」
「ええ。魔石屋を開業しないなら、魔術師ギルドに報告はされずに、自警団の中でシマノフスキは監視対象になる。そうですよね?」
「ああ。それだけなら、シマノフスキの能力を聞いただけのお仲間にはリスクはないだろうね。ああ、たしかにそれだと、シバケンさんも気にしてる通り、そんな能力の事を持ってる事を知ったなら、仲間内なら余計に『今回だけ』なんて忖度もでるだろうね。そして、そんな話はどこからか漏れるもんだしね。そうなると、遅かれ早かれ魔術師ギルドの知る事となるからな。結局、魔術師ギルドに報告するしかないのか。」
ルカは頭に手をやり、部屋の天井を眺めた。
「結局、シマノフスキの事を知られると魔術師ギルドに目を付けられるなら、こちらから胸襟を開いて相談に行くのはどうですか?ヴィリニエやオウドーみたいな魔術師ばかりじゃなく、ちゃんと話の通じる人もいるでしょ?むしろ、いっその事、魔石屋を開業しちゃいますか?」
「何言ってるんだい、さっき言った通り魔石屋は、、、いやちょっと待って。」
ヤケクソで話してみたが、案外ルカに響いたらしく真剣な顔で考えだした。
「そうか、その手があったね。なあ、シバケンさん、さっき魔石屋は世襲で、って話をしたの覚えてるかい?」
「ええ。世襲だから新規参入は難しい、と。」
「そうだよ。だから、逆に跡取りを必死で探してる魔石屋もいるんだよ。」
「まさか、シマノフスキをその跡取りに?」
「どうだい、いい考えだろ?」
「まさか、彼はあんな状態ですよ。」
「関係ないさ。相手は自分の家系が続く事のみにご執心なんだから。魔石屋として相応しい力を持ってはいるが、自分の意志を持たないシマノフスキみたいなのは、むしろ喜ばしい事じゃないか。」
「そんな事軽々しく言わないで下さいよ。彼の意志、なんて高尚な事を言うつもりは無いですけど、私はシマノフスキが自分の意志を取り戻して幸せになってもらいたいんですよ。それなのに、人身御供みたいな真似は。」
「出来ない、って言うのかい?むこうだって大事な後継だ、無碍にする訳ないじゃないか。それとも、シマノフスキを危険に晒す方が幸せなのかい?シマノフスキの能力を知られたら、彼を狙うのは魔術師ギルドだけとは限らないよ。」
僅かの間シバケンとルカは睨み合ったが、すぐにシバケンは目を逸らした。
「すいません。シマノフスキの為に考えて頂いたのに。」
「いや、こちらこそ。熱くなってしまったね。」
「たしかに、今の時点ではそれが一番危険が無さそうですけど、魔石屋のアテはあるんですか?」
「いや、まったく。申し訳ないけど、今のはただの思い付きさ。後継を探してる魔石屋のアテも無いし、そんな事をした場合のリスクも検討してないよ。帰ってアッカム分隊長に相談するところからスタートさ。」
「そうですか。わかりました。それじゃ、私は口の堅そうな方に相談しつつ、ルカさんからの指示を待つようにしますね。とはいえ、あんまり悠長には出来ないですよね?」
「ああ。そんな都合のいい魔石屋が見付かるとは思えないが、シマノフスキの事はなるべく早く魔術師ギルドに報告した方がいいだろうね。この段階で、破綻してるような気もするよ。シバケンさん、申し訳ないね。」
「いえ、そんな。ここまで親身になって頂いて、本当に有難かったです。またご相談に伺っても?」
「ああ、もちろんだ。いつでも自警団を訪ねてきてくれ。こちらからも、何かあったらすぐに顔を出すよ。」
シマノフスキの入婿に反対した時、すぐにシバケンの頭に浮かんだのは、自分とシマノフスキが離れ離れになる事だった。
それが嫌で反対したとは思いたくはないが、真っ先に頭に浮かんだのは疑いようはなかった。
冒険者稼業より、魔石屋を開業した方が生活は安定するのだろうし、ルカの言う通りシマノフスキが邪険にされると決まった訳じゃない。
当然不安はあるものの、反対する強い理由も思いつかないまま、シバケンはシマノフスキの手を引いて帰路に就いた。
あたりはすっかり日が暮れていた。
2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




