006 ゴモ村① 到着
ガイエンの言う通り、太陽が山に隠れようとする前に街が見えてきた。
これがゴモ村だろう。
周囲を木の塀で囲い、正面には門番の姿が見える。
村というので、田舎の長閑な集落を想像していたのだが、想像を超える繁華な街だった。
「ガイエンさん、やっと着いたね。」
「ずいぶん大きな街なんですね。」
「ああ。このタランテラ郷は、郷都の皇国第三都市であるタランテラ市をはじめ、このゴモ村を含めた全6都市でミモナ皇国の交易の多くを担っておるでの。他の地域に比べて繁華ではあるわ。ちなみに、皇国の第二都市のアンガレ市を擁するアンガレ郷は東ターバタ王国との境界にある軍事都市じゃ。特に前線のジーラ市はザルツベル、東ターバタ王国、ミモナ皇国の三国に統治された歴史をもつ剣呑な都市ゆえ、近寄らん方が身の為じゃ。覚えておいて損はなかろう。」
そんな戦地の最前線なんて街、こっちの方から願い下げだ。
アンガレ郷、特にジーラ市。覚えておこう。
さすがにヒューモも疲れたとみえて、先ほどから口数が少なくなっていたが、村が見え元気が出たのだろう、ヒューモは門番の元に駆け出した。
シバケンの方は木の棒を片方ずつ持って、ガイエンの後ろをゆっくりと付いて歩いていた。
「身分証はワシとこの子の分だ。この荷物持ちはザルツベルからの難民で、旅の途中で出会った。不幸な身の上じゃで荷物持ちとして雇った。身分証は先の戦禍で無くしたそうだ。」
ガイエンは門番に説明をする。
ザルツベルという名前を聞くと、さも哀れんだかのようにシバケンの顔を見る。
シバケンはよくわからずにぺこぺこと頭を下げ、無事に門を通ることができた。
身分証が無いのが不安だったが、思ったより簡単に村に入る事が出来ていささか拍子抜けがした。
こんな簡単なら、身分証が無いことに対してのハンデはあまり無さそうだ。
ゴモ村の中は、外から見た以上に賑やかな街であった。
人があふれ、中央の広場には屋台がひしめき合っていた。
「本当に賑わってますね。」
シバケンはキョロキョロしながら感嘆の声を漏らした。
「迷子になっちゃ、ダメだよ。」
ヒューモがシバケンの手を引く。
ガイエンは屋台に目もくれず中央広場を抜け、続く宿屋街から商店街を抜け、教会とおぼしき荘厳な建物を右に折れ、住宅街に入っていった。
立ち止まったのは、2階建ての1軒家の前。
右隣は空き地で、左隣には同じような住宅が建っている。
どん、ど、とん、どん
ガイエンは扉をまるで音階があるかのようにリズミカルにノックした。
暫くすると、扉が開き女が室内に招き入れた。
30は過ぎているだろう、年相応の色気をたたえた妖艶な美女だ。
「ガイエンさん、よくぞ御無事で。」
「ああ。」
「ヒューモ様も。」
「メルリーナ、久しぶりだね。」
こちらの者は?という顔で、メルリーナと呼ばれた女は不審そうにガイエンの顔を見る。
「なに、山で出会って荷物持ちにちょうどいいので雇った者よ。飯でも食わして、寝床をあてがってやってくれ。詳しい話はそれからだ。」
「かしこまりました。そこの人、寝床に案内するから、荷物はそこに置いて付いておいで。」
背中に縛り付けられた紐を取るのに苦労しつつ、よっこいしょと背嚢を床に置いた。
筋肉が硬くなっている。
シバケンは大きく伸びをして、よたよたとメルリーナの後をついていく。
ガイエンと変わらず、足音も立てずに歩くこの女からも油断できない雰囲気を感じた。
無駄口を聞くのは止めておこう。
「ここだよ」と女に促されて入ると、そこは共同部屋のようだった。
板貼りの床に、布団というにはあまりにも粗末な敷物が敷かれているだけの部屋。
ぼさぼさ頭の老人が胡坐をかいて酒を飲んでいた。
奥にはフードを被って人の好さそうな笑顔を浮かべた太った若者が、干し果実をかじりながら破れた服を繕っていた。
空いている布団は3組
「メルリーナよ。そいつはなんだい?新しい下働きが来るなんて聞いてないぞ。」
「ちがうよ。ガイエンさんが雇った荷物持ちさ。今日一日だけ泊めてやっておくれよ。」
「へぇ。ガイエンが来たのかい?って事はヒューモ様も一緒かい?今回は大変な目に遭いなさったみたいだけど、無事にここまで来るとはさすがだね。」
老人は、ヒヒヒと歯の抜けた口を開けて笑う。
離れている筈なのに、酒臭い。
だが、この世界ではどんな酒を飲んでいるのか、少し気になった。
「それじゃ、適当なところに寝てもらっていいから。食事はすぐに運ばせるよ。」
そう言うとメルリーナは部屋を出て行った。
2022.8.13 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました
2022.9.3 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




