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018 秘密の部屋にて

「ありがとうございました。」


 オウドーの商家を出て、通りに立ったシバケンはルカに頭を下げた。


「いや、こちらこそ。」


 考え事をしていたルカは生返事を返したが、すぐに思い返したように、シバケンの方に顔を向ける。


「シバケンさん、まだ時間あるかい?屯所では人目もあるから、この近くにゆっくり話せる場所があるんだ。ちょっといいかな?」


 シバケンの方も、オウドーの話は消化不良気味だったので、その申し出は願ったり叶ったりだった。

 シバケンはシマノフスキの手を引いて、猥雑な小路へと入って行った。

 ルカは、看板も何も出ていない建物の中に入る。

 案内の男に一言二言話をし、そのまま奥に進んでいくのを、シバケンは黙って付いていく。

 タバコと酒と、饐えたような体臭が混ざったような悪臭が鼻につく。

 突き当たりの扉を開け部屋に入ると、そこは寝台と机があるだけの殺風景な部屋だった。


「ここは?」

「あんまり詳しい事は言えないけど、情報提供する小悪党を仲間から匿ったり、市中見回りの仮眠をとったり、こうやって人に聞かれたくない話をしたりね。客人をもてなしたりは出来ないけど、便利な場所だよ。さて、と。」


 ルカは自分は椅子に座り、シバケンとシマノフスキには寝台に座るように促した。


「シバケンさんは、さっきの話どう思った?」

「どう、と言われても。色々と情報が多過ぎて、整理しきれない、というのが正直な感想です。恥ずかしながら、私が物を知らなさ過ぎる、ってのにも原因はあるんですけど。」

「そうか。それじゃ、まずシバケンさんに理解してもらった上で、これからの事を相談しなきゃいけなさそうだね。まず、何が分からない?」

「えっと。依り童というのが、魔術師に使役されているうちに、自分で魔力を生成する事があるというのは聞きましたけど、シマノフスキの場合は何が特殊なんですか?」

「うーん。誰から聞いたか知らないけど、『魔力を生成する』って表現は適切じゃないね。自発的に生成するんじゃなくて、自然に漏れるというか垂れ流すというか、とにかく本人の制御では無いんだ。だから、依り童は危険って言われるんだよ。で、シマノフスキの話なんだけど、オウドーの蓄積出来るって話、自分で魔力を貯める事が出来るってニュアンスだったと思うけど、シバケンさんはどう思った?」

「ええ。ヴィリニエでしたっけ。あいつの魔力も少し残ってたって言ってましたから、シマノフスキは身体のどこかに魔力を貯めて、それを小出しにして魔法を使う事が出来るんでしょうね。」

「やっぱり、シバケンさんもそう感じましたか。ちなみに、今シマノフスキが魔法を使ったって言ったけど、シマノフスキは魔法は使ってないよ。少なくとも、ディガーの時のは魔法じゃ無いから。」

「えっ?でも、ディガーを燃やしたり、自分の傷を治したり、、、」

「うん。あれはたぶん魔法の体系にあるものじゃなくて、魔力そのものだと思うわ。単純な魔力の奔流だけであれだけの効果を生み出したのよ。そうだね、あの魔力量からすると、オウドーが『底が知れない』と言ったのも頷けるな。」

「それじゃ、シマノフスキは、自分で魔力を生み出して、自分の意思でそれを放出して、使わない魔力は貯めておく事が出来る、って事ですか?」

「ああ。さらに、魔石の話があっただろ?」

「魔石から魔力を抽出したり、魔石に魔力を注入出来る、って話ですか?」

「そんな呑気にしてていい話じゃないよ。いいかい、シバケンさん。魔石から魔力を抽出し、あまつさえ、魔石に魔力を戻せるなんて、そんな事を1人で出来るなんて、私は聞いた事がないよ」

「そうなんですか?魔石屋というのがやるみたいな話でしたけど」


 その言葉を聞くと、呆れたようにルカはシバケンの顔を見返した。


「シバケンさんは、ホントに何も知らないんだね。まぁ、普通の人にはあまり縁の無い話だから無理もないかも知れないけど、冒険者なら知っておいて損はないと思うよ。シバケンさんは、今は魔石を冒険者ギルドに買い取ってもらってるの?その魔石はどうなると思う?」


 シバケンは首を振る。


「魔石は魔術師ギルドに一括して買い取られて、そこに加盟している魔石屋で精錬されるのよ。そのあと、工匠ギルドを通して加工されるか、商人ギルドを通して魔石のまま販売されるの。で、問題なのは魔石屋による精錬だよ。」

「というと?」

「精錬というのは、魔石に込められた魔力を人間が使い易いように、流れを整えるような作業を言うんだけど、それを行えるのは、さっきから話の出てる魔石屋ね。気軽に言ってるけど、この魔石屋っての実は魔術師ギルドに定められた特別職なのよ。彼らの殆どが世襲で、またその中でも家柄によるランクがあって、なろうと思ってもなれるような職業じゃないのさ。まぁ、オウドークラスの魔術師なら別なんだろうけど、普通は魔術師でもわたし達でも、高いお金を払って魔術師ギルドに話を通すか、店を持ってるギルド直営の魔石屋に依頼しなきゃならないんだよ」

「それなのに、シマノフスキならタダで出来てしまうと?」

「そういう事さ。シマノフスキが魔石の精錬を、どれだけの精度で、また、どれだけのランクの魔石まで扱えるのかは、まだ分からないけどね。」

「もし、魔術師ギルドにバレたらまずいでしょうね」

「まずい、で済めばいいけどね。魔術師ギルドに加入されて、って話で済むとも思わないな。強制的に魔術師ギルドに身柄を抑えられて、そのまま魔石屋に監禁なんてのも有り得るかもね。」

「そんな、無茶な。」

「魔術師ギルドがやらなくても、魔石屋がやるかもね。それぐらいの事なのさ、魔石を精錬するってのは。彼らにとって、絶対に手放したくない既得権なんだよ。ただ、ひとつ気になったのは、魔石から魔力を抽出し、さらに注入出来るって言ってただろ?」

「ええ、オウドーはそう言ってましたけど、それが?」

「考えてもみなよ、その話が本当なら、魔石から自由に魔力を出したり入れたり出来るんだ。魔石さえあれば、魔力切れ知らずの化け物の出来上がりさ。」

「えっ、まさか?本当に?」

「本当も何も、全てオウドーが言った事さ。正直、アッカムさんどころか、自警団全体としても手に余る事案だよ。」

「ルカさん、黙っていて頂く事は?」

「黙るも何も、問題点を分けて対策しないとね。今言った魔力の出し入れの話は、シマノフスキが脅威となりうるかどうか、という我々側がどう対策するかの問題だから、喫緊にシバケンさん達がどうこうって問題じゃないよ。対策すべきは、魔石屋の方さ。シバケンさんがどうするかを聞きたいな。シマノフスキのこの力を遣って、魔石屋のような商売をすると言うなら、正面から魔術師ギルドに話を持っていく必要があるよ。もちろん、アッカム隊長にも口を効いてもらうけど、それでも許可が出るかどうかは賭けに近いかな。許可が下りなくても、シマノフスキの安全はウチが責任を持つから安心してもらっていいよ。そうじゃなくて、仲間内だけでこっそり魔石屋まがいの営業をするというなら、悪いけど自警団としては魔術師ギルドに通報しなくちゃね。」


 手に職を、という点ではシマノフスキに魔石屋をやらせるのはいいのかもしれないが、魔術師ギルドとの付き合いや、既存の魔石屋との軋轢などシマノフスキ1人で何とかなるような話では無さそうだった。

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