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015 オウドー師③

 ルカが立ち止まったのは、それなりの大きさの商家だった。

 オウドーが弟子にやらせている店、という事は聞いていたが、肝心の商っている物までは外から窺い知る事は出来なかった。

 それに全く人の気配もせず、本日は休業日なのだろうとシバケンは勝手に想像する。

 扉の前で大きく深呼吸して、ルカが店へと入っていった。

 それにシバケンとシマノフスキが続く。


 店の中は簡素な造りで、カウンターと椅子が並び、あとは奥に続く扉があるのみだった。

 ルカは迷う事なく扉を開け、廊下を抜けて、一番奥にある階段を登る。

 2階に上がると10畳ほどのホールに出て、そこには扉がふたつあるだけだった。

正面に見える扉の前で、ルカはもう一度深呼吸すると、静かに扉を開けた。


「久しぶりだね、ルカ。アッカムは嫌がってたろう?クックック、馬鹿な子だよ、あれは。」


 シバケンは、突然妙に艶めかしい声が頭に直接響いてくるような感じに囚われた。

 部屋の中には長椅子に横座りにしタバコを燻らしている老婆と、その横にがっしりした体躯の老爺が立っている。

 2人とも、口を開いた様子は無かった。

 老爺は背筋をピンっと伸ばし、入ってきた3人に気を留める様子もなく、老婆の方にのみ視線を向けている。


「オウドー師、魔法で直接語りかけるのはやめて下さい。場合によっては敵対行為と見做しますよ。」

「この程度で騒ぐんじゃないよ、小僧。嫌なら帰りな。」


 ルカは嫌悪感を露わにしている。

 オウドーは上目遣いでそんなルカを見ている。

 魔法で直接語りかける?

 シバケンは、呆気に取られた顔でオウドーとルカの顔を見る。


「相変わらず魔法の耐性がお粗末なようだから、弱点を指摘してやったまでさ。こっちの子達は平気みたいだね。まぁ、ひとりは耐性があるみたいだけど、もうひとりはただ鈍感なだけみたいだけどね。」


 鈍感なのは自分の方だろう、と、シバケンは言われるまでも無くそれを感じ取った。

 オウドーはシバケンを一瞥すると、そのままシマノフスキに視線を移し、しばらく全身を舐め回すように眺めていた。


「この子が、例の。ふーん、面白いね。アイーロ、あんたはどう思う?」


 オウドーは、傍に立つ老人に声を掛ける。


「割れた花瓶のようですね。満たす事が出来ずに、常に漏れ出ているような。」

「ふふ、上手いこと言うねぇ。だけど、漏れてるのは水みたいな生易しい物じゃないわよ。」

「ええ、そのようですね。漏れ出てるウチならまだしも、このまま溢れたら厄介ですね。」


 2人だけで会話しているが、シバケンにも不穏な空気は感じられた。

 魔力が沢山あるが、シマノフスキ自身はそれが受け止められないぐらい不安定な状態、というようなニュアンスだろうか。

 オウドーがシマノフスキに手招きする。

 シマノフスキは嫌がる様子もなく大人しくそれに従い、オウドーの元に歩く。

 近寄ったシマノフスキの頭に、オウドーは掌を乗せる。


「聞かせておくれ。この子に術を施した魔術師は、どんな奴だって?」


 ルカが説明をし、シバケンがその補足をする。

 オウドーの表情は変わらないが、アイーロと呼ばれた老人は眉を顰める。


「今の話から心当たりは3人ぐらいに絞られたね。興味が出たから、この子に掛けられた術式を見てあげるよ。少し時間が掛かるから、あんた達2人は、アタシが呼ぶまで下で待ってな。いま案内させるから」


 オウドーがそう言うと、どこかで話を聞いていたのか、タイミングよく扉が開き男が入ってきた。


「あっ!」


 その男の顔を見て。シバケンは思わず驚きの声を上げた。

 ヒューモの命を狙っていた曲者のリーダーである、アーゲンタインだった。

 あの時やられた《拘束》のスキルを思い出し、シバケンの身体が強張る。


「先日の事は気にするな。もう終わった事だ。遺恨も何もないわ。」


 アーゲンタインはそう言うと、「付いてこい」と部屋を出て行った。


「彼は?」


 ルカはこっそりと耳打ちする。

 シバケンは“アンジュの顎”の支部が襲われた時の話をする。

 聞こえているであろうアーゲンタインは、その素振りも見せずに2人を部屋に案内した。

 客室なのだろうか、豪華ではないが品質の良い調度が収められている。

 ソファに座るよう促されると、丁度女給がハーブティーとクッキーのような焼き菓子を運んできた。


「やつの短剣はまだ持っているか?」


 女給が部屋を出るとアーゲンタインがシバケンに声を掛ける。

 ガイエンに殺された部下のゲルギスが持っていた短剣を、今はシバケンが使っている。

 腰に刺した短剣を抜き、アーゲンタインに見せる。


「大切に使ってるみたいだな。奴とは30年来の付き合いでな。国が滅び、路頭に迷った首領の俺を慕って付いてきた。焦った訳ではないがあんな仕事を手土産にしようとして、あの体たらくよ。あの後の事は?そうか、詳しくは聞いてないんだな。ヒューモが無事にタランテラ市に着いた時点でオレ達の依頼は失敗さ。落ち目のオレ達にひょんな事から声をかけてくれたのが、オウドー師さ。まだ短いが、居心地の良い環境だ。」


 特に親しげという様子ではなく、淡々とシバケンに話しかける。


「今は何を?」

「オレ達稼業は、やる事は同じさ。」

「お仲間も?」

「ああ、だいぶ減ってはいるがな。」

「上では何を?」

「さあ、魔術の事はオレには分からんよ。だが、オウドー師は、身贔屓で言う訳ではないが、生半な魔術師じゃないぞ。底が知れぬ。あの様子だと、あのシマノフスキとかいう小僧に、興味を持っているみたいだな。あの人の言う通りにしているうちは、お前の損にはなるまい。」

「ところで、よかったら、あの後の事を聞いてもいいですか?」

「ふむ。お前は何も聞かされておらんのか?そうか、今更隠すような話でもないしな。それでは、まだ時間もあるようだし、今から話してやるよ。」

2022.10.30 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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