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013 オウドー師①

 翌朝、すぐにウラビア医師の診察を受けたが、今度こそ体内に毒の残滓は無くなったとの見立てだった。

 食欲も戻りゆっくりと朝食を食べると、そのままカンナに手伝ってもらい、シバケンとシマノフスキは診療所を出る事となった。

 退院の手伝いという事で、“アンジュの顎”からの要請でワイルもやって来た。

 久しぶりに会ったワイルは、シバケンの元気な姿に手放しで喜んでくれた。

 ワイルの尻尾を珍しそうに触るシマノフスキが微笑ましかった。


 ナイマンの方はというと、まだ完治はしておらず入院の必要があるといって退院は許されなかった。

 昨日のターラの話では、ディガーの魔石がシマノフスキ宛てに届いているという事だったが、まずは自警団の方に足を向けた。

 荷物はワイルに“アンジュの顎”まで運んでもらう事にした。

 診療所からは自警団の詰所までは近く、医者の方から話が通っていたとみえて、ルカが入り口に立ち、シバケンとシマノフスキを迎え入れた。


「身体の具合は?」

「ええ、ご心配をおかけしました。ゆっくり養生出来ましたよ。」

「それはよかった。」

「オウドーさんの所にはいつ?」

「話はつけてたから、いつでも行けますよ。」

「今日でも?」

「今からか!?身体は大丈夫なのか?」

「ええ。入院中もその事が頭から離れなくて。」

「そうか。我々も早ければそれだけ助かるんだが。とはいえ、今から少し片付けないといけない用件があるからなぁ、、、シバケンさん、どこか他に顔出しをするところは?」

「冒険者ギルドに報酬を受け取りに行くぐらいで。」

「それならちょうどよかった。先にギルドに行っててくれないか?ギルドの後はどこかに寄らずに平気か?」

「ええ。報酬と魔石を受け取りに行くだけです。」

「よし、では2刻後に中央区の村碑の前で待ち合わせという事にしよう。それまでに用事を片付けておくよ。」


 村碑とは、それぞれ自分の村の成り立ちを統治者の名の下に記した石碑で、どこの村も目立ったところに置かれている。

 ゴモ村では、正門から入った正面に置かれていた。


「中央区から、オウドー師の屋敷まではどれぐらいかかるんですか?」


 全く話の成り行きが読めないので、むこうで話が長びく可能性も十分に予想された。

 軽く腹に何かを入れたほうがいいかも知れないと、ルカに聞くと、半刻ぐらいの距離だという。


 一刻が約40分。

 80分後に待ち合わせで、20分かけて目的地に到着か。

自分はともかく、シマノフスキには何か食べさせて置いたほうがいいかも。

 シマノフスキは食が細いので、一人前を2人で分ければいいか。

 食べやすい物がいいけど、屋台にそんな物あったかな。

 などと考えながら、冒険者ギルドに着いた。


「あっ、シバケンさん」


 たまたま掲示板の張り替えを行なっていたアミナが気づいて声をかけてきた。


「アミナさん、おはようございます。」

「入院してるって聞きましたけど、もう大丈夫なんですか?」

「ええ、何とか退院できました。」

「大変な依頼だったみたいですね。あの街道の事件の元凶が、魔物成りしたディガーだったなんて。あっ、その報酬が届いているわよ。」

「ええ、報酬を預かって頂いていると聞いたので、今日は依頼じゃなくて、それを受け取りに。」

「わかったわ。自警団の方から、報酬と魔石預かってるけど、魔石はどうする?魔物成りの魔石だって情報が好事家の耳に入ったらしくて、早速ウチに買取りの話が来てるわよ。もし売る予定なら、ぜひギルドに声をかけて下さいね。」


 「ちょっと待ってて、今用意させるから」と一旦手を止め、別の職員に声を掛けると、てきぱきと掲示板の張り替えを終わらせ、シバケンとシマノフスキの2人を受付に案内した。

 受け取りの事務手続きを終わると、いつもなら雑談をするのだが、今朝は忙しそうにしていたので、シバケンはお礼を言って早々に立ち去った。


「シバケン、ちょっといいかい。」


 報酬を受け取り、出ようとした2人に声が掛かった。

 振り返ると、アルゲリッチとヌブーの懐かしい顔が並んでいた。


「聞いたよ、大変だったみたいだな。でも、見たところ元気そうで何より。」

「アルゲリッチさんも、相変わらずで。ルメール村での護衛の仕事は?」

「おっ、覚えてくれてたのかい。ありがたいね。無事に終わって、昨日こっちに帰ったところさ。で、この子が例の?」

「ご存じですか?」

「ああ、噂になってるからな。でも、アンタらしいね、損得抜きで依り童の面倒を見るなんてね。ところで、今から時間あるかい?荷物持ちの依頼を頼みたいんだけど。」

「依頼ですか?ありがとうございます。でも、その依頼、急ぎですか?今から用事があるのですが。」

「いや、アタシ達も準備があるから、出発は明日なんだけど、引き受けてくれるかい?」

「よかった。明日からなら大丈夫ですよ。」

「ありがとよ。これで一安心だ。でもよ、用事があるって、まさか退院したその日に早速依頼かい?」

「まさか、そうじゃありませんよ。自警団の人の紹介で、依り童に詳しいオウドーって元宮廷魔術師に会いにいくんですよ。彼の事をもう少し詳しく知りたくて。」

「はっ?!あのオウドーかい?」


 今まで黙っていたヌブーが呆れたような声を出す。


「ヌブーさん、ご存じの方ですか?宮廷魔術師を辞めてこの村に住んでるって。」

「この村にいるってのは聞いてたけど、まさか、またアイツの名前を聞くなんてね。」

「ご存じなら教えて下さい。癖のある方みたいで、ちょっと不安なんですよ。」

「アタシも初めて聞く名前だね。どんなヤツなんだい?」

「直接会った訳じゃないけど、ゴシップ好きの奴だって話だよ。宮廷魔術師になったのも王宮高官の弱みを握っただのって噂さ。で、同様に弱身を握った貴族や商人からは金を巻き上げ、同業の魔術師からは魔術書を巻き上げるって、最低の奴さ。追い落とす動きもあったらしいけど、奴の網は王宮の相当奥深くまで入り込んでいるらしく、いつも潰えてしまってたよ。それどころか、相手方もいつの間にか原因不明の病でコロリさ。同じ宮廷魔術師相手にとんでも無い話だよ。ところが、そんなヤツがパタっと宮廷魔術師を辞めたから不思議じゃないか。何か裏があるんだろうって、当初は色々と口の端に登ったらしいけど、それも今は昔の話さ。久しぶりに聴いた名前だよ。」

「あの宮廷魔術師共を手玉に取るなんて、おっとろしい奴もいるもんだね。」


 ヌブーの話を聞く限り、この世界に来て出会った中でも、相当ヤバいクラスの人物みたいだ。

 聞かなきゃよかった。

 シバケンの感想はその一言に尽きた。

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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