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011 診療所にて②

「シバケンさん、食べにくそうだけど、大丈夫?次からはもう少し食べ易く、細かく切って貰うようにするわね。」

「ありがとうございます。でも、スゴく美味しいですよ。ゆっくり頂きますね。」


 シマノフスキは相変わらずの少食で、煮込んで柔らかくなった肉と、いろんな野菜を細かく切って混ぜたオムレツを少し食べて終わった。

 それでも味はわかるのか、満足そうな顔だ。

 傍目にも、シマノフスキがカンナに懐いているのがわかる。


「私が寝てる時、どんな様子でした?」

「シマノフスキくん?病院に運ばれた当初は意識を失っていたみたいよ。でも、翌朝私が朝食を運んできた時には、寝息も穏やかになってぐっすり寝てたわ。で、お昼ご飯の時にはもう今と同じ感じだったわよ。」

「そこも、シバケンに聞きたい事のひとつさ。夜中、首から下げた魔石とシマノフスキの身体が共鳴するかのように、うっすら光りはじめてよ。で、みるみるうちに身体の火傷が治っていくんだ。ありゃ、どういう訳だ?」


 オトギ邸での事をシバケンに思い出させた。

 レスピーギは刻印を抜くとは言っていたが、刻印とは何だったのだろうか?

 シマノフスキが魔法を使う能力はそのまま残したのか?

 そういえば、確かあの時、魔石の事を『シマノフスキへの餞別』と言っていなかったか?

 とすると、今首から下げているあのゴーレムの魔石から、シマノフスキは魔力を得ているという事か?

 シバケンに答えの出せそう筈もなかった。


「いえ、申し訳ないですけど、全くわかりません。」

「まぁ、そうだろうな。」


 2人の間の重い空気を察したのか、カンナは取り分けて明るい声でシバケンに話しかけてきた。


「そういえば、久しぶりに実家から手紙が届いて、ラナマールさんと一緒にご飯を食べに寄ってくれたみたいだね。シバケンさん、ウチの実家の料理もなかなかだったでしょ?」

「ああ、そうでした。会ったら話そうと思ったのに。こないだラナマールさんと実家に伺って、野鳥の串焼きをたくさん頂きましたよ。あと、バンバルの丸焼きにはびっくりしました。でも、どれも美味しかったですよ。あんまり時間が無くて、ゆっくり出来なかったのが残念でした。」

「そうなの?!バンバルの丸焼きだなんて、村で宴会でもあったのかしら?でも、野鳥の串焼きは、懐かしいな。小さい時に近所の子供達と野鳥を獲って、お父さんに焼いて貰ったの思い出すなぁ。みんな元気にしてた?今年の大祭の時期は木馬亭が忙しくて、とても帰っていられなかったからなぁ」

「川蟹の産卵の時期にも、またおいでって。お父さんに言っていただきましたよ。」

「ホントよ。なかなかゴモ村で食べる機会は無いと思うから、シバケンさん、あの料理はぜひ一度食べてみてよ。」

「ええ、今から楽しみにしてますよ。今回は近くで依頼があったから歩いて行きましたけど、カンナさんが実家に帰るとなると、普通は乗合の馬車で?」

「そうだね、私には贅沢なんだけどね。でも、歩いて行くには、いくら整備されたとはいえ、冒険者なりを雇わないと物騒だからね。それを考えると、早くて安全な乗合馬車で帰るわよ。だから帰るのにちょっと二の足を踏むってのもあるわね。もっと気軽に帰れたらいいんだけど。」

「それじゃ、川蟹の産卵の時期になりましたら、一緒に行きましょうよ。お土産とかの荷物も私が運びますから」

「そんな。シバケンさん、悪いわよ。でも、そう言ってくれると嬉しいな。ホントにいいの?」


 カンナの明るさが、シマノフスキの事で重たい空気を和ませる。

 ナイマンはニヤニヤしながら、シバケンとカンナの2人を見ていた。

 食事が終わり、食器を片付けるとカンナは帰って行った。

 その入れ違いで、自警団のアッカムとルカともう1人見た事の無いまだ若い男が入ってきた。


「シバケン、意識が戻ったと聞いてな。大丈夫か?今回の件は全てオレのミスだ。申し訳ない。」


 部屋に入るなり、アッカムは深々と頭を下げた。


「ある程度はナイマンの口から聞いてるか?少し聞き取りをさせてもらいたいんだが、身体の具合は大丈夫か?」

「ええ、構いません。私にわかる事でしたら、何でもお答えします。」


 アッカムが質問をし、ルカがその補足をするように言葉を足す。

 若い男は一生懸命にメモを取る。

 シマノフスキの名前で冒険者ギルドに依頼があり、オトギ邸で蔵書を持ち帰り、それからレスピーギとのやりとりを詳しく説明した。


「ゴーレムを2体も倒したのか。ディガーを倒したのも頷けるな。それから、何?その魔石を、魔術師がシマノフスキへの餞別として与えただって。魔術師にとったら貴重な物なんだろうに、、、なあ、ルカ。オレは魔術師関係はさっぱりだが、依り童と魔石の関係で何か思い当たる事ないか?」

「いえ、私もさっきから考えているんですけど、何も思い浮かびません。」


 と、一旦言葉を切ってから。


「分隊長はイヤかもしれませんけど、オウドー師にお聞きになってはいかがです?」

「あぁ!?あのイカれた婆さんか。」


 アッカムはそれまでの表情を一変し、露骨に顔を顰める。

 シマノフスキの得体の知れなさを早く払拭したいと考える自警団としては、異例の躊躇いのようにシバケンには感じられた。

 よっぽど「イカれ」てるんだろう。

 メルリーナの言う通り、レスピーギしかり、魔術師というものは多かれ少なかれそういう人種なのかもしれないな、とシバケンは独り納得していた。


「うーむ、、、オウドーか。」


 アッカムは、なかなか決断が出来ないらしい。


「オウドーというのは?」


 シバケンは、ナイマンに小声で聞いてみる。

 ナイマンも、アッカム同様に顔を曇らせていた。


「うーん。まぁ、オレの口からはイカれてるとは言わないけどな。ただ、得体の知れない大物だぜ。かつては宮廷魔術師の、しかも結構上の方の役職まで勤めてたった話だから、優秀な魔術師なんだろうけど。」

「そんな偉い方に話を聞いたりできるんですか?」

「いや、それも昔の話で、この村で弟子に店をやらせて自分は隠棲してるって話だ。あんまり表舞台に出ないけど、タランテラの現領主ですら腫れ物に触る扱いらしい。オレたち盗賊ギルドも、極力関わり合いになるのを避けてるな。アッカムさん、オウドーと知り合いなんですかい?」

「ふん。思い出したくもないわ。」


 と、アッカムは苦々しげに吐き捨てるが、思い直したというより諦めたような表情を浮かべルカの顔を見る。


「お前の言うのも一理あるな。オレは聞かなかった事にするから、悪いがルカの方で頼む。経過は知りたくもない。結果だけ報告してくれたらいい。」

「わかりました。それじゃ、シバケンさん今の話の通りです。身体が良くなったら、シマノフスキさんと共にオウドー師の元に行きますから。またお時間頂きます。改めて“アンジュの顎”に連絡を差し上げます。ナイマン殿は引き続き療養に専念して下さいね。」


 そう言うと、自警団の3人は出て行った。

 その後のウラビアの診察によると、明日には退院は出来るだろうとの見立てだった。

 とすると、明後日かその次ぐらいに、そのオウドーとか言う魔術師と面会か。

 イカれた、と評される魔術師との面会への不安より、シマノフスキの秘密が分かれば良いが、という期待の方が大きかった。

 ウラビアから出された煎じ薬をのみ、その晩は床についた。

2022.10.30 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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