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009 討伐を終えて

 意識が飛びそうになるのを必死に堪えて、シバケンはその様子を見ていた。

 オトギ邸で丸太のゴーレムを退治した時と同じく、激しい炎がシマノフスキから発せられる。


ギギギャャー


 シマノフスキから発せられた炎は、まるで生き物であるかのようにディガーの身体を這い回り、叫び声を上げたディガーの口の中にも飲み込まれるかのように侵入していった。

 程なく、ディガーの動きはとまり、地面に崩れ落ちた。


 シマノフスキから発せられた炎は再びシマノフスキの右手におさまり、周りに延焼する事なく、何事もなかったかのように鎮火した。

 シマノフスキは、シバケンを振り返り、無表情のままシバケンのそばまで歩いてきた。

 左の肩からは大量の出血はしているが、全く頓着している様子はなかった。

 アッカムはサッサを肩で抱えるようにして、やってきた。


「どういう事だ?」


 答えられる者はいなかった。

 シバケンも頭から血を流し起き上がる事も出来ず、そのシバケンの下敷きとなったハーヴィーは力尽きて、意識もなかった。

 シマノフスキ当人は、虚な顔のままで、とても受け応えができる状態ではなかった。


「サッサ、すまんが、ナイマンを見てくる。」


 アッカムは岩場を登り、しばらくするとナイマンを抱えて降りてきた。

 血塗れの身体で、意識もなくぐったりとしていた。


 アッカムは自身の怪我を気にする様子もなく、テキパキと皆の荷物から救護道具を取り出し、応急処置をしていった。

 ただ、想像以上に深手が多く、とても持参した傷薬で足りるものではなかった。


「ルカの方は大丈夫か、、、」


 アッカムは応急処置を続けながら、気遣わしげに森の方に目をやる。


「分隊長!遅くなりました。」


 ほどなくして、5名全員の足音と共に、ルカの声が聞こえてきた。

 ところどころ傷は負っているが、誰一人重傷者らしい者はいなかった。

 アッカムはホッと胸を撫で下ろした。


「分隊長、これは?」


 アッカム以外全員が重傷で寝かされ、当のディガーは黒焦げになっている。

 どう見ても、異常な状態だった。


「ああ、よかった。無事だったか。そっちは問題なく終わったようだな。」

「ええ、数も想定の範囲内でした。多少は逃げたりもしたでしょうけど、概ね駆除は完了しました。で、この有様は一体?ディガー1頭だけではなかったのですか?」

「何がなんだかわからんよ。ディガーに違いはないんだが、あんなディガー見た事ない、、、てっきり全滅かと思ったが、シマノフスキに助けられた。」

「シマノフスキに?」

「ああ。おかしな子だとは思ったが、彼は何者だ?」

「さぁ、詳しくは。ちょうど今回の依頼の前に冒険者ギルドに登録したばかりとの事で、冒険者ギルドにも情報はまったく。ただ、ナイマン殿から聞いたところによると、このシバケンという男が、依り童を引き取って育てている、と。」

「ああ、それなら聞いてる。依り童か、、、通常依り童などというのは、魔術師があっての存在だ。あのシバケンが魔術師だとはとても思えんが。いずれにしても、今回はオレのミスだ。ナサニールには済まない事をした。」


 アッカムが神妙に項垂れていると、大勢の人の足音が近づいてきた。


「ん?何の音だ?救護にしても早くないか。」

「ええ。ただ、一直線にこちらに向かってきてますね。分隊長が知らせたんじゃ?」

「いや、オレじゃない。」

「分隊長、救護隊をお連れしました。」

「ああ、ご苦労。だが、なぜこんな早いんだ?誰からの知らせだ?」

「今晩の状況を見て、事前に救護隊を手配する様にナイマン殿から要請がありました。」

「なんと。」

「さすが、“アンジュの顎”か。オレなんかディガー討伐だけに気がいっちまって、結果として、隊員に危ない橋を渡らせて、このざまよ。ディガーだけなら最悪オレ1人で何とでもなる、なんて慢心してたが、今日のあれはバケモノだったぜ。」

「ええ、そのようですね。」

「そのナイマン殿にも、こんな目に遭わせちまったしな。それに護るはずのシバケンとシマノフスキにも大怪我を負わせちまったな。」


 悲痛な面持ちでアッカムは周りを見遣る。

 ゴモ村自警団に数ある分隊の中にあって、皆の尊敬を集めるのがアッカムだ。

 部下に対する面倒見の良さや、老人や子供などへの気配りといった人柄に加え、犯罪者への苛烈な追及や外敵への圧倒的な武力などで、広く知られている。

 10日後に控える王都会議に、ゴモ村の要人が街道を使うにあたって、急ぎ討伐を命じられた今回の依頼の経緯だった。

 急拵えの9名の手勢と盗賊ギルドの力を借りて、少ない手駒で確実な成果を求められるなか、十分過ぎる采配だったのだが、ディガーの強さが想定外だった。

 無事にディガーを仕留める事は出来たのだが、ディガー1頭に対しては被害が大き過ぎた。


「人間を食ったディガーは強くなるって聞きましたけど、何人食ったらあんな化け物になるんでしょうね」

「全くだ。10や20じゃねえんだろうな。よくもそんなのが討伐もされずに今まで生きてたもんだよ。」

「あれじゃ、剥製にも出来ませんけどね。」


 暗くなっているアッカムを慰めようと、柄にもなくルカは軽口をたたく。


「わっ、なんだ。」


 救護隊から声が上がる。

 「まだ何か出やがったか」と、アッカムとルカは救護隊の方へ駆けつける。


「いえ、彼の体が急に光り出して。」


 見るとシマノフスキの身体が光り、ディガーに噛まれた傷を中心にその光が覆っていく。


「分隊長。これは一体?自然治癒、、、ですか?」

「オレにもわからんよ。だが、あのディガーを仕留める火力だけでなく、更に自然治癒だなんてな。そんな馬鹿げた能力を、この少年が持ってるなんて信じられるか?ますます、訳がわからねぇ。」

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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