008 ディガー襲撃②
「あれは?」
「あの光で周辺の状況を確認し、地霊がそれを術者に知らせるんだ。ディガーのスキル《隠形》は気配を消しはするが消える訳じゃねぇ。あの魔法は形あるものを認識するから、必ずディガーは見つかるぜ。」
「スゴい魔法ですね。自警団の皆さんも出来るんですか?」
「馬鹿なことを。使えるのは、ウチの自警団でもハーヴィーさんぐらいさ。詠唱に時間が掛かるのと、身体への負担は大きいみたいで、なかなか使うタイミングは難しいんだよ。これでハーヴィーさんは前線からは離脱だ。お前さん達二人の保護ぐらいは出来るから、ハーヴィーさんとオレが交代になるな。」
ハーヴィーを囲うようにして、アッカム達は体勢を整え周囲に目を配る。
「見つけました!あっ、マズいですよ、分隊長。」
「どうした、ハーヴィー?」
「いえ、ディガーは見つかりましたが、マズいのは2点。ひとつは南東の方向に孵化したばかりのシャカシアが。」
「なんだって!?って事は?」
「ええ。血の匂いを感じとった個体がこちらに向かってきてます。それに釣られて、群れのように。ここに来るまで、あと四半刻もないでしょう。」
「くそ、こんな時に。ディガーは?」
「西の岩場に身を潜めたまま動きません。先程の雷撃で傷を負って動けないのか、機会を伺ってるのかはわかりませんけど。」
「おい!西の岩場というと。」
「ええ、もうひとつのまずい点がそれです。ディガーは今、シマノフスキくんの目と鼻の先です。」
「なんだって」と横で話を聞いていたルカは、今にも飛び出していきそうな気色でハーヴィーに詰め寄る。
アッカムの方は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「嬉しいじゃねぇか。こんな状況ワクワクしてこねぇか、お前たち。よし、ハーヴィーご苦労さん。サッサと持ち場を交代してお前はシマノフスキとシバケンの保護を。ルカ、利き手じゃねぇから、まだ行けそうか?」
「ええ、大丈夫です。分隊長。不甲斐なくてすいません。」
「なんの、充分な働きをしてくれたし、まだ役割は終わっちゃいねぇよ。だが、くれぐれも無茶だげはするなよ。それじゃ、そろそろカタをつけようかね。」
アッカムは一呼吸おいて、仲間の顔を見回す。
昂る団員の顔つきを満足そうに眺める。
「ルカは4名連れて南東に向かってくれ。」
「4名も?いいんですか?こっちが手薄になるのでは?」
「孵化したばかりのシャカシアの大群だ。4人でも決して多くはないだろう。時間がない、早く行ってくれ。ハーヴィーは、サッサと交代してくれ。」
ルカは部下4名を連れて南東の森に入る。
シャカシアとは、ミミズのようにヌメヌメした体の蛇で、せいぜい1メートルにも満たない大きさだが、貪欲な肉食のため人や家畜に襲いかかり、毎年多くの被害をもたらしている。
単体では6級の討伐依頼となっているものの、強靭な歯と、傷付けにくい弾力のある身体で、なかなか厄介な生物である。
しかも、今回の問題は孵化したて、という事だ。
シャカシア自体は森の中では被食者でもあるため、産卵数は多く100匹近いと思われる。
それが血の匂いに誘われてこちらに向かっているという。
「よし、サッサ来たか。俺たちはディガー討伐と行こうかね。ナイマン、ディガーが隠れてる場所は確認出来たか?」
「ええ。ハーヴィーにあそこまで場所を絞ってもらったんで、ぼんやりと認識できてます。匂い玉でもぶつけて《隠形》を解除してやりますよ。」
「よし。では、ナイマンの匂い玉が合図だ。いつでも飛び出せるように準備しておけよ。右目はオレがやったから、右からの攻撃は有効だ。ナイマンは匂い玉を投げた後は、俺たちの援護と逃がさないように退路の遮断だ。大変だと思うが、よろしく頼むぞ。」
アッカムがそう言うと、それぞれが持ち場についた。
ナイマンは遠くから場所を移動し、徐々に距離を詰めていく。
ディガーの姿はぼんやりと見えているが、じっと様子を伺っているのか、雷撃が致命傷となり動けずにいるのか判断がつかず、緊張が高まる。
匂い玉の射程に入ると同時に、匂い玉を放る。
何かに当たったのか、空中で弾け飛んで飛散する。
ギギィー
ディガーの叫び声と共に、《隠形》が解け雷撃により身体のあちこちに焼け焦げの跡のある姿を現した。
が、ディガーは逃げるかと思いきや、逆に匂い玉を放り投げたナイマンの方に飛びかかって来た。
虚をつかれたナイマンは必死で飛び退るが、足首を掴まれそのまま地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけられながらも、ナイマンはディガーに向けて短剣を投げつける。
喉元に刺さるが、浅く致命傷には至らない。
ディガーは拳を握りしめて、ナイマン目がけて振り下ろす。
ナイマンは両腕をクロスして必死にそれを受ける。
再び拳を振り下ろされた拳は、クロスした両腕ごとナイマンを破壊する。
グォォー
今までの甲高い鳴き声とは違う、低い唸り声をあげ、岩場の上からアッカムたちを見下ろす。
おもむろに腕の毛をむしり取り、アッカムに飛びかかる。
アッカムは盾でディガーの攻撃を受ける。
凄まじい衝撃音が周辺に鳴り響く。
すかさずアッカムが戦斧を振るい、ディガーの腕に斬りつける。
戦斧を素手で受け止めようとする、ディガーの指を一本吹き飛ばす。
間髪を入れずにアッカムは盾を構えて、全体重を乗せた体当たりをくれる。
さすがのディガーの身体も大きく仰反る。
ディガーの背後から、サッサが斬りかかる。
深くは入らないが、肩口に剣が食い込む。
もう1人は右の脇腹目掛けて剣を突き立てる。
剣は深くめり込むが、ディガーはその自警団員の頭部を握り、そのまま連れて飛び退く。
ボキッという嫌な音を立てたかと思うと、連れさられた自警団の男の手が力なく垂れ下がる。
「ナサニール!」
アッカムの悲痛な叫びも虚しく、ナサニールと呼ばれた男をディガーは貪り食う。
腹まで食らうと、残骸を放る。
「くそ、獣が!」
アッカムとサッサは共に飛び出した。
目立つアッカムはわざと左から攻撃し、その隙にサッサは右の死角から剣を横に薙ぐ。
さっきよりも深く入る。
ディガーは握っていた左手から先程むしった毛を2人目掛けて投げた。
なんとか2人は飛びのいたが、その隙にアッカムの頭部目掛けて噛みつきをする。
馬乗りになられながらも、必死にそれを防ぐアッカム。
と、鋭く細い光がディガーの身体を貫く。
みるとハーヴィーが見かねて放った魔法だ。
当のハーヴィーは、膝から崩れ落ち、剣を杖のようにして、かろうじて身体を支えている状況だ。
シバケンは、身体をこわばらせながらも、虚な表情のシマノフスキの身体を抱きしめている。
そのシマノフスキに、ディガーの目はいった。
その場にいた全員が、その時のディガーの勝ち誇ったかのような表情を見た、と言っている。
「シマノフスキを守れ!」
アッカムの必死の声。
と、持っていた戦斧をディガーに投げ付ける。
背中に刺さるが、それを全く問題にしないディガー。
サッサはシマノフスキの元に必死に駆け寄ろうとするが、その背中を踏み台にして、ディガーはシマノフスキに迫る。
シバケンは動く手で金棒を掴み、迫るディガーにむかって振りかざす。
なんなくそれを受け止めると、シバケンから奪い取り放り投げる。
シバケンは、短剣を出そうとあたふたと手にやるが、ディガーの平手で弾き飛ばされ、ハーヴィーごと薙ぎ倒される。
ジリジリとシマノフスキに近寄るディガー。
と、シマノフスキは臆するという事もなく、ディガーに向かって自分から歩いて行く。
一旦キョトンとするディガーだったが、次の瞬間、大きく口を開け、シマノフスキの肩口に飛びかかる。
鋭い牙が左の肩口に食い込むが、シマノフスキの表情に変化はなく、そのままディガーを抱きしめるように捕まえた。
次の瞬間。
抱きしめたシマノフスキの右手から炎が発し、シマノフスキ自身の身体もろともディガーの身体を炎が包み込む。
2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




