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007 ディガー襲撃①

 初日はこれぐらいで引き上げようと、火を消し荷物をまとめているところで、

「きゃー」

 という悲鳴が辺りに鳴り響いた。

 シバケンはビクッと身体を硬くし、周囲を見渡す。

 街道の向こうの方で騒がしい音がする。


「何事だ。」

「隣村には夜間ゴモ村周辺への往来は避けるよう、触れを出したのに。くそ。ナイマンは、ハーヴィーと部下を連れて見てきてくれ。状況の報告を頼む。ただし、人を食ったばかりのディガーは力を増しているから気を付けて。ルカは引き続きシマノフスキの監視を。」

「シバケンたちが向こうを気にし始めて、キョロキョロしてます。我々からの指示を待っているようですが。」

「今我々が姿を表せば、囮作戦が水の泡だ。じっとしておれ。」

「ああ、シマノフスキが恐怖からか暴れています。それをシバケンが必死で抑えて。」

「ええい、ディガーの気配は?」

「まだありません。」

「ハーヴィーからの報告は?」

「それも、まだ。」


 ジリジリとした時間が過ぎる。


 ギギィー


 甲高い獣の声が響く。


「出ました!ディガーです。」


 若い自警団員が、息を切らせて報告に来る。


「ルカ!」

「はい。向こうにはハーヴィーとナイマン殿合わせて4人が行ってます。」

「こちらは、我々5名か。すぐにシマノフスキを確保し、あちらの隊に合流し、ディガーを迎え討つ。ルカは1名連れて、被害者の確保にまわれ。行くぞ!」


 と、その時、黒い大きな塊がシマノフスキに襲い掛かる。

 シバケンはシマノフスキを庇うようにして身体を伏せる。

 その左肩を鋭い爪で裂かれる。

 軽く触れただけなのに、くっきりと4本の筋が残る。

 わずかに血がしたたり、毒に冒されたのか、シバケンの左手は痺れたような感覚に襲われた。


「ちっ、早いな。ハーヴィー達を待ってはおれんぞ。まずは2人の救助を急げ。残りはディガーを仕留める。」


 アッカムは先頭をきって飛び出した。

 ドワーフとは思えない、俊敏な動きだ。

 身体ごとディガーにぶちかます勢いで、戦斧を振りおろす。

 シマノフスキに向かおうとしているディガーの側頭部を襲う。

 必殺の一撃だ。

 すんでのところでアッカムの襲撃を察知したディガーが、身体を捻ってこれを避ける。

 避けきれなかった戦斧がディガーの右目から頬までを切り下げる。


「ギィー」


 凄まじい叫びをあげ、体勢を崩したアッカムの顔面を殴り付ける。

 強烈なる一撃を受け、アッカムの身体が大きく仰反る。

 さらに殴りかかろうとするディガーの後頭部から、火の手が上がる。

 ナイマンの投げた火炎瓶だ。

 叫び声をあげて後頭部に手をやり身悶えするディガーに、ルカが斬りかかる。

 絶好のタイミングだったが、ディガーはアッカムを踏み台にして大きく飛び退いた。

 飛び退きざま、鉄のように硬い自らの毛を引きちぎり、ルカの顔を目掛けて投げつける。

 手で防ごうとするが、その手に針金のようなその体毛がつき刺さる。


「くらえ、雷撃っ!」


 ディガーの頭上に雷撃が落ちる。


「遅れてすいません。部下も後から来ます。あちらは親子3名、既に絶命していました。」


 ハーヴィーの魔法がディガーに直撃する。

 落雷の衝撃で、辺りが一瞬光と轟音に包まれる。

 シバケンとシマノフスキは、自警団のサポートのもと少し離れた岩陰に身体を隠していた。

 先程の傷のせいで、シバケンの左腕は痺れて動かず、シマノフスキの方は恐怖の為か虚な状態になってしまっていた。


「どこへ行った?」

「まだ近くにいる筈だ!探せっ!」


 雷撃の光の衝撃から目が慣れ、ハーヴィと部下は追い討ちをかけようとするが、どこにもディガーの姿を認める事はできなかった。


「左の岩場だ!ルカ、危ないぞ。」


 少し離れた所で俯瞰していたナイマンの声に、皆の視線が岩場に集まる。

 ルカは先程ディガーの毛が刺さり、腕が痺れたように動かなくなっていた。

 利き手ではないのが幸いしたが、歯を噛み締めながら周囲を警戒する。


 全くの静けさに包まれる。

 ディガー固有のスキル《隠形》を発動したのか。

 あの巨体が嘘のように、周囲から気配が消えた。

 警戒しながらアッカムはルカのそばへ歩み寄り、部下に介抱をするよう指示を出す。

 ハーヴィーは剣を地面に突き刺し、魔法の詠唱をし始めた。


「ナイマン、そっちはどうだ?」

「アッカムさん、面目ない。雷撃の隙に岩陰に隠れたのまでは追えたんだが、ここまで気配を消されちゃ、手も足も出ねぇよ。こうなったら、ハーヴィーに頼るしかねぇ。」

「よし、ナイマンは引き続き周辺を警戒してくれ。ハーヴィーは地上からだ。」


 シバケンはシマノフスキと共に、さっきからずっと身を潜めている。

 隣にはサッサという自警団の隊員もおり、毒消しをシバケンの傷口に塗ってくれた。

 ずっと痺れたような痛みを感じていたのが、全く痛みを感じなくなった。

 治った訳ではなく、無感覚というか力も入らないどころか動かす事も出来なかった。

 痺れていないだけマシ、という感じだ。

 シマノフスキはというと、虚な表情であらぬ方向の森を見ている。


「シバケンはそのままじっとしててな。今からハーヴィーさんの魔法で、ディガーの探索を行うからよ。」

「あの、地面に剣を刺して?」

「ああ。それで地霊の力を借りるんだ。」

「地霊の?」

「しっ、始まるぜ。」


 とサッサが言うと、ハーヴィーが地面に刺した剣が光を発し、そこから無数の光が放射線状に地面を走っていった。

 光はシバケンの方にも走ってきた。

 シバケンは思わず目を閉じたが、光はそのままシバケンの輪郭をなぞるようにして走り去っていった。

2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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