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006 ちょっとした人助け

 シバケンは声のする方にシマノフスキと共に慎重に駆け寄った。

 声の主は、街道の道悪に車輪を取られて身動き取れなくなっている商人だった。

 主人と思しき小太りの若い男と、老人の番頭と小僧の3人連れだけで、護衛と思しき人は見当たらなかった。

 小僧と老人は一生懸命ぬかるみから車輪をどかそうと力を込めているが、主人の方は暴れる馬が怖いのか、ただオロオロと見ているだけだった。


「大丈夫ですか?怪我はされてないですか?」

「ああ、冒険者の方ですか。幸いな事に怪我はないのですが、ご覧の通り車輪を取られてしまって。申し訳ありませんが、力を貸して頂けないでしょうか?」

「ええ、ちょっと待ってくださいね。」


 持っていた金棒を梃子のように引っ掛けて、


「それじゃ、力を合わせて、いち、にい、の、さん」


 シマノフスキも見よう見まねで手伝うが、なかなかぬかるみを脱する事は出来なかった。


「オレ達も力を貸すぜ」


 とナイマンと自警団もいつの間にか集まってきた。


「いいんですか?」

「いいも、悪いもないさ、この状況を遠巻きにはできないだろう。」


 自警団の車輪の下に厚い皮をかませて動かそうとしたり、道悪の穴を更に掘ってなだらかにしたりと、悪戦苦闘している。

 シバケンは少しでも荷台を軽くするため、商人を説得して荷台の荷物を下ろし始める。

 香辛料や塩などの品を扱う商人で、今からゴモ村に運ぶ途中だという。

 大人の腰ぐらいまでの大きさの瓶がいくつも積み込まれており、天秤棒を使ってシバケンと小僧さんの2人で下ろし始めた。

 破れた瓶は幸い一つもなかった。

 香辛料の瓶をおろすと、あたりにスパイシーな香りが満ちる。

 積まれた瓶を半数ぐらいを下ろした時に、車輪がぬかるみから脱する事が出来た。


 ナイマンがシバケンから借りた金棒で持ち上げながら少しづつ動かしたのだという。

 金棒が思わぬ役に立ったみたいで、皆から褒められた。


「本当に助かりました。これで、なんとか夜までにゴモ村に入れそうです。」


 商人と、番頭は深々と頭を下げゴモ村へと急いで行った。

 降ろした瓶を再び荷台に載せたりしているうちに日も翳り始め、次第にディガーの出る時刻に近づきつつあった。

 と同時に、先程の小僧さんの年齢も気になるところだった。


「アッカムさん、どうします?もう少しここに残りましょうか?それとも彼らの事が心配でもあるので、一緒に戻りましょうか?」

「いや、大丈夫だ。ナイマンが村周辺を警戒している隊に連絡をしたので、間もなく彼らが来るだろう。商人たちは彼らに任せて、シバケンくんはこのまま囮作戦は続行しよう。出るとしたらこれからの時間だ。気を引き締めてくれよ。」

「ちょうどいい機会なので伺いますけど、ディガーってどういうバケモノなんです?」

「なんだって?!そんな事も知らずに協力すると言ったのか。呆れたね、まったく。」

「お恥ずかしいですけど。」

「いや。説明を省いたこちらにも、落ち度はあるがね。ディガーについてだが、猿はわかるだろ?」

「ええ。」

「簡単にいえば、人喰いの大型の猿だ。動きも素早く、知恵が回り、人間なんかより遥かに力も強い。それに、猿とは違って鉄みたいに硬い体毛に覆われてるうえに、微量ながら毒も持ってるから、非常に厄介なやつさ。」

「大型って、どれぐらいですか?大人の男ぐらいですか?」

「なかなか。身長3mぐらいさ。」


 ヤバくないか。

 めちゃくちゃ強そうだぞ。

 シバケンは一気に不安が増してきた。


「木の上で様子を見ているしれないから、あんまり森に近付かない方がいいかもな。不意打ちの恐れもあるし、逃げられる恐れもある。」

「勝てるんでしょうか?」

「ああ。それは任せといてくれ。所詮は獣だ。来るとわかって対処すれば、問題ない。魔法耐性が無い事と、火に弱いという弱点も明確だしな。」

「わかりました。お任せしますね。」


 そこから約2刻(約80分)、もう少し薬草採取を続けようかと思ったが、暗くて薬草の見分けがつかなくなってきたので、仕方なく薪を炊いて時間を潰した。

 風で木々の枝がざわつくたびにドキドキし、金棒を握る手にも力がはいる。

 もう片方の手はシマノフスキの手を握るが、力が入って痛いのかシマノフスキは膨れっ面をする。

 この依頼を安易に考えていた、と今更ながらシバケンは少し後悔する。

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