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002 冒険者ギルド

「ダメだっていったじゃないか。」

「姐さんはそう言いますけど、まずは当人の意見を聞いてみなきゃわからないでしょ。」

「一体何の話を?」


 スープを食べ終わったのか、キョトンとした顔でシマノフスキも3人のやりとりを見ている。


「今街道に化け物が出るって話は、シバケンの耳にも入ってるか?」


 タランテラ市に向かう本街道において、以前からたびたび人が襲われている、という話は聞いていた。

 ちなみに、オトギ邸へ向かった街道は方角が違い、あちらにはそんな物騒な事件は起きてはいなかった。


「聞いた事はあります。荷物が取られてないから、強盗じゃないって話ですよね。いつか冒険者ギルドに行った時にそんな話を聞きましたけど」

「ああ、盗賊ギルドにもずいぶん前から話がきてて、探索はしてるんだが、情けねぇ事に犯人確保の手掛かりが掴めなかったのよ。ただな、嫌な話だがガキの死体だけがねぇのさ。人攫いじゃねぇ事は、流された血の量だけで、間違いはねぇ。」

「それじゃ、つまり、、、子供を殺して、その死体を持ち帰る、、、?」

「いや、持ち帰らずにそのまま、な。」

「食べる、、、?」

「そうじゃねぇかって話が、状況証拠から段々と固まってきたって訳だ。同じような時間、場所を通っても、狙われるのは決まって子連ればかりだからな。」

「酷い話ですね。そんな化け物が、この近くの街道に出没するのですか。」


 酷い話ではあるが、シバケンに話をふられた謂れがわからない。

 が、ナイマンが言いにくいそうにもじもじしている様子に、シバケンは事態を察した。


「まさか、シマノフスキに囮になれって言ってるんじゃないでしょうね?」

「察してくれたか。」

「いや、ダメですよ。」

「まぁ、よく話だけは聞いてくれよ。囮というと語弊があるかな。どうせシバケンが面倒を見るなら、シマノフスキも冒険者ギルドに登録して自活出来る様にしたらいい。それなら、手始めにあの街道の近くで薬草採取などの依頼から始めたらどうだろうか。そんな親切心だ。」

「いやいや、あからさまに囮じゃないですか。ダメですよ。そんなの、危険過ぎます。」

「もとより危険な目に遭わせるつもりなんて無いさ。絶対に大丈夫だよ、とまでは言いきれないが、俺たち盗賊ギルドと、自警団の選りすぐりが周囲の警戒をしてるんだ。囮と言えば聞こえは悪いが、護衛付きで冒険者ギルドの仕事がこなせる、という今のシマノフスキにはうってつけの仕事だと思うぜ。」

「私たち2人で冒険者ギルドの仕事を請けて、それを皆さんが見守る、みたいな事ですか?」

「ちょっとは興味を持ってくれたか?まさに、その通りだ。依頼の内容や報酬、あとは期間といった細かい事は、オレからじゃなくて、自警団の然るべき人間から説明させるから。ちなみに、これはオレ個人の意見だが、自警団との繋がりを持てる機会は逃さない方がいいぜ。」


 たしかに、シバケン自身いまは冒険者ギルドから仕事を貰って暮らしを立てている。

 シマノフスキの自立のためには一緒に冒険者ギルドに登録するのが手っ取り早いが、シマノフスキの今の状態ではギルドの仕事が出来るかの不安がある。

 一方、彼らとしては、早期解決のために子供の囮が欲しいと思っているところに、身寄りのないシマノフスキという少年が目の前にいる、という利害が一致したという事か。

 遅かれ早かれ、冒険者ギルドへの登録をするつもりではいたのだが、いかんせん今回の件は危険が大き過ぎ、シバケンの頭から不安が離れ無い。


「シバケン、悩んでるみたいだね。嫌なら請けなきゃいいんだから、もし興味があるならナイマンと一緒にギルドへ行って話を聞いてきたらどうだい?強制でも無いし、ナイマンに義理立てもする必要も無いんだ。正式に請けるかどうかはそれから決めればいいから。」

「姐さんもそう言ってるんだ。どうだ、行ってくれるかい?」

「ナイマン、くれぐれも無理強いはするんじゃないよ。」

「わかりました。シマノフスキのギルドへの登録については考えていたので、冒険者ギルドには伺います。」

「ありがてぇ。」

「だけど、今の話を請けるかどうかは。」

「ああ、構やしないよ。しっかり話を聞いて、シバケンの判断で決めればいいさ。自警団にしたところで、シマノフスキがダメなら、また違う作戦を立てればいいだけなんだから、断ったって気に病む事はないよ。そうそう、冒険者ギルドに行くなら、こないだのオーク討伐の報酬が支払われてるみたいだから、ついでに貰っておきな。」


 話を聞いてしまった後できちんと断れるのか不安もあったが、冒険者ギルドへの同行については承諾した。

 シマノフスキはというと、久しぶりの外出に浮かれているようだった。

 まだ一度も言葉を発しないが、出会った頃に比べてシマノフスキの感情の表現がはっきりしてきたようにシバケンには感じられた。

 時々自我を失うタイミングもあれば、何を言いたいのかわからない事も多かったが、格段の進歩だと思う。


「それじゃナイマンさん、まずはどうしましょうか?シマノフスキをギルドに登録する前に、先に話を伺った方がいいですか?それとも、登録を先にしてよかったでしょうか?もし可能なら、さっきメルリーナさんが言ってたオーク討伐の報酬の件と、先日の依頼で獲得した魔石の売却もしたいのですけど。」

「説明するにあたって自警団に集まって貰わないといけないから、まずは冒険者ギルドでの要件を済ませてくれ。その間に準備しておくよ。」


 そう言って、シバケンとナイマンは冒険者ギルドの建物の前で分かれた。

 シバケンはキョロキョロ周りを見回しているシマノフスキの手を引いて冒険者ギルドへ入っていった。

 受付けを見ると折よくアミナがいて、彼女もまたシバケンに気が付いたようだった。


「シバケンさん、こんにちは。メルリーナさんに言付けを頼んだんだけど、ゴモ村でのオーク討伐の報酬が出てるわよ。」

「アミナさん、ありがとうございます。ちゃんと伺ってますよ。でも、まずは彼の冒険者登録をお願いできますか?」

「あらそう?それなら、報酬の手続きも一緒にしちゃうわね。いま準備するからちょっと待ってて。」


 と言って奥から書類を持ってきた。

 シバケンは、もしシマノフスキが字を書けないようなら、代わりに記入しようと思ったが、予想に反した達筆でアミナに言われるがまま記入をしていった。

 シバケンの方は、報酬の受領書へのサインだけだったが、その報酬の額たるや金粒1顆と銀貨5枚。

 150,000ガンだ。

 初めて持つ大金に驚かされた。

 その中からシマノフスキの冒険者登録料の銀貨1枚を支払う。


「登録にはまだ時間かかりますよね?先に魔石の買取をしてから戻ってくるので、血液の登録はそれからでもいいですか?」

「ええ、いいわよ。多分今なら混んでないと思うから、行ってくるといいわよ。」


 シマノフスキの手を引き、シバケンは買取りのカウンターに向かった。

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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