001 シマノフスキを連れて
シマノフスキを連れて帰った時は、流石のメルリーナも眉を顰めた。
「よくそんな危ない事をしてきたね。一つ間違ったら、アンタの精神もやられてたかもしれないのに。いや、知らなくても無理はないんだろうけどさ、今時依り童を臆面もなく使ってるなんて、よほどの変態だけさ。しかも、平気で交換をしようとするなんて、悪い意味で生粋の魔術師なんだろうね。そのレスピーギって奴は。」
「そんなに危険だったんですか?」
「覚えておきな。冒険者ギルドに登録してる魔術師だけが魔術師じゃないって事だよ。魔術師協会に登録してるのや、宮廷魔術師なんてのは、利己的で、排他的で、その上善悪の基準が狂った連中がゴロゴロしてるからね。関わり合いになるにしても、2歩も3歩も引いた上で付き合わないと、何をされるか分かったもんじゃないよ。これからは気を付けるんだよ。後でそのレスピーギについて詳しく風体を教えておくれ、今後何かで引っ掛かりが出来るかもしれないからね。さてさて、肝心なこの子の扱いだけど。」
無心にスープを啜っているシマノフスキを、メルリーナとシバケンは見下ろす。
「依り童なんて危険な者に、あんまり近付く事ないからね。アタシもどう扱っていいか分からないのが正直なところだけど。。。」
「危険、ですか?魔術師の方が危険ではなくて?」
「まぁ、魔術師が危険なのとは意味合いが違うんだけどね。依り童ってのは、幼い頃から主人である魔術師から、日々大量に魔力を注入され続けた存在なんだ。で、耐え切れなくなった者は幼いうちに破棄――ごめんよ、こんな表現になっちゃうけど、昔からそう言うんだよ――、破棄されるんだけど、その一方で、破棄されずにいる依り童は、しだいに自分でも魔力を生成する存在に変異するのさ。理屈まではアタシらには分からないけどね。」
「自分で魔力を生成、ですか。」
「なかなか興味深い話だろ。昔は、、今もかもしれないけど、その研究をすすめる魔術師がいるって話だよ。まぁ、それはさておき、その自分で魔力を生成する力ってのが曲者で、12歳前後が大体ピークらしいんだ。その後年々衰えていくって言われてるね。」
12歳と言うと、小学6年生か中学生になるぐらいか。
シマノフスキは華奢な身体つきをしているが、骨格はがっしりしており、まさか小学生とは思えなかった。
シバケンの見立てでは、おそらく高校生ぐらいであろうか。
その見立てならば、レスピーギがあの時に「もっと早く交換しておけばよかった」云々と言っていたのとも辻褄が合う。
「さて、さっきの魔力の生成って話だけど、魔術の使い方を知らない者が魔力だけを持つという事が、どう言う事か想像出来るか?」
「。。。暴発、ですか?」
「上手いこと言うね。そうさ、暴発だね。ひとつは身体の方が魔力に耐え切れないパターン。で、もうひとつは、精神の方が魔力に耐え切れないパターンだね。身体が耐え切れなくなる前に、精神の方が耐え切れなくなるってケースの方が多いみたいだけどね。簡単に言えば、制御が出来ない魔力発生装置っていえばいいのかな。今こうして無心にスープを飲んでるけど、身体の中じゃ魔力を生成し続けてるのさ。どうだい、シバケン?危険って言った意味が、なんとなくわかるだろ。」
「、、、ええ。」
「もちろん、この子がすぐに暴発する、なんて言うつもりはないけど、依り童ってのは概してそういう存在だって事は理解しておくんだね。」
安易に面倒を見ようと考えていたが、まさかこの少年にそのような危険があるとは。
「その暴発を抑える方法とかないんですか?」
「さぁね。必ず暴発するって訳でもないだろうし、そもそも依り童自体が今ではあまり見る機会のない存在だからね。魔術師なら知ってる人間も居るかもしれないけど、ただ、暴発するのは魔術師から破棄された後だから、奴らにとっても興味は無いのかも。いずれにしても、アタシにも見当つかないね。」
「ダメ元で聞きますけど、そういう治療するところとか、あと、今から魔法の使い方を学ばせる、とか、魔力を吸収する道具とかって。」
「ホントに面白い事を言うねぇ。治療に関しては、知らないし、聞いた事もないよ。魔力吸引の道具なんてのも諦めた方がいいかもね。ある事はあるけど、魔物相手に使う補助武器だからね。治療目的に使うような、そんな生優しい代物じゃ無いよ。ただ、魔法の使い方を学ばせる、ってのは案外いいかもね。」
「意外でした、まさか魔法の使い方を学ばせるのが良い案だったなんて。」
「勘違いしちゃダメさ。今言った中では、だよ。今の状態を考えてみなよ。最初連れてきた時よりは大分落ち着いてきたみたいだけど、あのままじゃ学ぶってのは難しいだろうね。それに、アンタが横にいないとすぐにパニックになるみたいだしね。あれから2日、冒険者ギルドに顔も出してないだろう?どうするんだい、これから。」
「それで、オレからの提案さ。」
隣の部屋からナイマンが顔を出した。
メルリーナは苦い顔をした。




