004 初仕事は荷物持ち
ガイエンは背嚢の口を縛ると、シバケンの背中にそれを載せ、ロープで固定した。
ガイエンの乗せ方が上手いのだろうか、背中にしっかり固定されて、さほどの負担にはならなかった。
「ほう、あれだけの荷物を背負っても、ケロッとしておるの。先程はワシらに着いて歩くだけでも息を切らせておったというのに。これがお前さんのスキルの力か。便利な物だな。よし、そろそろ行こうかの?」
と言うと、ガイエンはさっさと歩き始めた。
相変わらず足を負傷したとは思えない健脚ぶりだ。
ヒューモもその後ろを歩く。
シバケンも慌ててその後を追おうとした。
立っているだけではさほど感じなかったが、一歩踏み出すとズッシリと背嚢の重さが背中にのしかかる。
あれっ?
スキルの力はどこいった?
「おーい、シバケン。どうしたの?着いてこないと置いていくよ。」
「はーぃ。。。今行きます。」
「なんじゃ、さっきはシレッとしておったが、歩き始めるとからっきしじゃの。」
「はぁはぁはぁ。すいません、急ぎます。ところで、私のスキルは《牽引》なんですよね?」
「うん。そう書いてあったよ。」
「あぁなるほど、そういう事か。荷物運びとは違うという事のようだの。となると、荷車などが有れば良かったという訳か。」
「多分そうじゃないかと思います。」
「となると、背負ったり持ち上げたりはその付随として、スキルの影響はあったのか。」
「ええ。」
「なるほどのう。これから仕事を請ける場合の参考になってよかったの。」
「ですから、ちょっとペースを落として頂けると助かるんですが。。。」
「まったくわがままな奴じゃの。わかった、お前さんに合わせてやるわい。」
再び歩き出した時には、ヒューモが後ろを支えてくれたので幾分か楽になった。
ガイエンは周囲を警戒しつつ、先を歩いていた。
「ガイエンさん、今向かってるのは、ゴモ村でしたっけ?」
「そうじゃ。まずは今日中にゴモ村へ行き、明朝タランテラ市へ向かう。このペースなら、暗くなる前にはゴモ村に着くじゃろう。ゴモ村にはワシらの支部があるゆえ、今晩はそこに泊まる予定じゃ。お前さんも、今晩はそこに泊まるといい。飯も食わせてやる。金はその時に渡す」
どうやら、今晩の寝る所と食事の心配はしなくていいらしい。
ありがたい話だ。
だが、明日からどうやって生きていけばいいのだろうか。
同じ職無しの状態でも、転職先を決めずに勢いに任せて、嫌な上司に退職届を叩きつけた時のような清々しさはなかった。
「聞きたい事があったら、遠慮なく質問してよいぞ。当面の不安は、明日からの暮らしの事じゃろ?」
「ええ。おっしゃる通りです。こうやってガイエンさんのお仕事させてもらってますけど、明日からはどうやって仕事見つけようかと。」
「ワシもホウケの暮らし方など知らんわ。」
「。。。ですよね。」
「とはいえ、普通は冒険者ギルドに登録じゃろうな。」
「冒険者。。。ですか?冒険をするんですか?」
「何をバカな。討伐だけが冒険者の仕事じゃないわ。薬草採取や人足仕事などもある。それに、お前さんのスキルにうってつけの、荷物運びのような仕事も多いじゃろう。おそらく、仕事の選り好みさえしなければ、食う所と寝る所には困る事はない筈じゃ」
それを聞いて少しはホッとした。
が、社会保障などは無いだろうから、身体を壊して仕事が出来なくなったら、すぐに顎が干上がってしまう。
無駄遣いせず、貯金はしたい。
貯金?
銀行なんて無いだろうから、こんな物騒な世界で、常時全財産を持ち歩くのか??
気が重い事ばかりだ。
「冒険者ギルドには、誰でも登録は出来るのですか?」
「誰でも、というと語弊はあるが、登録は出来る。後は自分に合った仕事の依頼があるかどうかじゃな。」
「シバケンなら、冒険者としてやってけるよ」
「ヒューモ様、ありがと。」
ヒューモの根拠のない励ましに、シバケンは強張った笑顔で答える。
「おい、シバケン。あそこに黄色の実は見えるか?取って来れるか?」
ガイエンが指さす方に、大人の拳ほどの大きさの黄色い果実がなっていた。
「これですか?」と聞くとガイエンは頷いたので、持っていた木の棒を何度か振り回して、見えている果実を5個落とした。
「あっ、イカンだ。ちょうだいよ。」
「ヒューモ様、今渡しますから、慌てない。みっともないですよ。シバケンよ。これはイカンといって、果肉は食えるし、皮は硬いが干したら薬屋に売れる。ちなみに、ヒューモ様とワシの好物だ」
ヒューモは早速ナイフで器用に皮を剥き、滴る果汁と共に頬張った。
剥いた皮は捨てずに、ガイエンに渡していた。
さっき言っていた通り、売って金にするのだろうか。
幸せそうなヒューモの顔を見て、シバケンもひとつ手に取った。
ナイフはさっきの死体からの戦利品では気持ちが悪いので、ヒューモに借りて皮を剥き始める。
「何とも危なっかしい手つきじゃな。手を切るなよ」
呆れたようなガイエンの声と、ヒューモも冷やかしたような笑顔。
酸味が強いが、たっぷりの果汁が口いっぱいに広がり、梅のような香気が鼻をくすぐる。
真ん中にピンポン玉ほどの大きさの種があるだけで、たっぷりの果肉をむさぼるように口に運んだ。
不安を忘れた瞬間であった。
2022.8.13 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました
2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました




