表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/253

008 依頼者との面談

 次の日は、まだ暗いうちにシバケンは目を覚ました。

 まだ寝ているワイルとプシホダを起こさないようトイレに行き、厨房で水を飲む。

 そして、庭に出て冷たい水で顔を洗い、固く絞ったタオルで身体を拭く。

 二日酔いではないが、頭が重い。

 ズボンだけを穿き、上半身裸のまましばらく腰掛ける。

 この世界に来てまだ間もないというのに、身体つきがだいぶ締まってきたな、などと考えてはいるが、意識の端々にカンナの事を思い出す自分に気付き、シバケンは自嘲気味に笑う。

 空はまだ昏く、人も歩いていない。

 時折吹く風が心地よい。


「人に見せるには、貧相な身体だね。」


 急に声をかけられ、シバケンはビクッと振り返る。

 いつの間にか、すぐ後ろにメルリーナと時折見掛ける男が2人並んで笑顔で立っていた。

 たしか、男の名前はナイマンといったか。


「物音がしたから出てみたら、アンタだったかい。えらく早いじゃないか。そういや、昨日はプシホダとお楽しみだったみたいだね。」

「すいません。帰ってすぐ、手伝いもせずに寝ちゃいまして。」

「いいさ。アンタは使用人でもないんだから。謝る事はないよ。自由にやりな。」

「自由にって言っても、プシホダさんは見習っちゃダメだぜ。」

「ええ。」


 笑いながらプシホダの事を言ってはいるが、この二人に限らず、“アンジュの顎”の全員がプシホダに対して一目置いている雰囲気はいつも感じられた。

 ガイエンの昔馴染みでもあるようだし、昔は名を馳せた影人だったのだろうか。

 今は見る影もないプシホダの姿を思い描きつつ、シバケンは不思議な思いにかられた。


「今日は、朝からギルドに行くのかい?」

「いえ、昨日のうちに依頼は請けてありますから、今日は昼にその依頼主に会いに行く予定です。」

「へぇ。って事は、プシホダさんと飲みに行く前に冒険者ギルド寄ったのかい?あの人も一緒だったんだよな?」

「ええ、一緒に依頼を見てもらいましたよ。」


 「えぇ」とナイマンは一際大きな声を上げる。


「よく、あの人がギルドに付いて行ったなぁ。しかも、依頼を探すなんて。よっぽど呑みたかったんだろうな、あの人。シバケンの機嫌を損ねないように、あの人なりの精一杯の接待だったんでしょうね。」

「ああ、そうだろうね。プシホダらしいっちゃ、らしいけど。今さらだけど、ホントに恥ずかしい人だね。」

「ハハハ。姐さんは、あの人には相当な迷惑を掛けられてるからなぁ。」


 メルリーナがこんなに楽しそうに話しているのを、シバケンは初めて見た。


「シバケン、プシホダさんが冒険者ギルドに入りたがらない理由って聞いたか?ギルドの登録を剥奪されたって話。」

「剥奪?プシホダさんからは、7級になったから自分から登録しなくなった、みたいなニュアンスでしたけど?」

「違うよ。」

「違うわよ。」


 二人が同時に否定する。


「あの人も、つまらない見栄なんか張らなくていいのに。もう皆が知ってる話だから、教えといてやるよ。7級に降格された後も、あの人は色々やらかして、遂に冒険者ギルドから剥奪・永久追放の通知が来たのさ。それをメルリーナの姐さんが盗賊ギルドのマスターに頭を下げて。で、姐さんと盗賊ギルドのマスターが、冒険者ギルドのマスターに頭を下げる、って前代未聞の騒動を引き起こしたんだぜ。それでも剥奪は覆らなかったけど、5年間登録できないって処分にしてもらったんだ。」

「あの時はホントに大変だったんだからね。プシホダだけなら剥奪でも永久追放でも、好きなようにされたらいいんだけど、冒険者ギルドに登録してる“アンジュの顎”のメンバー全員に対して、数ヶ月間の依頼受注の停止とか、容認出来ないペナルティが課せられそうだったのよ。」


 連帯責任とは言っても、相当なペナルティだ。

 一体何をやらかしたのかと思うが、それはプシホダ本人も、冒険者ギルド側からもはっきりとした回答はないという。


「積もり積もった結果なんでしょ。私が聞いてるだけでも、持ち逃げや依頼放棄なんて4、5回じゃないもの。冒険者ギルドじゃなくても、堪忍袋の緒は切れるわよ。とはいえ、この一件の事では、未だに盗賊ギルドのマスターにはイヤミを言われるわよ。プシホダなんかの為に、下げたくも無い頭を下げさせられたってね。それにしても、そんなあの人が昨日冒険者ギルドに行って、依頼まで見てたなんてね。一緒に行ったら見ものだったろうね。」

「姐さん、ホントですね。シバケン、次プシホダさんを連れて行く時は、こっそり合図してくれよ。」


 そんな調子で、プシホダを話の肴に雑談をしていると、ワイルが起きてきた。

 気付くと、空も白みがかってきた。

 昼に依頼主のところに行けばいいので、それまでワイルの仕事を手伝ったり、ヤンナから頼まれた日用品の買い出しなどをして過ごした。


「シバケンの旦那はいらっしゃいますか?」


 早めの昼飯を食べてるところに、ラナマールが訪ねて来た。

 シバケンは急いで食事を済ませ、依頼主との待ち合わせ場所へ出掛けた。

 道はラナマールが知っているので安心だった。


 待ち合わせの場所には瀟洒な馬車が停まっており、その前に長いボサボサ髪の少年と、白いローブを纏った男が立っていた。


「ん、2人か?冒険者ギルドからは1人だと聞いたが?」


 白いローブの男が2人の姿を見るなり、挨拶も無く唐突に口を開く。


「1人は芸人のようだが。荷物持ちはお前の方か。何だ?芸人に用は無いぞ。」

「あの、シマノフスキさんですか?」

「シマノフスキは、こいつだ。」


 と、ボサボサ頭の少年に顔を向ける。


「私はレスピーギだ。あまり世間に名前が出るのを好まんゆえ、依頼はシマノフスキの名前で出したが、貴様らの主人は私だ。で、さっきの質問の答えは?」


 傲岸なレスピーギに対して、シマノフスキという少年は先程から顔を下に向けたまま何一つ喋るどころか、顔をこちらに向けようともしなかった。

 ラナマールが目でシバケンを制して、口を開く。


「へぇ、突然に失礼します。荷物を運ぶって依頼の方は、こちらのシバケンという者が請け負わせて頂きます。アタシはラナマール。お気付きの通り“赤目語り”をしております」

「貴様は“赤目語り”か。で、その赤目語りが何の用だ?」

「それはですね。旦那様がオトギさんのお屋敷を買い取ったという話を伺いましたので、今日このシバケンさんに無理を言って連れてきて貰った次第なんですよ。」

「ん?お前はオトギを知っているのか?」

「いえ、直接は存じ上げませんが、ただ、サマジーロ教の研究者としてのご高名は以前から伺っておりました。旦那様はご存知無いかもしれませんが、アタシら“赤目語り”はサマジーロ教とは深い縁があるんです。それで、もしかしたら“赤目語り”の貴重な資料をお持ちでないか、と思いまして。」

「何?“赤目語り”の資料が見たいというか?そんな物があるという話でもあるのか?」

「いえ、もしあれば、という話です。」

「くだらん。が、作業は手伝うんだろうな?」

「ええ、それはもちろん。」

「ふむ。資料が無ければ、貴様はタダ働き。また、もし有ったとしても、私が興味を惹かれるような資料である場合は見せる訳にはいかん。つまり、私の興味を惹かないつまらない“赤目語り”の資料があれば、見せる、という条件になるが?」

「はい、その条件で結構でございます。」


随分ワリの悪い話のようだが、ラナマールは一向に気にする様子もなかった。


「ふん。芸人風情の考える事は理解が出来んが、知識に対する欲求は認めてやらねばならぬな。いいだろう。荷物運びを手伝わせてやる。」

「ありがとうございます。」

「では、依頼の話をするが、オトギの屋敷の場所は芸人の貴様は知ってるのか?そうか。それでは説明の手間が省けて都合が良いな。私達2人は先に行っておるゆえ、お前たちもこれからすぐに出発しろ。運搬用の荷車は既に現地に用意してあるので、身体ひとつあれば事足りる。現地での積み込みと、この村までの運搬までが仕事だ。グズグズしている時間はないからな。私の時間を無駄にするでないぞ。」


 と言うと、レスピーギは悠然と馬車に乗り込んだ。

 続いて、今までピクリとも動かなかったシマノフスキは音もなく馭者台に乗り、馬に鞭をくれて走り出した。

 シバケンとラナマールの2人は、呆気に取られてそれを見送った。

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ