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004 『木馬亭』にて① “赤目語り”との出会い

 依頼を請けるかどうかは会ってから決めるとして、まずは明日の昼に依頼主と会うように、ギルドの受付で登録をした。

 申請はすぐに受理をされたので、シバケン達はそのまま冒険者ギルドを後にする。


「すっかり遅くなっちまったなぁ。さて、急ごうかね。」

「お待たせしちゃって、すみません。プシホダさんおすすめの店は、ここから近いんですか?」

「近くはないがな。おめぇ、この村にはもう慣れたか?どこに何があるか、は何となく分かるか?」

「いえ。恥ずかしながら、寝起きさせて貰ってる“アンジュの顎”の支部と冒険者ギルドの往復がほとんどで。あまり他のエリアには足を向けてないんですよ。特に住宅街はさっぱりで。」

「情けねぇな。まぁ、影人くずれのオレたちと、冒険者じゃ考え方が違うのが当たり前か。それじゃ、今からむかう所は入り組んでるから、オレを見失わずに付いて来いよ。それに、懐には気をつけな。」


 そう言うと、プシホダはシバケンの方を振り向きもせずに、ズンズンと進んで行った。

 大通りを折れて細い道に入り、薄暗いゴミゴミしたエリアに入ってきた。

 シバケンも言われた通り見失わないように、プシホダの背中を追いかける。

 そのエリアは露店も多く、また何をする訳でもなく地面にそのまま座っている住民も多かった。

 心なしか、人の汗や腐敗したゴミの合わさった饐えた臭いが周囲に漂ってきた。

 シバケンの顔をみて、物を売り付けようと声を掛けてくる店も多く、まだ昼だというのに酒に酔っ払い道端に寝ている男もいた。


「ここは?」


 四ツ辻で汚い男達の集団をやり過ごすために立ち止まったタイミングを見計らって、シバケンは唖然としてプシホダに尋ねる。


「初めてだろ。ここら辺は、ちょっと金のない連中が住むエリアでよ、今通ってるのは物乞いさ。汚くて臭えだろ。今から繁華な場所に行くと、ちょうど酒の入った連中や、博打で買った連中からの喜捨があるって寸法さ。逆に、早朝から昼過ぎまでは、信仰心に縋ろうってんで、教会や神殿の近くに行くらしいぜ。物乞いのくせに、勤勉に商売に励んでやがる。」


 プシホダはニヤリとシバケンを見て笑う。

 シバケンは、何だか圧倒されて改めて物乞いの集団を見送る。 


「おい、ボーっとしてるんじゃねぇよ。慣れたら気のいい連中ばかりさ。ここの連中で冒険者ギルドに登録してるのも多いから、これから知り合う事もあるだろうさ。さあ、酒屋はもうすぐだ。早く行こうぜ。」


 最初は少し圧倒されたが、スラムではなく、プシホダのいう通り「ちょっと金が無い」人たちの街なんだろう。

 不思議な気もするが、物乞いすらも職業として成立しているようだった。

 昨日の街道整備の人足などの依頼を請けるのも、こういった街の男達なのかもしれないな、とシバケンはひとりごちた。

 失礼にならない程度にキョロキョロしていると、プシホダはボロ屋の前で止まった。

 傾いた看板には「木馬亭」とかすれた文字で書かれてあった。

 ガラスの欠けたランプに火が灯り、中からは既に出来上がったかのような粗野な笑い声が聞こえてきた。

 シバケンは、プシホダに付いて恐る恐る中に入る。

 店の中は思ったより広く、また、外から想像した以上に綺麗にされていた。

 ガラの悪そうな男が3名と女1名のグループが店の奥に座っている。

 店の外にまで聞こえていた笑い声は、彼らのものだろう。

 あとは、入り口近くに座っている男がひとり。

 年頃は、シバケンと同年代ぐらいか。

 横にギターとウクレレの中間ぐらいの大きさの弦楽器を立て掛けているのが目を惹いた。


「おっ、ラナマールじゃねぇか?」


 プシホダは、何の躊躇いもなくその男の真向かいに腰を下ろした。


「えっ?ああ、プシホダの旦那ですか、ご無沙汰ですね。」


 ラナマールと呼ばれた男は驚いて顔を上げ、プシホダの顔を認めると嬉しそうな表情を浮かべた。

 プシホダはシバケンにも隣に座るように促した。


「こいつはシバケンだ。しばらくウチの組織で面倒見る事になったやつよ。親父もカンナも、ちょくちょく顔を出すと思うから、こいつの事よろしく頼むぜ。あと、酒と適当な料理もだ。」


 プシホダは厨房に向かって声をかけ、「で、」と言って再びラナマールとシバケンに顔を向ける。


「こっちがラナマール。“赤目語り”の芸人よ。」

「“赤目語り”?」

「やっぱり知らねえか。ラナマール説明してやってくれ。」

「へえへえ。今の方には“赤目語り”と言ってもご存じないかもしれませんね。簡単に言うと、節と会話で物語を語る芸人ですよ。英雄譚や建国史のような大仰なものから、市井の笑話、艶っぽい話まで、語る内容は様々ですけどね。」

「へぇ、面白そうですね。」

「是非今度聞きにきて下さいよ。でも、ほかの自称“赤目語り”は聴いちゃダメですよ。アタシとは似て非なるものですからね。」

「と言うと?」

「シバケンの旦那、それを話すには、まず、なぜ赤目語りというか、という話から始めさせて頂かなきゃいけませんね。」

「まいったね。こりゃ話が長くなるぜ。シバケン、お前の責任だから、しっかり最後まで話に付き合ってやれよ。オレは酒取りに行ってくるからよ。」

「プシホダの旦那、まぜっかえしちゃいけませんよ。さて、シバケンの旦那。なぜ“赤目語り”というか、ですけど。かつては薬草を目に入れて、白目を充血させた状態で神話や教義を大衆に分かりやすく説いたのが赤目語りのスタートなんですよ。それが、だんだん人々に浸透していって、物語全般を語るようになり、それに伴って目を充血させる事が無くなりました。ただ、単に節と会話で物語を語る芸人を“赤目語り”と呼ぶようになった、というのがアタシ達みたいな芸人としての“赤目語り”の成り立ちなんです。」

「なぜ、目を赤くするのですか?」

「神々の目が赤いからですよ。そのため、その教義を語る者も目を赤くする、って成り立ちだそうですよ。で、さらに時代が下って、今から150年ほど前に“赤目語り”の黄金期を迎え、クモーケンやベッサイル、初代・二代のスガチキ、ラクーラ兄弟なんて先生方をはじめ、沢山の芸人が出て隆盛を極めたそうですよ。その頃は、“赤目語り”のギルドまであったなんて記録もあるぐらいですから。ところが、しだいに後継者が少しずつ減り、それじゃいけないってんで、珍奇な事に手を出すようになり、それが更なる人気低迷に繋がっていくって具合で、今じゃアタシみたいな昔ながらの修行をしてきた“赤目語り”は少なくなってるんですよ。」

「そんな歴史があるんですね。で、さっき言った、自称“赤目語り”っていうのは、その珍奇な事に手を出した人達の事ですか?」

「いえいえ、彼らの事じゃありません。自称“赤目語り”ってのは、さっき言った150年前の黄金期に、再び教会や金持ちの庇護に入って、幇間持ちのような物語を語るようになった連中の事ですよ。機嫌を取る事に終始して、アタシらみたいに人々を楽しませる芸じゃありません。ただ、有力者に取り入った奴らは、今じゃ先生先生って下にも置かない扱いですけどね。」


 ただの僻みではなく、自分の芸に対するプライドからか、最後の言葉と共に荒々しくコップの酒を呑み干す。


「おい、そんなつまらねぇ話は止めて、ほらっ、酒と料理がきたぞ。」

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