表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/253

001 ゴモ村に戻って

 ゴモ村に着いたのは日暮れ前だった。

 ギルドへの報告はアンブラ村で全て済ませてあるので、ターラとクレンペラーとはそのまま分かれた。

 同じ村で冒険者をやっているのだから、これからいくらでもパーティを組む事があるだろう。

 ターラは「またよろしくね」と、明るく手を振り“アンジュの顎”の支部に向かうシバケンを見送った。

 それは別離という感慨も無く、ごくあっさりしたものだった。

 シバケンはその足で支部へと向かう。

 久しぶりの帰宅だった。

 最初の依頼から、こう何日も家を空けた事はどう思われてたんだろうか?

 と、シバケンは少し不安になっていたが、扉を開けると「お帰り」と何事もなく受け入れてくれた。

 ちょっと拍子抜けはしたものの、荷物を部屋に置くと、すぐに土産を取り出した。

 メルリーナは、自室にいるという。

 少し緊張しながら、ノックをして入る。


「連絡もせずに家を空けてしまって、すいません。」

「ん?家を空けるなんてこれからもよくあるだろうから、気にするような事じゃないさ。それに、ギルドから連絡は入ってたから、アンブラ村での状況は聞いてるよ。無事に終わったみたいだな、ご苦労さま。」


 メルリーナは机の書面から目を離し、シバケンの方を見上げる。


「これ。よかったら使って下さい。これからの季節に重宝するって、店の人に勧められて。」

「ああ、ハーブ入りの蜂蜜酒かい。わざわざお土産を買ってきたのかい。気を使わなくていいのに。でも、ありがとよ。」

「いえ、皆さんには言葉に出来ないぐらいお世話になってますから。お店の人が言うには、身体が暖まる上に、眠気も取れるんですって。それに、火炎瓶にもなるみたいですよ。」

「何だい、そりゃ。えらく物騒なお土産なんだね。」


 メルリーナは笑いながら受け取った。

 表情からはヒューモ達の事など感じさせず、前に会った時と変わらない様子だった。

 珍しそうに瓶を取り上げる。

 蓋を開け、鼻を近付けるとすぐに顔を顰めた。


「すごい匂いだね。アンブラ村にこんな物売ってるなんて知らなかったよ。ちょうど今晩、野外での張り込みの仕事を請けてるのがいたから、そいつに持たせてやるよ。シバケン、わざわざありがと。残りの3本も大切に使わせて貰うよ。」

「お役に立てて貰えるなら嬉しいです。よかったら買ったお店の場所も教えますね。お婆さんがひとりでやられてる小さなお店ですから、一緒に行った冒険者さんは何度もアンブラ村には来てるけど、気付かなかったって。」

「へえ、それじゃウチの奴らも知らないかもね。暇な時でいいから、地図でも書いてくれよ。」

「わかりました。あと、これがワイルさんへのお土産です。」

「ワイルにもかい?せっかくの報酬が土産代に消えちゃうんじゃないか。しかも、アンタ結構な酒好きらしいじゃないか。どうせ向こうでも呑んだんだろう?ちゃんと金残ってるんだろうね。」


 メルリーナは、笑いながらシバケンが渡した包みを受け取る。


「ん、蜂蜜飴?懐かしい物を買ってきたんだね。確かミルク味のもあったような。えっ、中に入ってる。そうか。小さい頃にはなかなか食べられなくてね。羨ましそうに見てたのを思い出すよ。へぇ、懐かしいな。後でワイルに分けて貰おうかな。」


 ワイルは買い出しに出払っていたので、メルリーナから後で渡してもらう事にした。

 メルリーナにお願いするのも失礼かと思ったが、快く受け取ってくれた。


「ところで、プシホダさんは?」

「さあねえ。あの人はいつもフラフラしてるから。といっても、ウチで呑んでるか、外で呑んでるかの違いなんだけどね。まぁ、夜には帰ってくる筈だから、食事でもして待ってな。疲れてるだろうから、部屋まで運ばせるよ。」


 食事と聞いて、急に空腹を覚えたシバケンは、帰り際厨房に顔を出した。

 厨房の中では「すぐに部屋まで持って行きますね」と、中年の女性が忙しそうに立ち回っていた。

 手伝える雰囲気では無かったので、「よろしくお願いします」とだけ言って、シバケンは部屋に戻った。

 厨房から漂う、香辛料と肉の焼ける匂いが疲労で忘れていた空腹を、否が応にも思い出させた。


「おまたせ。今日のメニューは、イリスの香草焼きと野菜のスープだよ。香草焼きの方は生野菜と一緒にペイに包んで食べておくれ。」


 ほどなくして、中年の女性が食事を運んできた。

 ヤンナという名の女性で、ここの下働きをしているという。

 ただ、既に家庭を持っているので、住み込みのワイルとは違い、通いで働いているという。

 シバケンは初対面の挨拶をして、さっそく出された食事に目を落とす。

 生野菜の上に、香ばしく焼かれたイリスの肉が豪快に盛られている。

 ペイというのは初めてだが、タコスとかトルティーヤとかそんな感じの物らしい。

 イリスの肉を手でほぐして、下に敷かれた野菜と一緒に巻いて食べるという。

 試しに食べてみると、甘辛く味付けされた肉とカレーに似た刺激的な香草の香り、それに生野菜のシャキシャキした歯触りで、非常に美味しかった。

 ヤンナはお喋り好きな女性らしく、シバケンが食べてるそばから「一度会いたかったんだよ」とか「戦争大変だったね」とか「最初の依頼から災難だったみたいだね」などとしきりに話しかけてきた。

 さらに、その合間に「アタシの姉の嫁ぎ先はザルツベルの近くで」とか「食事と洗濯だけするから、汚れ物あったら遠慮なく言って」とか「この料理は母親の得意料理で」などと、のべつまくなしに話し掛けてきたので、ゆっくり食事は出来なかった。

 だが、行きつけの食堂のおばちゃんを思い出させて、シバケンは懐かしく楽しい時間を過ごした。

 ひとしきり話したあと、


「食事の邪魔しちゃ悪いね。おかわりが欲しけりゃ、厨房にまだ幾らかは残ってたから、遠慮なく声をかけておくれ。あと、ほかに何かわからない事があったら、いつでも聞いておくれよ。」


 とヤンナは部屋を出て行った。

 すごく良い人みたいだし、料理の腕も抜群だ。

 皿一杯に盛られていた肉と野菜が、いつの間にかほとんど無くなった頃には、シバケンの瞼は重くなってきた。

 さっきプシホダさんは夜には帰ってくると言ってたから、朝にはいるのかな、などと考えながら、シバケンはいつの間にか寝落ちしてしまった。

2023.8.20 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ