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036 お土産は忘れずに

 あれから、三々五々解散していって、ターラが宿に戻るタイミングで、一緒に店を出た。

 熟成した蜂蜜酒が美味しくて、つい呑み過ぎた為、道すがらのターラとの会話は覚えていない。

 翌朝、窓から差し込む朝日に、目が覚めた。

 頭はスッキリしているが、若干食べすぎたようだ。

 胃が重い。


 宿の外の水汲みに行くと、クレンペラーは汗を流していた。

 もう、毎日の習慣である訓練は終えたのだろう。


「おはようございます。」

「おう。昨日は楽しんだか?冒険者というのも、悪くないだろう?」

「ええ。昨日は楽しかったです。オーク討伐に参加した時は、これからやっていけるのは不安でもありましたけど、皆さんに良くしてもらって。ただ、昨日の夜は、食べ過ぎたみたいです。」

「ふっ、結構な事じゃ。今日はゴモ村まで帰るだけじゃで、腹ごなしにも丁度いいだろう。」

「そうですね。」

「ワシは今から、剣を研ぎに出してくる。研ぎ終わったら、すぐにでも出発しようと思っておる。お前さんは土産を買うと言っておったが、それぐらいの時間は充分にある筈だ。ターラももう起きておるだろうから、そう伝えといてくれ。」


 と言って、クレンペラーは服を着ると剣を片手に宿を出ていった。

 シバケンも、口を濯ぎ、身体を拭き上げると食堂に向かった。

 クレンペラーの言う通り、ターラは起きており、カウンターに座っていた。

 だが、寝起きなのか、寝癖のついた髪のままだった。

 暖かいハーブティーを飲んで、眠気と闘っているように思われた。


「ターラちゃん、おはよう。」

「ん、おはよ。」

「眠そうだね。クレンペラーさんは剣を研ぎに出掛けたよ。今からお土産を買いに行こうと思うけど、ターラちゃんはどうする?まだ時間あるから、二度寝する?買っておくものがあるなら、買ってくるよ。」

「んー、もうちょっと待って。これ飲んだら、眼が覚めるはず。」


 まだ小学生ぐらいの女の子なんだから、眠たいのも仕方ないだろう。

 日頃に似合わない子供らしい様子に、思わずシバケンの顔が綻ぶ。

 ターラの隣に腰を下ろし、ターラと同じハーブティーに、カカチチの乳を入れた物を頼んだ。

 事前に料金を払ってあったので、朝食のパンはそのまま昼に食べるように包んでもらった。


 邪魔にならない程度に、宿の女将さんと話をする。

 プシホダへの土産はこの村の名物の蜂蜜酒にするとして、ワイルへは蜂蜜で作った菓子にしようかな。

 メルリーナには何がいいだろう?

 女将さんが言うには、蜂蜜酒に香草を混ぜたハーブ酒は、寒い中で活動するのに重宝すると冒険者や盗賊ギルドの人に人気だという。

 シバケンはそれに決めると、女将さんからおすすめのお店を聞き出した。

 とりあえず手持ちのお金は、メルリーナから貰った60,000ガンの残りと、シャサの花採取の報酬22,500ガンの合わせて約60,000ガン。

 今回のオーク討伐その他でいくら貰えるかは分からないから散財は出来ないが、この予算内に手頃な物が有ればいいのだが。


「シバケンさん、ごめん。もう行けるよ。さっき女将さんに聞いてた店行く?」

「ええ。ターラちゃんはどこか行きたいお店とかは?」

「アタシは無いよ。お土産を買う相手もいないし、お腹も空いてないから、お菓子とかもいらないや。」

「それじゃ、私のお土産屋さんだけだね。ランカさんの鍛冶屋とは反対方向だから、急いだ方がいいのかな?」

「大丈夫よ。昨日の店で話が弾んでたみたいだし、シバケンさんはゆっくりお土産選んだらいいと思うよ。」

「そうですか。良いのがあるといいですけど。」


 などと話ていると、女将さんに薦められた店の前に着いた。

 綺麗じゃ無いけど、とは女将さんは言っていたが、小さく古い建物だが、小ざっぱりした店構えだった。

 道路はチリもなく綺麗に掃かれており、店の前の花壇には、名も知らない植物が小さな蕾をたくさん付けていた。


「へぇ、こんな所にお店あったんだ。この村には何回も来てるのに、気付かなかったなぁ。」

「いらっしゃい。」


 店に入ろうと扉を開けた途端に、品のいい老婆の声が聞こえてきた。

 見ると綺麗な白髪の老婆だが、背は低いがやけにがっしりした体格をしている。


「おや、冒険者だね。初めて見る顔だね。えっ?あぁ、あそこの女将さんに聞いて来たのかい。そうかいそうかい。探してる物でもあるのかい?」


 店の中はカウンターの背面に樽が並んでおり、蜂蜜酒の香りのほか、ハーブの刺激的な香りが鼻についた。


「普通の蜂蜜酒と、盗賊ギルドの方にハーブ入りの蜂蜜酒を探しに。」

「普通の、ね」


 笑いながら、後ろの樽からショットグラスのような物に酒を注いでシバケンに差し出した。


「これがウチの『普通』ってやつだね。味を見ておくれ。もう少し甘みの強い物もあれば、後味のスッキリした物もあるし、熟成をさせた物もあるから、好みの味を言ってくれたら、また違うのも持ってくるよ。」


 口に入れると、昨日マーズ亭で飲んだものに比べ、甘く口当たりが良く、より芳醇な香りが口に広がった。

 旨い。

 個人的にはこれが好みだ。

 だが、酒呑みのプシボダにはどうだろうか?

 昨日ぐらいのスッキリした飲み口の方がいいかもしれない。


「これはおいくらですか?」

「気に入ったのかい?こっちは1瓶3,300ガン。」

「もう少しスッキリした味のものありますか?」

「もちろんあるさね。それは1瓶3,000ガン。」


 二つ合わせても6,300ガン。

 全然いける。


「それじゃ、1瓶ずつ下さい。あと、盗賊ギルドへのお土産用のハーブ入りの方なんですけど。」

「ありがとうよ。で、ハーブ入りと言っても、色々効用があるけど、どんなのがいいんだい?」

「すいません。逆にどんな物があるんですか?」

「なんだい、そりゃ?自分が何を買いに来たのかもわからないのかい?」

「ホントよ。お目当てがあると思ってたわよ。シバケンさん恥ずかしなぁ。」


 2人から呆れられてしまった。


「アンタ、冒険者なんだろ?その歳して、ハーブ入りの蜂蜜酒は使った事ないのかい?」

「おばさん、仕方ないのよ。この人まだ冒険者になったばかりだから。」

「そうかい、その歳で冒険者とは大変なこったね。あんた、人が良さそうだから、苦労すると思うよ。まぁ、地道にやる事さね。口開けの客だし、初物だって言うならサービスをしてやるよ。」

「ははは。ありがとうございます。身の丈に合った仕事で、地道に暮らしますよ。」

「ああ、その方がいいよ。」

「ターラちゃんは、ハーブ入りの蜂蜜酒は使わないの?」

「アタシ?アタシは使わないかな。お爺さまは今は使わないけど、若い頃は使ってたみたいよ。昨日のオーク討伐の時にも飲んでた人いたわ。」

「なんだい、あんたら昨日のオーク討伐に行ってくれてたのかい?」

「ええ。でも、混乱しないように、あまり村のみんなには情報開示してないはずですけど。。。」

「こんな狭い村さ、噂はすぐに広がるよ。それに、珍しく自警団のお偉方が、それこそハーブ入りの蜂蜜酒をまとめて買いに来てたからね。ああ、そうだったのかい。この村を守ってくれて、本当にありがとうよ。簡単な戦いじゃなかったんだろ。対応が早くて被害も最小限で済んだ、って聞いたよ。反対に一歩間違えば、ってのも聞いたさ。アンタみたいな見習いの冒険者も、アタシらの村のために頑張ってくれたんだね。ホントにありがとよ。」

「いえ、私なんてそんな。」


 照れ臭く感じたが、この村の人たちを救ったんだというのが、今実感として胸に迫って来た。


「そんな村の恩人には、取っておきのを出さないとね。これからの時期、寒い中で任務をこなすのに、身体を温めるのに使えるのがいいかね。指先まで暖かくなるから、重宝するよ。それとも、気付けの方がいいのかね?」

「気付けにするの?あんまり聞かないわね。」

「そうだろ。ウチのオリジナルでね。舐める程度で意識がハッキリするから、休んでいられない任務の時には眠気はふき飛ぶから重宝するよ。もちろん、意識を失った者に使ってもいいし。あと、引火しやすいから、火炎瓶に使えるよ。また、その煙は刺激的でね。」


 上品な婆さんだと思ったが、不敵に笑う。

 シバケンは思わず苦笑いを浮かべる。


「なんか、使い勝手よさそうね。いくらなの?」

「お嬢ちゃんの方が気に入ったのかい?昨日の事をサービスして、小瓶で3,000ガン。4本で10,000ガンでどうだい?」


 栄養ドリンクぐらいの大きさの瓶の割には、結構いい値段だった。

 が、ターラが興味を持つぐらいだから、冒険者にとって役に立つ道具という事なのだろう。

 それは、盗賊ギルドにも同じだろうし、4人分のアイテムという事なら、決して多い数じゃないだろう。


「それじゃ、私は4本頂きます。」

2023.4.23 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.8.20 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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