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035 『マーズ亭』にて②

「今、自警団と領主の私兵の一部が残って、残骸やら魔石などを回収しているんだが、あれだけの数だから、まだ数日かかるだろう。それを、ギルドが一括で買い取り我々に分配するってんのが今回の報酬に加算されるだろうね。とはいえ、どれだけの割合で配分されるかは、冒険者ギルドの胸ひとつだけどね。」

「それじゃ、その積算が出来ないうちは、この村を出られないのですか?」

「いや、冒険者ギルドを通じて、どこでも報酬は貰えるさ。ワシらは明日にはゴモに戻るつもりだしな。シバケン、お前さんも一緒に戻るか?」

「ありがとうございます。ご一緒させて下さい。」

「アルゲリッチさん達は?」

「アタシらは、このままルメール村まで行くよ。いつも贔屓にしてくれてる商人の護衛の依頼があるからね。」

「そっか、お別れだね。」

「お別れはオレの方だぜ。話を聞いてると、明日にはこの村を出ちまうのか?まぁ、冒険者だし仕方ねぇけど、やっぱり寂しいや。シバケン、必ずまた来てくれよ。」

「ええ。また来ます。そして、次来た時はランカさんの武器を買わせてもらいますね。」

「嬉しいこと言ってくれるね。値打ちにしとくから、是非来てくれよな。アンタらも、この村に来た時は、オレの店を思い出しておくれよ。さぁさぁ、料理も揃ったみたいだし、熱いうちに食べてくれよ」


 ギャパンの串焼き、きのこスープ、鬼蜂の串焼きのほか、川魚の蒸し焼き、肉団子、焼き野菜などが食卓いっぱいに広がった。

 特にランカ一推しの川魚蒸し焼きは、50センチぐらいの大きさの鮒のように丸々と太った魚に、香草のソースがかかった非常に食欲の唆る一品だった。

 ランカが率先して取り分ける。

 川魚の腹にナイフを入れると、中からは魚卵が溢れてきた。


「これが旨いんだよ。まぁ、食べてくれ。」


 そう言うと、慣れた手つきで5人に取り分け、自分にはその残りをよそった。

 食欲をそそる香りに、思わずフォークが進む。

 しっかりした肉質の魚に、プチプチと弾ける濃厚な魚卵。

 そして、濁り酒をたっぷりかけて蒸してあるのだろう、酒の香りが鼻を抜ける。

 それがまた、香草の刺激的な香りと、ピリッとした甘酸っぱいソースとの相性も抜群だった。


「こりゃ、旨いですねぇ。」


 思わず口に出てしまった。

 「だろ?」と、ランカはうれしそうにシバケンを見る。

 他の4人も皆一様に、満足げな表情を浮かべている。


「お前さん、この村の武具屋かの?兼業で自警団を?」

「ああ。そうだよ。この店の斜向かいの店がそうさ。よかったら寄ってくれよ。」

「それは助かる。今日の戦いで、だいぶ剣を酷使してしまったでの。明日の朝少し研いでもらえるかの?」

「そんな事なら、お安い御用さ。今晩置いていくか?」

「いや。明朝店まで持って行く。」

「あたしのも、いいかな?」

「もちろんさ。明日は早くから店を開けて待ってるぜ。シバケンは、、、金棒だから、お前ぇにはいらねぇな。」

「そうだ。シバケンさん、痺れ薬がどうとかって聞いたけど、あれ何の事?お爺さまも耳にしたでしょ?ヴァーリントの横にいた魔法使いが気にしてたわよ。」

「カサレスだね。」

「ヌブーさん、知ってる人?」

「いや、知らないねぇ。ただ、なかなか多彩な魔法を使ってたのは見てたよ。いろんな“山”で学んだんだろうね。で、痺れ薬って何の事だい?」

「痺れ薬ですか?」

「あれだろ?ウチで買った痺れ薬にオークを狂わせる効果があるか、ってやつじゃねぇか?」

「ああ、あれですか。私に聞かれても、何も答えようがないんですけど、、、」


 と言って、あの時の状況を皆に話す。

 皆一様に、「そんな話聞いた事ないなぁ」と首を捻っている。


「でも、万が一それが本当なら、シバケンさんに特別報酬があるかもよ。」

「えっ?どういう事ですか?」

「いやいや、ターラちゃんも期待持たせちゃダメだぜ。たしかに特殊な退治方法とかが見つかった時なんかは、その研究者に褒賞が、って例は無くはないけど、今回はたまたま小動物用の痺れ薬がオークに効きましたってだけの話だからね。」

「えっー、そうなの?」

「そうとばかりも言えないよ。」


 皆がヌブーの方を見た。

 酒が入り、日頃の顔色に、若干の赤みが刺している。


「アルゲリッチの言う通り、発見自体はたまたまだろうけど、そんな日常ありふれた物で、オークに対して効果が出るなら、この国に限らず対オーク戦役に多大な貢献をした話だからね。」


 これから、カサレスがオークに効くのかの検証をし、オーク以外にはどうなのかを検討していくのではないか、というのがヌブーの予想だった。

 全てが上手くいったら、カサレスはその功が認められ、魔術師協会での昇級も確実となる。

 さらに、本人が望めば、宮廷魔術師への道も広がるかもしれないという。


「つまり今回の件は、それぐらいの大発見の取っ掛かりかもしれないって事さ。そうなってくると、のちのち第一発見者の功に水を差されないように、今のうちにシバケンに金を払って因果を含める、なんて可能性は十分あるとアタシは思うね。」


 なるほど。

 いずれにしても、たまたまの事だから、発見者の功などに浴する気は全くない。

 だが、報酬が頂けるのなら、遠慮なく頂くことにしようか。


「おっ、ここでやってたか。」


 自警団と冒険者が大勢入ってきた。


 自警団の一部は現場でヴァーリントと残り、他は皆帰ってきたという。

 事後処理、他村への連絡、村長ほか村役への報告等でこんな時間になったという。

 冒険者達は、違う店で飲んで、店を変えようとした時に自警団と会い、そのまま合流したという。

 マーズ亭の中が更に騒がしくなった。


 店主が他の客を帰して、他の者は後片付けと給仕に大童だ。

 席替えという感じでもなく、皆が入り混じって酒を飲み始めた。


 アルゲリッチは、他の冒険者の元へ。

 クレンペラーとターラは、ギルマスだという獣人の元へ。

 ヌブーはいつの間にか店の隅の、皆を見渡せる位置で1人呑んでいた。

 シバケンも、ミナ班の皆と呑んで騒いだが、次第に自警団同士の話になってきたので、タイミングを見て抜け出した。

 カウンターまで行き、川藻を茹でて塩と酢と油で和えたサラダというかお浸しというか、一品を頼んだ。

 あとは、チーズに薄切りのハムに、蜂蜜。

 酒は、熟成させた蜂蜜酒を頼んだ。

 先程の薄く黄色がかった透明な液体が、一転して琥珀色に変わっている。

 場所は、ヌブーの邪魔にならないように、少しスペースを空けて、慎重に運ぶ。


 仕事が終わった充実感に満たされながら、アンブラ村での最後の夜は更けていった。

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