表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/253

030 夜襲②

 頭の上で自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「、、、シバケン!」


 さっきから何度も自分を呼ぶ音が耳の奥に響いて来る。

 ハッと意識を戻し、慌てて身体を起こそうとする。


「あっ、身体はそのままでいいよ。よかった。ララギルさん、気付いたみたいだよ」

「わかった、一旦引くぞ。ランカとヤッツで、シバケンを運んでやってくれ。」

「でも、それじゃあ、ララギルさんはどうするんだよ?」

「オレのことは気にするな。少しの間なら持ち堪えられる。仔オークの注意を集めてるから、気にせずに退がれ。だか、ジャーモンさんに回復してもらったら、2人はすぐに戻ってきてくれよ。シバケンは無理するな。」

「わかった。ララギルさん、すぐ戻るから、堪えてくれよ。シバケンさん、二人で抱えるから、ちょっと乱暴だけど、行くよ。」


 シバケンを抱えるように3人が退くのを横目に見ると、ララギルは目を大きく見開いた。

 と、口から粘性のある液体を放出した。

 周囲の仔オークに降り掛かる。

 液体のついた箇所が、シュウシュウと焼けるように爛れる。

 爬人特有の攻撃で、口から強酸性の唾液を放出したのだ。

 ギャーと悲鳴をあげる仔オーク目掛け、的確に矢が打ち込まれる。

 ララギルの周囲の仔オークが一斉に倒れ、それを見ていた仔オークが怯む。

 シバケンを抱えた二人の元に、ミナとジャーモンは急いで駆け寄る。


「すいません。一瞬気が遠くなっただけで、怪我はないと思います。早く戻らないと、ララギルさんが。」

「シバケン、落ち着きなさい。ララギルの事は気にせず、まずは頭を見せて。」

「オレは戻るぞ。ヤッツは腕の傷治してもらえよ。」

「ランカさん、ちょっと待って。もう一度魔法かけておくわ。」


 気付くとヤッツは左手から血を流していた。

 ジャーモンはぶつぶつと呟きながら、掌をシバケンの頭に当てる。

 ほのかにその周りが光を発する。

 ぼんやりとした頭の中の霧が晴れたような爽快感があった。


「もういいでしょう。ご自身で言うように、あまり深傷ではなかったようですね。でも、無理は禁物ですよ。こちらから見てもあの一撃は危なかった。気を付けて下さいね。」

「シバケンさん、ゆっくり休憩はさせられないけど。」

「ええ。ご心配お掛けしました。大丈夫です。それじゃ、ララギルさんのところに戻りますね。」

「シバケンさん。オレも後からすぐ行くから、先に行っといてくれよ。」

「ええ。ヤッツさんありがとうございました。それじゃ、先にあっちに行ってますね」


 ミナから再度《風の護り》をかけてもらい、シバケンは戦場を目掛けて駆け出した。

 興奮のためだろう、気が昂って、痛みも疲れもさほど感じていなかった。

 さっきは数に押され、狙おうとする足元ばかり見ていたため、頭の上からの攻撃に全く意識がいっていなかった。

 ヤッツ達が助けてくれなかったら、命は無かっただろう。

 しかし、不思議と恐怖は感じていなかった。

 むしろ、困難に立ち向かう気持ちの昂りの方が強かった。


 懐から痺れ薬の瓶を取り出し、金棒のL字になった鉤爪にたっぷりと塗る。

 どれだけ効くのかわからない。

 が、やって損はないだろう。

 ララギルとランカの元に駆けつける。

 さすがのララギルも動きにキレがなくなってきている。


「シバケン。もういいのか?」

「はい。ご心配お掛けしました。もう大丈夫です。」


 襲いかかる仔オークの太腿に金棒の先端を突き刺す。

 すかさず抜き取り、ほかの仔オークの肩口に叩き込む。

 やられた仔オークが、立ち止まって不思議そうに傷口をみる。

 ん?どうしたんだ?

 痺れ薬が効いているのだろうか?


 続々と周りから仔オークが襲いかかってくるので、効いているのかどうかも確認出来ないまま、ただがむしゃらに金棒の先端を振り下ろしていった。


「シバケンさん、終わったよ。ここら辺のは片付けたみたい。やっと中盤戦ってとこだけど、ちょっと休憩だね。」


 しばらくしてから、ヤッツの明るい声に、やっと現実感が戻ってきた。

 ララギルとランカも駆け寄ってくる。


「シバケン、大丈夫だったか?」

「ララギルさん、おかげさまで。足を引っ張っちゃってすいません。」

「そんな事ないさ。逆に、今何をしたのか聞きたいぐらいだ。」

「えっ?」

「気付かなかったのか?お前が殴った後の仔オークが、急に大人しくなったんだよ。そう思ったら、殴られた仔オークの周りの仔オークが、そいつの方に向かって共食いを始めたんだ。」

「何で?」

「それをオレが知りたいんだ。そっちに気を取られてる隙に、奴らを仕留める事が出来た。」

「痺れ薬、、、かな?」

「ん?どういう事だ?」


 これです。といって痺れ薬の瓶を出す。

 「これはウチのカカァが」とランカが言ったところを見ると、あの武具屋はランカの店だったのだろう。

 これこれ、と事情を話すと、ランカとララギルの2人は不思議そうに首を捻った。


「ウチのは特別な調合なんてしてねぇよ。ナンゾ草の根とバイナル茸の粉末、あとは鬼蜂の毒を混ぜたもんだ。」

「聞く限り、ごく普通だな。痺れ薬にオークを狂わせる効果があるなんて、聞いた事ないけどな。それに、これは痺れ薬といっても、野鼠とかの小動物用で、魔物相手に使うもんじゃないから、誰も気付かなかったのかなぁ?」


 知らなかった。

 魔物用の痺れ薬ではなかったのか。

 知らない事とはいいながら、変な話になってきた。

 とはいえ、あんまりのんびりもしていられない。


「皆んな見てよ。オークもだいぶ討伐されてるみたいだよ。それに、アルゲリッチさんがスゴイよ。中央付近の仔オークを一手に引き受けてる。」


 ヤッツは目を輝かせて見ている。


「ホントだ。アルゲリッチさんとヌブーさんが加わってくれなかったら、仔オーク部隊は危なかったかもしれませんね。」

「ああ。だけど、肝心の『緑毛』はまだ討伐されてないみたいだな。」

「、、、すごい戦いですね。」

「初めてかい?冒険者になって日が浅いから無理も無いか。ああいう戦いを見て、オレは冒険者諦めたってのもあるな。オレも4級までいってたんだけど、そこから上はどうしても行けなかった。せいぜい3級の補佐程度の仕事しか無理だったよ」

「それは?」

「一言で言えば、易きに流れたんだな。どうしてもやり易い依頼に目がいくし、小銭が懐にあれば依頼は二の次になっちまう。シバケンも、これから冒険者になるんだったら、努力を怠らずにランクを上げるのも一つだし、自分の出来る事をコツコツ地道にこなすってのも有りだ。もちろんのんびり気の向くままの冒険者稼業ってのもな。人それぞれのやり方ってのがあるのさ。そういう意味では、アルゲリッチさん達と知り合えたってのは財産だよ。しっかり生き様を見ておきな」

「ララギルさん、珍しいね。オレそんな話初めて聞いたかも。」

「ヤッツにはピッティングさんっていう目標もあるし、村を守る使命も持ってる。それで充分だよ。オレみたいな冒険者崩れの思い出話なんて、酒の上の座興にしかならないよ。」

「酒かぁ。帰って早く一杯やりてぇよ。」


 唐突なランカの呟きに、4人の顔に笑顔が浮かぶ。


「さぁて、そろそろ行くか。」

「はい。」

「痺れ薬、よかったらオレの剣用に貰っていいか?」

「オレのもいいかな。ランカさんにも、付けようよ。」


 瓶を皆で使い回し、すっかり空になった。

 効果があるかないかも定かでない痺れ薬を、皆で使い回すという、ただそれだけなのにより強固な一体感が感じられた。


「オークも順調に減っている。勢いはこっちにある。行くぞっ!」


 4人が一気に飛び出した。

2022.10.30 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.8.20 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ