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002 付いて行ったはいいけれど

 シバケンは手に先ほどの木の棒を二本持ち、もう片方はヒューモの手を握っている。

 結構険しい道ではあるが、ヒューモは疲れた顔一つ見せずに、無邪気に歩いている。


 ガイエンの方もそうだ。

右足を引きずりながらも、一番先をずんずん進んでいる。

 シバケンの方がついて行けていない。

 息を切らしながら、ガイエンの背中について行く。

 ヒューモは笑いながら、シバケンの手を引いて歩く。


「あとちょっとだから、頑張ってね。」


 ヒューモは励ましの声をかける。

 ガイエンは時々後ろを振り返り、息を切らして汗を流しているシバケンの方を、やれやれといった様子で見ている。

 歩くペースを落とす様子はない。


ハアハア・・・ハア


 息がどんどん上がっていく。

 地方都市のため、出勤は自家用車だ。

 営業も営業車だ。

 さらに、3階以上はエレベーターを使っているツケが思わぬところで出ていた。

 森に入った途端に山道をズンズン進み始めたので、肝心の仕事の話どころではなかった。


「着いたぞ。」


 ガイエンが立ち止まる。

 シバケンはどこまで連れてこられたのかと、前を見る。


「ひっ」


 ガイエンの目の前の草叢に、死体が4つ横たわっている。

 死体の周りには血溜まりが出来ていた。


「これっ。。。」


 シバケンは思わず絶句する。

 中学生の頃に祖父母が天寿を全うし、社会人になってから突然の病で父親が亡くなった。

 人の死に接したのは、それ以来だ。

 しかも、他殺体。

 犯人はおそらく目の前の老人だ。


「そのままに打ち捨てておくのも勿体ないと思っておったが、ヒューモ様のおっしゃる通り、お主と出会えたのが好都合だ。ワシはまず奥の男を見るから、お主はそこの赤毛の男を見てくれ。使えるかどうかは別にして、身につけているものを、まずは広げるぞ。」


 死体の身包みを剥ぐ、という事か。

 本気か?

 異世界だからって、そんな事して良い訳は絶対無いはずだ。

 この二人が極悪人である可能性を疑ってみる。

 人を射すくめるガイエンの視線には、たしかにヤバい雰囲気は感じられた。

 これは、タイミングを見て離れないと、自分もお尋ね者になる可能性もゼロじゃない。。。


「ボクはこっちね」と言って、ヒューモも身包みを剥ごうと死体に近付く。

 シバケンは、信じられないといった表情で2人の方を見る。

 ヒューモは不思議そうな顔でシバケンを見返した。


「何を怪訝そうな顔をしている。」

「えっ、いや、死体が。。。」

「死体がどうした?死体を初めて見ると言う訳ではあるまいに。おかしな奴だ。」


 口を半開きにして頷くシバケンを見て、


「何と。まさか、初めてとはのう。いい歳をしておるというのに。最初に会った時から変わった奴だと思ったが、貴様はホウケか?」


 ほうけ、、、?

 呆け、かな?

 確かに今の自分は呆けたみたいになってますけど、いきなり死体を見せられたら、こんな反応になるでしょ、普通は。

 今でも必死で吐きたくなる気持ちを抑えてますよ。


「ガイエンさん、ほうけって何?」

「ん?この地方の昔話にはよく出てくるんですよ。放家と書くんですけど、全く記憶をなくして、山を彷徨っている者の事を言うんですよ。こやつもその口かもしれませんね。まぁ、昔話では、山に居付いて山人となる者もいるといいますけど、大半は獣に食われるそうですよ」


 ガイエンは意地悪そうな笑みを浮かべ、シバケンを見やる。


「たしか、山人はそこらに生えてる草を主食とするそうだが、さっきはその練習か?美味かったか?」


 さっき食べた草の味が口に広がり、顔をしかめる。

 ガイエンはさらに意地の悪そうな顔でシバケンを見ている。


「ガイエンさん、あんまり虐めちゃ可哀想だよ。で、シバケン。ホントに放家なの?どこから来たとか記憶ないの?」

「いえ。。。」


 異世界からの転移者だとは、言い出しにくかった。

 とはいえ、自分を記憶喪失と思って貰えているのは好都合だった。

 この世界の事で、聞きたい事は山ほどある。

 しかし。。。

 と周りに目をやると、血溜まりの中に死体が4つ。

 まずは彼らの素性がもっと気になる。


「記憶は。。。ほとんど無いです。おかしな事を聞くかもしれませんけど、いいですか?」

「うん、いいよ。そんな事気にしないで、なんでも聞いてよ。」

「ありがとうございます。それじゃ、遠慮なく。まず、これは誰が??」

「ガイエンさんだよ。こいつらがボクを狙ってたからね。」


 サラリと、スゴい事を言う。

 小学生ぐらいの男の子が言うセリフじゃないぞ。


「えっと。。。狙われてるの?盗賊に襲われたとかではなくて?」

「うん、そうだよ。だから2人でタランテラ市にむかっているところ。」

「タランテラ市?」

「ワシから説明しようかの。言葉はわかるみたいじゃが、ここがどこかはわからないようだの。ここはミモナ皇国のタランテラ郷、ゴモ村の近くじゃ。郷都のタランテラ市までは、まあ3日といったところかの。今の話の通り、事情は伏せるがヒューモ様のお命を狙っておる者がおる。まずはこれからゴモ村の拠点に行き、明日の朝からタランテラ市に向かう予定じゃ。ここまではよいか?」

「、、、はい」

「で、貴様には此奴らの荷物から金目の物をゴモ村に運んでもらう、どうじゃ、簡単な仕事だろう。」


 いやいやいや、肝心な点が抜けてるよ。


「彼らは誰なんです?あと、死体の懐を漁るのは、ちょっと、、、」

「ん?此奴らか?“イヌゥの磔刑”の刺客よ。それに、死体の懐を漁る事が何かあるのか?此奴らが金を持っていたら、それを使うのは道理であろう。使える道具があったら、それもまたしかりじゃ。」


 この世界では、そういうものなんだろうか。

 たしかに、ゲームでも敵を倒すと経験値と金が手に入っていた。

 だが、現実をそう割り切れるものではないが。


「ちょうどよい。これはわかるか?」


 死体の懐から財布と思われる皮袋を取り出し、ガイエンは地面にその中身を広げた。

 金貨や銀貨と、巻紙が出てきた。

 当然見た事もない。


「お金、ですよね?でも、見た事の無いお金です、巻紙の方はわかりません。」

「金という事はわかるのか。で、こっちは巻紙、と申すか」


 ガイエンは驚いたように巻紙を開いて見せた。

 名前のほか、色々と細かく文字が書かれている。

 会話が出来るのと同様に、文字を読む事は出来た。


「身分証だ。形は違えど隣国の東タバータやザルツベルも同様の身分証は発行されている。これが無いと交易はもちろん移動すら出来ないからな。」


 パスポートのようなものか。

 当然、健康保険証や自動車の免許証などはないだろうから、この身分証がない事は、どの国で暮らすにしてもこの世界で生きるために相当なペナルティになりそうだ。

 暗然とした気持ちになる。


「今言った国の名に聞き覚えは?」

「国の名?ザルツベルとか、ですか?」

「そうだ、ザルツベルに、東タバータ王国。あるいは神聖タバータ教国やオーリントンはどうだ?」

「いえ、まったく。」

「そうか、まあ予想はしておったが、どれも聞き覚えが無いか。とはいえ、時期的にはよかったかもな。ザルツベルは去年、東タバータからの侵攻で滅ぼされてる。そこからの難民といえば身分証を再発行の口実にはなるじゃろ。」


 身分証は再発行されるのか。


「もちろん、いくら難民といっても、そうやすやすとは再発行は出来んぞ。だが、この国で信用のある者が保証人となったら別だ。例えば、ワシらのようにな。さぁ、それはさておき、荷物持ちの仕事を手伝う気はあるか?」

2022.9.3 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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