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026 ワトカ②

「さてと。」


 アルゲリッチは注文し終わると、改まってシバケンとシマノフスキの顔を見た。

 そして、おもむろに机の上に革袋をドシリと置いた。

 その音から中身は金と知れた。


「2人とも、ホントにお疲れさん。いろいろあったが、何とか無事に終わったな。まぁ、最後の襲撃には腑に落ちない点もあったけどよ。さっきギルドで完了の手続きも終わったから、これで依頼は終了さ。2人には世話になったね。これは報酬の日当20,000ガンで、ゴモ村を出て6日間の2人分で240,000ガンだ。で、こっちは襲撃された時の戦利品で、ジャリも合わせてきっちり6等分して、一人当たり52,500ガン。確かめてくれ。それとは別に、この頭の傷の薬と包帯代を出すよ。」

「そんな。」

「何度も言わせるなよ。アタシらの方が稼ぎは良いんだから、遠慮する必要はないさ。金粒1顆(100,000ガン)で足りるか?」

「いえ、そんなには。薬とかを色々まとめて80,000ガンでしたから。」

「そりゃ、マーゴからの特別価格だ。普通だったら、とてもじゃないがそんな値段じゃ買えやしないよ。ほら、金粒1顆渡しとくよ。」


 シバケンはぎっしり金の詰まった皮袋を手に取った。


「明日はどうするんだ?またいつもみたいに土産物を買いに行くのか?」

「いえ。明日の朝荷物を船に載せるみたいですから、少しだけイルナの手伝いをしてあげようかと。」

「はっ?手伝い、って、タダで仕事するつもりか?」

「ええ、まぁ。とはいっても、少し手伝うだけですよ。それより、イルナと最後のお別れをしようかと思って。」

「はっ、そりゃ物好きなこった。」

「お二人は?」

「アタシらかい?特に決まってはいないけど、まずはゆっくり休みたいね。昼前に起きて、旨い飯を食って、考えるのはそれからだね。冒険者ギルドに顔を出してどんな依頼があるのか見てもいいし、街をブラブラするだけってのもいいしな。」


 さすがに4人とも疲れているとみえて、暖炉と酒の力で身体の中と外の両方が温まってくると、自然と食事はお開きとなった。

 シマノフスキとの2人部屋の寝床には、植物の繊維を編み込んだ敷物が敷かれており、ベッドに横になる頃にはすっかり瞼が重くなっていた。


「シマノフスキ、長旅お疲れさま。襲われたり、雨だったりして、なかなかに大変だったね。それに、またいろいろと助けられちゃったね。温石はみんな喜んでたし、ホントにありがとう。頭痛いのは、よくなった?」

「うん、大丈夫。」

「ならいいけど、明日の朝イルナを手伝うのは、別に頼まれた仕事って訳じゃないんだから、眠たきゃ寝てていいからね。」

「ううん、一緒に行く。」

「そっか、わかった。それじゃ、午後からは、街を見てみようか。港町だから珍しいものもあるだろし。保存が効くようなら、お土産とかお遣いの品ももう買っちゃってもいいしね。」

「カンナとマーゴにお遣い頼まれた。」

「カンナさんのコブナマコだっけ?こっちで食べれたりしないかな。美味しい物だといいね。あと、珍しい食材とか料理の話、仕入れてくると喜ばれるかもね。」

「美味しい物、食べる。」


 枕頭の灯りを消し、窓から微かに差し込む月明かりのみの部屋で、ベッドに横たわりながら取り止めのない事を話しているうちに、どちらともなく、いつの間にか寝入ってしまった。

 依頼が無事に終わり、ホッとしたのもあるだろう。

 まだ寝るには早い時間ではあったが、夜中に起きる事なく、気付いたのは朝だった。

 窓から差し込む陽の光に、シバケンとシマノフスキは共にベッドから、身身体を起こした。


「んんー。あっ、シマノフスキも起きた?」

「うん。」

「おはよう。よく寝られた?」

「おはよう。よく寝た。」

「そうか、そりゃよかった。ふぁーあ。依頼が終わったとなると、急に身体が痛くなるね。」


 シバケンは「よっこいしょ」とベッドを降りると、大きく伸びをした。

 慣れない長旅と、緊張で身体がこわばっていた。

 うー、だか、むー、だか、言葉にならない奇妙な声をあげてストレッチをするシバケンを、シマノフスキは不思議そうに眺めていた。

 一通り身体を伸ばすと、やっと少しばかり頭がはっきりしてくる。


「今から下降りるけど、どうする?まだ寝てる?飲み物ぐらいだったら、部屋まで持って来てあげるよ。」

「一緒に行く。」


 商人ギルド紹介の宿という事もあり、冒険者はシバケン達のほかに一組いるだけで、あとは小商いの行商人の客が多かった。

 マドラーナのように、食料品や装飾品、薬の素材や日用品まで多岐に渡る商材を扱うのではなく、装飾品なら装飾品というように、多くはアイテムを絞った担ぎ商人のようだった。

 食堂はそれら行商人で賑わっており、シバケンとシマノフスキは初老の愛想のいい男と相席となった。

 男は皿やコップなどの、木製食器を扱っているという。

 話好きの男のようで、この街が初めてだというシバケンに、名物やら旨い店やら、土産は何がいい、などとひとしきり喋るだけ喋ると、「おっと、商売に遅れちまう」と慌てて宿を出ていった。

 シバケンは呆れたようにその後ろ姿を見送った。


「賑やかな人だったね。そういえば、アルゲリッチさん達の姿は見えないね。」

「あの2人なら、少し前に起きてきて、硬パンにハムとチーズだけを頼んで、部屋に持って行ったよ。今頃はベッドで寝ながら食べてるんじゃないか?」


 皿を下げに来た給仕が口を挟んだ。


「そっか、のんびりしてるんだね。シマノフスキ、それじゃ、ボクらもそろそろイルナを手伝いに行こうか。」


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