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023 依頼達成、からの

「そろそろ乾いたかな。」


 ターラの声に、シバケンはビクッと目を覚ました。

 

 鬼蜂は、食感はフワトロで味はエビ。

 そんな感じで、ビックリするぐらい旨かった。

 ターラが準備してくれたホットミルクも、いつも飲んでいた牛乳より濃厚で、しかも体力回復の香草も入れてあったという。

 焚き火に当たっているうちに、シバケンはついうとうとしてしまったようだ。

 ターラの言う通り、服はほとんど乾いていた。

 聞くとターラが魔法を使って乾燥を促進したのだという。

 この手の魔法は生活魔法と言われ、広く使われているとの事だった。

 魔法を覚えるのに年齢は関係ないとの話なので、生活に余裕が出たら魔法も覚えようかな、などと考えているうちにウトウトしてしまったようだ。


「ターラちゃんの魔法のおかげで、私の方は十分乾いてます。」

「よかったわ。わたしも乾いたわ。お爺さま、二人は行けるよ」

「よし、それじゃ帰るとするかの。」


 再び荷物をいっぱい積んだ荷車を牽きつつ、帰路に着く。

 ぬかるみに車輪を取られないよう、慎重に進む。

 二人も後ろから押そうとしてくれたが、車輪が取られるような事もなく、危なげなく湿地から抜ける事ができた。

 そういえば、荷台に積んだ見た目の荷物量に比べて、牽く時はそれほど力を入れずに済んでいる。

 しかも、車輪を石に乗り上げても、荷物が崩れたりしないかった。

 これが《牽引》のスキルなんだろうか。


「面白いな。冒険者というと戦闘に特化した連中が多い中で、非常に重宝がられるスキルだろう。」

「アタシたちも、またシバケンさんにお願いするね。」


 などと、3人で話しながら歩いていると、


「ちょっと待て。」


 急にクレンペラーが脚を止めた。

 ターラの顔も引き締まり、いつでも飛び出せるように腰を落とし身構える。

 と、遠くでガサガサという草叢をかき分ける音と、何人かの人声が聞こえてきた。

 何を言っているかまでは聞き取ることは出来ない。

 シバケンも、自然と金棒を握る手に力が入る。

 音はまだ遠くだが、クレンペラーはゆっくり木陰に移動し、身体を低くし身を隠すようにシバケンへ指示を出す。

 ターラは器用に木の上に登り、クレンペラーは音もなく草叢を分け入った。


 ガサガサという音だんだん近くなってくる。

 と同時に、状況が朧げながら掴めてきた。

 追う物と追われる者、といったところか。

 心臓の鼓動が大きく聞こえ、自分の息遣いが耳に響く。


「くるよ!」


 樹上から声が聞こえたと同時に、草叢から何かが飛び出してきた。

 ターラの短剣が誤たずに襲う。

 一匹仕損じた。

 緑色の猿のような生き物が、一瞬戸惑ったようにして、身を屈めているシバケンに目をつける。

 ギェェ、という奇声をあげて飛びかかる。

 シバケンは、金棒で必死になってそれを防ぐ。

 鼻をつく悪臭にも、顔を背ける事は出来ない。

 長く伸びた爪がシバケンの腕に食い込み、そこから血が滲む。

 シバケンは腹部を思い切り蹴り飛ばし、それを振り払う。

 話に聞いた、これがゴブリンか。

 後方に飛ばされたゴブリンは、すぐに体勢を整えて、身を低く構え飛びかかろうとじっとシバケンを見据える。

 シバケンの額から油汗が滴り落ちる。

 頬を伝う汗を拭った、次の瞬間。

 ゴブリンは地を這うように飛びかかってきた。

 左に転がるようにして、シバケンは必死に躱す。

 すかさず、ゴブリンはシバケンの上にのしかかってくる。

 悪臭を帯びた口を大きく開け、今にも喉元に噛み付かんとするのを、下から必死に抵抗する。

 涎がシバケンに滴り落ちる。

 シバケンは、右手の親指をゴブリンの左目に突き立てた。

 生暖かい感触が指に伝わる。

 ギャャっという絶叫と共に、身体が離れる。

 シバケンは金棒を持ち直し、ゴブリンの側頭部を思い切り殴打した。

 グチャっという嫌な感触が手に伝う。

 ゴブリンは弾き飛ばされ、そこで身体をのたうち回らせている。

 シバケンはふらふらと近くに寄り、ゴブリン目掛けて金棒を振り下ろした。

 ゴブリンが動かなくなったのを確認すると、腰が抜けたようにその場に座り込んだ。

 他にもゴブリンはいたらしく、ターラは樹上から短剣を投げてこれを襲っていた。

 ターラの方も終わったらしい。


「シバケンさん、大丈夫だった?ごめんね。一匹逃しちゃって。すぐに追い討ちをかけようとしたら、他にも3匹いたみたいで。」

「ハアハアハア。。ええ。何とか。」

「怪我してない?」

「おかげさまで、怪我は。」

「ちょっとよく見せて、腕から血が出てるよ。」

「ああ、これは。」

「後で水でちゃんと洗い流さないとダメよ。他にはない?ならいいんだけど。」


「ゴブリン、一人で退治できたね。」

 嬉しそうなターラ。

 善悪ではなかった。

 まして、好きとか嫌いなどという意識にすら登らなかった。

 そうせざるを得なかった。

 自分がいる世界は、そういう世界だという事をシバケンは身に染みて感じた。


 ガヤガヤガヤという人声が近付いてくる。


「ターラ、すまんかったの。」


 クレンペラーが顔を見せた。

 その後ろから、鹿爪らしい顔の6名の男が付いてきている。

 男達は、揃いの黄色く縁取りをされたマントを羽織っている。


「自警団の方がお揃いで。どういう事なの?」

「ワシから説明するよ。昨日の悪い予感があたったんじゃよ。」

「悪い予感って?」

「アルゲリッチが話しておっただろう。あのゴブリン退治、終わってなかったんじゃ。」

「それじゃ。。。」

「昨日は、数の見誤りか、別の集落があるか、はたまた数を減らすほどの何かがあったか、などと話しておったの覚えておるか?事態は最悪じゃ。別にもゴブリンの集落が発見されたが、それと同時に、その村を襲うオークも見つかったそうじゃ。」

「オーク?!」

「数はそう多くないみたいじゃがな。だが、オークに襲われるゴブリンが逃げるように人里まで降りてきておるらしい。今のもそのゴブリンどもよ。オークはまだそのゴブリンの集落で食事を楽しんでおるで、人里に降りて来る事もないだろうが、それも時間の問題だ。次はアンブラ村じゃろうな。」


 自警団の6人の顔が厳しく引き締まる。

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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