表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/253

022 収穫は大量に

 荷台を牽いて声のする方に二人で行くと、大人の身長ぐらいの小山の前にクレンペラーが立っていた。

 足元には鬼蜂の死骸がうず高く積まれている。


「おっきい巣だね。お爺さま大丈夫だった?呼んでくれたらよかったのに。」

「これぐらい問題ないわい。シバケン、その金棒で巣を慎重に崩してくれ。これだけ大きいと、幼虫もたっぷり入っておるじゃろう。麻袋に入れる時は、噛みつかれんように気をつけるんだぞ。」


 金棒を巣に当てがって力を入れると、ゴソリ、と崩れ落ちる。

 あまり硬くはない。

 金棒の先を巣に刺して、作業を続ける。

 ある一点で巣がゴソッと落ち、巣の外壁と共に芋虫が数匹落ちてきた。


「おっ、出てきた出てきた。あの時は馬鹿にしたが、その金棒、思いのほかに使い勝手が良さそうじゃな。その調子で頑張ってくれよ。さてさて、ターラ。お前さんはあっちの解体を頼む。」


 クレンペラーは少し向こうの藪を指さした。

 みると、ガリガリに痩せて、頭に瘤のような角の生えた生物が横たわっていた。

 大きさは牛ぐらいか。

 首周りから血が大量に溢れていた。


「お爺さま、ジャージャじゃないの?!」


 あれがジャージャか。

 依頼を請ける時に、ギルドのアミナさんが懸念事項として挙げていた筈なのに。

 ちょっと目を離した隙に、鬼蜂の巣とジャージャを仕留めるとは、クレンペラーは相当な腕前なんだろう。


「お爺さま、ジャージャは4級の冒険者がパーティで討伐するレベルの獣よ。それを一人で相手にするなんて、無茶しないで。」

「いや、すまん。鬼蜂を相手にしておったら、背後からつがいで来おってな。2人に声を掛ける間も無かったわい。まずは気性の荒いメスの方を仕留めておるうちに、残念な事にオスは逃してしまったわ。」


 4級がパーティで討伐する獣がつがいで襲ってきたのを、無傷で返り討ちにしたという。

 しかも、その間にも鬼蜂は襲ってきていただろうに。


 前言撤回。

 相当な腕前どころか、ヤバいレベルの遣い手だと思われる。

 しかも底が知れない。

 ずっと一緒にいる孫のターラも、クレンペラーの一言に唖然としていた。

 当のクレンペラーは、逃したオスを残念がっている。


 「危ないから次からは1人で行かせない」などとぶつぶつ言いながら、ターラは解体を始めようとした。

 自分も解体を覚えたいので、さっさと幼虫採取を済ませようとペースを上げる。

 すっかり巣をばらした時には麻袋3つ分の幼虫が採れた。

 うねうね動く袋を慎重に荷台に乗せ、ターラの元へ急ぐ。

 ターラは、腹を割き内臓を出したところだった。

 自分より大きな体の獣だというのに、それをものともせずに淡々と作業を行っている。

 肉は食用に向かないというので、内臓は近くにうっちゃっている。


「ターラちゃん、手伝いますよ。」

「シバケンさん、ありがと。なら、首を切り落としといて。」


 昨日の食事会の時に、「ターラさん」と呼ぶシバケンを気味悪がって、ターラからの希望で「ちゃん」付けで呼ぶようになったのだ。

 こっちの気持ちを察して、ターラは簡単そうな仕事を振ってくれた。

 実際に動物の首を落とすのが簡単かどうかは別にして。

 シバケンはナイフを取り出すと、クレンペラーの刀痕に刃を当て、首を切り落とそうとし力を込めた。


 硬い。


 砥石がわりにするというだけあって、ジャージャの皮はヤスリのようにざらざらしていて、しかも弾力があった。

 ナイフを当ててもうまく切れない。

 手は血でぬるぬる滑る。

 シバケンが悪戦苦闘している間に、ターラの方は腹から皮を剥ぎ始めていた。

 皮下脂肪が付いていると腐敗の原因となるので、薄く削ぐような作業も慣れたものだった。

 クレンペラーは、シバケンの悪戦苦闘ぶりを見守りながら、鬼蜂を麻袋に詰めていた。


 自分一人でやった方が早いのに、あえてシバケンを手伝わせたため、解体が終わった時は片方の日はもう沈みかけていた。

 この世界に来てからの経験からすると、あと6時間ぐらいで日が暮れるだろう。


「ご苦労さん。思った以上の収穫だったのう。重畳重畳。近くの小川で血を流して、遅くなったがメシにしようか。」


 シャサの花の束にゼーリウム、鬼蜂の幼虫と成虫、それにジャージャの皮が、荷車いっぱいに積まれている。

 ずっしりとした重さを感じる荷物を崩さないよう気を配りながら、二人から離れないようにシバケンは荷車を牽いていく。


 小川は思ったよりすぐ近くにあった。

 ターラもシバケンも、取るものも取り敢えず服のまま小川に入る。

 川の水が赤く染まる。

 シバケンは、水に潜り顔をゆすぐ。

 ターラは潜るような事はせず、川の水を手にすくって顔を洗う。


 クレンペラーは、薪を拾い火をつける。

 その間に、先程取った鬼蜂の成虫を三匹取り出し、川の水で軽く洗い、羽と足を毟り、尻尾にある針を削り取った。

 そして、適当な木の枝をつき刺し、先程熾した火の傍に準備した。


 周りの水が赤く染まらないようになったら、二人は川から上がってきた。

ターラは鎧を脱ぎ、乾かすように火のそばに置いた。

 また、自分も火の近くに腰を下ろした。

 シバケンは鎧などは着込んでいないため、そのまま火の傍へ。

 認めたくはないが、鬼蜂の焼ける香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。


「時間的にはまあ順調に終わった方かの。収穫の方は上々じゃ。アンブラ村へは暗くなるまでに戻ればよいから、お前さんたちの服が乾くまで、ゆっくり休憩といこうかの。」

2022.9.18 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.8.20 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ