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020 腹が減っては、、、

 『マーズ亭』には既に6組ほどの先客がいたが、大きな店なのでまだテーブルには充分過ぎるほどの余裕があった。


「おう、こっちだ。」


 店に入ると、クレンペラーが手招きをしているのが目に入った。


「ワシも今着いたところだ。これから注文するんだが、シバケン、お前さん苦手な物はあるか?」

「いえ、特には。」


 虫は嫌です、とは言いにくかった。


 「わかった。それじゃ」といって頼んだのが、ギャパンの串焼き、野菜サラダ、パン、きのこスープ、それに、麦酒を3杯だった。

 ターラみたいな少女も飲んで良いのかしら、と、訝りはしたが、麦酒というその飲み物に口を付けてすぐに納得した。

 気の抜けたのビール、というか、微炭酸の麦茶のような味で、麦酒とは名ばかりでアルコールはほとんど含まれてないだろう。

 ただ、さほど冷えてはいないのに、半日炎天下で歩いた体には心地よい喉越しだった。

 昔の癖で、ゴクゴクゴクとコップの半分ぐらいまで一気に飲んでしまった。


「おっ、酒好きというのも頷けるわ。麦酒では、物足りなかろう。」

「依頼前なんだから、今日は麦酒だけだからね。あと、飲むだけじゃなくて、ちゃんと食べなきゃダメよ。」

「はっはっはっ。母親に似て口うるさくなってきよったわ。」


 酒飲みの同行者が出来て、クレンペラーは上機嫌のようだった。

 ターラも終始笑顔を浮かべている。


「ほれ。ターラも言うておる、串焼きも熱いうちに食え。」


 シバケンは、ギャパンの串焼きに手を伸ばす。

 弾力のある赤身肉は、噛むほどに旨みが広がる。

 周りに振りかけてあるハーブと塩の具合もいい。

 麦酒で流し込む。


「美味しいでしょ。」

「ええ、美味しいお肉ですね。もう一本いいですか?」

「もちろん、こっちも美味しいわよ。」

「これは?」


 薄切り肉を一口大に丸めた物が、4つ串に刺さっている。


「ギャパンの脛肉を薄く切ってあるの。薄切りにしてあるから、硬くないわよ。お爺さまの大好物よ。」

「旨いぞ。硬い脛肉だが薄く切っておるから、柔らかくてな。しかも一番動かす部位だで味が濃い。」

「ホントだ。しっかり噛みごたえがあって、さっきの串焼きとはまた違った味わいですね。」

「気に入ったみたいでよかった。でも、野菜も食べなきゃ。ここはキノコスープも名物なんだよ。」

「キノコたっぷりで、ホントに美味しそうですね。」


 一匙口に運んで驚いた。

 ホントに旨い。

 スープの具はキノコだけだが、歯応えのあるキノコや、滑りのあるキノコ、ちょっと癖のある香りのするキノコなど、何種類も入っていて口楽しかった。


「前に女将さんに聞いたんだけど、ギャパンの骨を煮たスープと、キノコと塩だけなんだって。あたしこの店来たらいっつもこのメニューなんだ。」


 ターラもスープを飲みながら、楽しそうにシバケンに話し掛ける。


「良い飲みっぷりだね、クレンペラーの爺様。」


 野太い女性の声がクレンペラーに向けられた。


「あっ、アルゲリッチさんとヌブーさん。」

「おう。珍しいな。主らもこの村に来ておったのか。」

「たまたま依頼でね。ターラ、久しぶり。こちらは初めましてかな?」


 猪の獣人かと思うような面相の巨漢の女と、背が高く病的に青白い顔付きの華奢な女という、対照的な2人連れが話しかけてきた。


「こっちには依頼かい?」

「うん。明日の朝、シャサの花の採取に。二人は?」

「ゴブリン討伐で自警団の補佐にね。30匹ぐらいの小さな集落だったよ。まだ出来たばっかりじゃないかな。こっちに怪我人も無く、無事に制圧完了。自警団の連中と一緒にゴブリンの血を流して、その足でここに直行ってわけ。」

「ゴブリンの集落かぁ。早めに発見できてよかったね。報酬は討伐数?それとも成功報酬?」

「もちろん成功報酬だよ。たった30匹だったからね。討伐数だったなら、とても呑みになんて来られないよ。ウチらは明日ゴモ村に引き上げるけど、ターラ達は明日の依頼頑張りなよ。」


 と笑いながら、「女将さん、こっちにも麦酒を」と言って向こうのテーブルに腰をかける。


「あの人たちは、たしか今は3級の冒険者だったかな。大きい人がアルゲリッチさん。《怪力》のスキル持ち。痩せた無口の方の人はヌブーさん。魔法使いよ。前に一緒に依頼をして、それ以来仲良くしてるの。でもお爺さま、あの人たちが請けた依頼って事は、低くても4級でしょ。その割に30匹のゴブリンの集落ってのはおかしいよね?自警団の補助で4級の冒険者を雇うんだったら、100匹ぐらいはいないと、間尺に合わないんじゃないかな。」

「そうだな。だが、考えられない事もないだろう。例えば、自警団がこの案件に人数を割けなかったか、物見が規模を見誤ったか、まだ別の集落があるのか、これはあまり考えたくはないんだが、30匹まで減るような何かがあったか。。。まぁ、考え出したらきりがないわ。ワシらはワシらで、明日の依頼をしくじらんように気を引き締めていくだけじゃ。」

「私も初めての依頼ですから、お二人の足手纏いにならないように、頑張ります。」

「フフッ。シバケンさんは真面目だね。」

「ホントにのう。依頼はワシらがするで、お前さんは荷物を運ぶだけじゃ。初依頼だと気負わず、もう少し肩の力を抜けばよいぞ。ほれっ、グラスが空になっておる。女将、麦酒を3杯追加じゃ。」


 クレンペラーとターラとの食事で、初依頼の緊張もしだいにほぐれていった。

2023.5.4 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

2023.8.20 誤字訂正 ⇒ 誤字報告ありがとうございました

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