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016 再び木馬亭

「シバケンさん、いらっしゃい!」


 シバケンはシマノフスキを連れて、マーゴの店を出た足でそのまま“木馬亭”に向かった。

 店に入ると、これから食事時になるという忙しい時間にも関わらず、カンナは目敏くシバケンの姿を認めた。


「昨日は遠慮もせずに変なお願いをしちゃってごめんなさいね。あの後、店に戻って話をしたら、冒険者さんに好意にかこつけて安易にお願いなんかするんじゃ無い、っておじさんに怒られちゃったわ。シバケンさん、無理に仕事をさせちゃってごめんね。」

「いえ、そんな。気にしないで下さいよ。それに、すごくいい出会いがありましたから。」


 シバケンは麦酒を呑みながら、ドルとマーゴに出会って一緒に採取に向かった顛末を語った。

 グゥドゥの襲撃の段になると、「まぁ」とカンナは心配そうな表情を浮かべた。

 そして、怪我もなく無事に撃退した事と、多くの収穫があったことを我が事のように喜んでくれた。


「それで、これがその時に獲ったエルバーです。お土産に貰ってきました。」


 と、シバケンは満を持してエルバーの肉を机に出した。


「まぁ、エルバーですって?」

「おいおい、そんな高い肉いいのか?ギルドに卸せば良い金になるだろうに。それに、こないだスナドラゴンの肉を貰ったばっかりだってのに。」


 厨房からわざわざ大将が出てきて、机に出したエルバーの肉を手に取った。

 そして、腹回りの脂の入り具合を見て満足そうに頷きながら、シバケンの顔を伺う。


「大将、これで今日何か作って頂いたらそれで十分ですから、気にしないで下さいよ。今回の依頼で、エルバーの肉以外にも色々と採取が出来たので、今まで以上に良い収入になりましたから。」


 シバケンはドルとマーゴに指導して貰った事と、明後日から色々と教えてもらえるようになった事を伝えた。


「そうなんだ。よかったね親切な人に出会えて。シバケンさん、時々ハラハラするぐらい非常識な時あるから、そんな人に教えてもらえるなら、安心だわ。」

「えっ、そんな非常識だった?」


 なるべくボロは出さないようにシバケンは注意していたつもりだったのだが、付け焼き刃は剥げ易いというか、とっくにバレていたようだ。

 

「そこがシバケンさんの良いところなんだけどね。」


 と、照れ笑いを浮かべるとカンナは逃げるように「さぁ、おじさんエルガー料理手伝うわ」と言って厨房に入っていった。


 ――


 夕暮れとなるにつれ“木馬亭”の中は多くの客で賑わい、酒場独特の喧騒がシバケンの耳には心地よく響いていた。

 シバケンとシマノフスキの前には、エルガーのスペアリブをメインに、エルガーの薄切り肉と野菜を揚げた物に甘酢ソースをかけた料理と、香草のサラダが並べられていた。

 それに合わせるのは、シバケンはアッツ酒。

 シマノフスキはハーブティーを飲んでいた。

 大将のはからいで、“木馬亭”の本日の特別料理として高級食材であるエルガー料理が並んだため、いつにも増して来た客を楽しませていた。


「はい。お待ちかねの内臓の煮込みだよ。臭みをとって柔らかく煮込むのに時間が掛かったけど、凄く美味しいわよ。エルガーの煮込みなんて贅沢な物、ウチのお店で出すの初めてだったから、思わず味見しちゃった。」


 カンナは照れ笑いを浮かべながら、湯気の立つ深皿を持ってきたシバケンの机にやってきた。

 食欲をそそる匂いが、シバケンの鼻腔をくすぐる。


「シバケンさん、どう?そろそろ濁り酒にしようか?」

 

 口に出さずとも、カンナはシバケンの好みを察してくれていた。

 そこがシバケンにはジンと胸に迫ってくる。


「後で来るから、アタシの分も少し残しといてね。」


 人肌に温めた濁り酒をシバケンの前に置くと、そう笑い掛けてカンナは他の客の給仕に向かった。

 エルガーの煮込みという滅多にお目にかかれない逸品に、他の酔客からの注文が重なり、カンナは忙しそうに立ち働いていた。

 熱々の煮込みを口に入れると、それはトロリと口の中でとろけ、シバケンはすかさず濁り酒で流し込む。


「どう、美味しいでしょ?シバケンさんのお陰だね。いつも、ありがと。」


 カンナはそう言うと、皿から一つ摘んで口に入れる。

 「うーん、美味しい」と笑いながら、シマノフスキの隣に座った。

 シバケンの真向かいの席で、カンナは笑顔を浮かべてシバケンを見る。

 シバケンは、その目を見返す。

 酒の力もあって、シバケンは照れずにカンナを見返す事が出来た。


「いつも美味しそうにご飯食べるんだね。毎日こうやってシバケンさんと楽しくご飯を食べられるといいな。」

「そうですね。ここの料理は美味しいから、毎日来ても飽きませんしね。」

「ふふふ。アタシの作った料理も、おじさんに負けないんだから。」

「へぇ。それなら、いつかカンナさんの料理、食べさせて下さいね。」

「あー、その顔は信じてないのね。わかったわ、今度作るから、見てらっしゃい。シバケンさんの好みは分かってるんだから、絶対美味しいって言わせるからね。」


 そして、カンナは隣のシマノフスキの顔を見て、


「シマノフスキ君の好物も知ってるから、楽しみにしててよ。」

「うん。」


 シマノフスキの屈託のない返事に、シバケンとカンナは顔を見合わせて笑い合った。

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